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多様性を知るということ――『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

 編集やライターという仕事だから、さぞ本をたくさん読んでいると思われる。もちろんそうなのだが、それは資料本だったり、今進行中の本の校正紙(ゲラ)を何度も読む、といった仕事がらみのものが圧倒的に多い。

 だから、読みたい本を思う存分読める時間は貴重! ということで、気胸の治療で入院することになったとき、ここぞとばかりに読みたい本を持って行った。その1冊がこの本だ。普段は紙派の私も、荷物をコンパクトにまとめたいため、今回は電子書籍である。

いい意味でカバーに裏切られるノンフィクション

 著者はイギリスのブライトンに暮らすライター(保育士でもある)、ブレイディみかこさん。この本は本屋大賞のノンフィクション本大賞をはじめ、さまざまな賞を受賞しているのだが、最初に書店で見たとき、まずタイトルとカバーがうまいなぁと思ってしまった。

 一見するとノンフィクションとはわからず、差別や貧困といったヘビーな出来事が日常茶飯事の「元底辺中学校」に通う息子さんの学生生活が描かれている。

 やわらかい印象のカバーのおかげで、ノンフィクションにありがちな「カタイ」という先入観を与えず、手に取りやすくしている。軽い気持ちで読みはじめたのだが、中学生になったばかりの息子さんの学生生活には驚くことの連続だった。

「小さな哲学者」に学ぶこと

 日本人の母とアイルランド人の父の間に生まれた自分への人種差別。同じように「非白人系」である同級生も人種差別を受けている。貧しくて食事にありつけない子、制服が買えない子、親から虐待を受けている子ーー日本でも同様の問題は起きているけれども、読んでいて胸が痛くなる。

 しかし、湿っぽさを感じさせないのは、母親である著者のカラッとした性格と、息子さんの聡明さによるところが大きい。

 学校の試験でエンパシー(共感)とは何かと問われ、「自分で誰かの靴を履いてみること」と答えるエピソード。

 いじめられている同級生の話になったときの「僕は、人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。……罰するのが好きなんだ」という言葉は、最近話題の「自粛警察」にも通じるものがある。

 大人顔負けの、この「小さな哲学者」の言葉が、この本の最大の醍醐味ではないか。

いろいろあって当たり前、でいい

 息子さんが小学校高学年になったとき、著者は彼が体外受精で生まれたと説明した。そのとき彼は動揺するかと思いきや、冷静にこう返したという。

「いろいろあるのが当たり前だから」

 それだけ多様な環境に育ってきたということなのだろう。それでも中学校に上がってから、ヘイトをぶつけ合う級友たちを見て彼は悩む。そんな息子に著者は言う。

「多様性はうんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う」

 苦しいときほど、視界が狭くなる。そんなときこそ、「自分のまわり」以外の人たちのことに目を向けなければ――数カ月前にこの本を読み終えたときとは違う感想が浮かんできた。








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