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#20 あなたにとってたくさんの意味を持つ曲

#20 あなたにとってたくさんの意味を持つ曲

これはちょっと難しい。「たくさん」どころか2つの意味を持つ曲すらないし、そもそもテーマの意味が理解できてないから、これまでみたいに「困ったときのテーマ曲解」もできない。

ということで、「2つの立場から泣ける映画」について書こうと思う。

スーパーノヴァ

2021/7/1(木)公開のイギリスを舞台にした作品。実はつい先ほど観たばかりだ。「泣ければ泣けるほどいい映画だ」とも「泣ける映画がいい映画だ」とも言うつもりはさらさらないが、この映画はこれまで観た映画の中で一番泣いた。95分の内、後ろの60分はずっと泣いたり涙を拭ったり堪えたりしていた。

<ストーリー>
共に歩んだ人生を祝福する、愛の終わり方とは

ピアニストのサムと作家のタスカーは、ユーモアと文化をこよなく愛する20年来のパートナー。
ところが、タスカーが抱えた病が、かけがえのないふたりの思い出と、添い遂げるはずの未来を消し去ろうとしていた。
大切な愛のために、それぞれが決めた覚悟とは──。
※引用:映画『スーパーノヴァ』公式サイト

このnoteはネタバレはしていないが、映画の内容に浅くない程度で触れている箇所もあるため、「映画の内容は知りたくないな」という方はここで画面左上の戻るボタンを押していただきたい。

「泣ける」2つの立場

今日のテーマ「2つの立場から泣ける映画」の「2つの立場」はこの映画の私の解釈の場合ーすべてにおいて美しい映画なのにこんなことを書いてしまうと俗な感じがして嫌なのだが(自分でテーマにしたのにどこまでも勝手だ)ー、「深く愛しているからこそ、愛する人から完全に重荷になってしまう前に、完全に変わってしまう前に去りたい旅立つ側(タスカー)」と「深く愛しているからこそ、どんなに変わってしまっても最期まで一緒にいたい残される側(サム)」である。

サムのターンではサムの立場になって泣き、タスカーのターンではタスカーの立場になって泣き、2人のターンでは両方の気持ちになって泣いた。

この映画に類似したテーマを含む素晴らしい作品はいくつもあるが(例えば『私の頭の中の消しゴム』や『世界一キライなあなたに』)、テーマが重なる部分におけるこの映画の特筆すべき点は次の2点だと考えている。

1. 同じような状況になる可能性が格段に高い

先ほど例に挙げた映画でいうと、『私の頭の中の消しゴム』では20代後半で発症した若年性アルツハイマー病、『世界一キライなあなたに』では重度の脊髄損傷による四肢麻痺がストーリーに非常に大きく関わってくるが、これらの症例は稀なケースといって差し支えないだろう(10年以上前の日本国内の推定データしか見つからなかったが、20代後半でのアルツハイマー病患者は450人程度、四肢麻痺の患者は数千人程度とのこと)。

一方、『スーパーノヴァ』のタスカーは若年性認知症とはいえ60代に突入している(おそらく発症したのは50代だが)。2025年には日本の高齢者の5人に1人が認知症になるという予測がある中で、「長年連れ添ったパートナーあるいは家族が認知症になる」状況は十分に身近なものだといえる。

私たちがサムやタスカーになる可能性は、チョルスとスジン、またはルイーザとウィルになる可能性よりもずっとずっと高い、かなり現実味のある話だ。「自分だったら……」と私は考えずにはいられなかった。

2. 決断までの心情が丁寧に描かれている

大切な愛のために、それぞれが決めた覚悟とは──。

95分と短い映画だが、ここに至るまでの心情が本当に丁寧に描かれている。60代という成熟したカップルを主人公にした映画だからこそ「想いが通じる」までのシーンを描く必要がないのもあるが、極限まで対象を絞り込んだ構成(膨らませるところは膨らませているので、決してストーリーはシンプルでも寂しくもない)と、サムとタスカーの人柄や関係性のおかげで、短い尺の中に一切の過不足なく彼らの考えや思いが描写されているのは見事。

いやもう本当に素晴らしい。

私は、観ていてストレスや違和感を覚えない映画を好む一方で、説明や解説めいたセリフを多く含む映画は嫌い(興醒めしてしまうから)、という面倒くさい嗜好を持っているのだが、この映画はストーリーテリングがすごく自然で大変私好みだった(私の好みの話なので、それ以上でもそれ以下でもない)。

すでに公開4週目に入っているため上映している映画館は少なくなってきたが、まだ映画館で公開中だ。気になる方はぜひ。

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