小説「見えないもの達の解明」

第0章 『発足』

私は菊田奈央子。東京都にあるビジネスホテルを経営する会社に就職した 新卒である。このホテルに就職して、 半年が経った。先輩や、支配人、 アルバイト・パートの皆さん優しくて楽しく 働いている。
ただ、一つ不気味に思うことがある。 このホテルは度々嫌な空気を感じることだ。
元々、 私は小さい頃から母の霊感の強さが遺伝し、 霊感が強 い。母も私も別に寺院出身とかではない。だが、旅行先で泊まるホテルや旅館、 観光地などで何度か入 った瞬間に吐き気がしたり、 頭が痛くなることや誰かいると 思い話しかけると居なくなるなどのゾワゾワする経験があ る。
その経験が影響しているのか、 幽霊や妖怪など "目に見えない 存在”に深く、 興味を抱くようになる。成人してもその興味は引かず、 大学生時代には妖怪についての 論文を書き、 大学内で学長賞を貰うほどの成績を残した。
こんな経験をしたためか、大人になると幼少期よりも増して霊 感や、目に見えない存在への好奇心などが強くなっていった。
ただ、このホテルに入社してからは慣れるのに必死だったためか考えないようにしていた。
そんな日々も束の間。 半年になると少し余裕が生まれたこと で、不気味な感じをハッキリ認識出来るような生活を送るよ うになってしまった。

そう思うようになったきっかけの事件が起きてしまった。
そのきっかけの日は、夜勤勤務で推しの先輩社員と一緒に働いていた。
この日は団体客が宿泊予定で私もつい先ほどまでチェックイン作業をしていた。 その作業が落ち着き、 責任者が行う事務処理ををしていた。
ようやく落ち着いたと思ったら、 内線が鳴った。内線には、 "三〇四" と表示されていた。

私はいつも通り、「はい、フロントです。 どうなさいましたか?」と問う。 すると電話相手の女性が「三〇四号室の鳥山なのですが」と答えた。私はすぐさま目の前にあるパソコンで宿泊者リストの中か ら、「三〇四 鳥山」と検索した。すると、検索結果に「三〇四号室 鳥山愛子 鳥山流衣」と表示され た。

おそらく、 夫婦だと思う。 この人達は今日の夕方頃チェックイ ンし、三日後にチェックアウト予定ということも分かった。私は「鳥山様、何かございましたか?」と聞くと、 鳥山様はこう答えた。
「主人とついさっき外食して帰ってきた瞬間に女の人の声がし たんです。 主人も聞こえたみたいで、 聞こえた瞬間急に青ざめ てしまって不気味なので部屋を変えて欲しいのですが、可能でしょうか。」と。

私は首を傾げながら、奥様の話を聞いていた。 この人が冗談を言ってるとも思えず、 新しい部屋を押さえて移 動してもらうことにした。私は現状を確認するため、 移動先のお部屋のカードキーとト ランシーバーを持って三〇四号室に向かった。 先輩社員に「少し、 お部屋に行ってきます。」と告げ、 向かった。

三〇四号室のドアをノックしようとした瞬間にただならぬ空気を 感じた。「ここ、何かいる?」 と思いながら、恐る恐るノックした。 すると、奥様が出てきて「すみません。 勝手なことを言ってし まって。」 と申し訳なさそうな顔で言ってくれた。私は「いえいえ。 全然大丈夫ですよ。」 と言いながら奥様のお腹の方に視線をやった。 それに気づいたのか奥様が教えてくれた。 「もうすぐ産まれるんです。 しかも双子なの。」と。私は、驚きながら思わず「すごい!」と言ってしまった。
そんなことを言っていると後ろから顔をひょこっと旦那様が出 してきた。確かに、 具合悪そうな顔をしていた。とりあえず、 お二人のスーツケースと鞄一つを持って二つ隣の部屋にゆっくり二人を移動させた。
移動が終わりかけた瞬間、 私は何かが触れた感覚があったた め、思わずそれを掴んだ。 そして、 「待って!」と叫んでしまっ た。
お二人は、え?と顔をしていたが「何もありません。 どうぞゆ っくりお過ごしください。」と言い、 何かを掴んだまま私は、 元のお部屋の三〇四号室に入った。
私は得体の知れない何かに 「あなたは、 誰?」と自分でも驚く ぐらいの低い声で何物かに話しかけた。
すると、 何物かは 「邪魔しないで。」と返事した。 彼女も同じような低い声でそう言いながら、自分の腕にあった私の手を取って、私を押し倒した。私は尻もちをついた。そして、すぐに見上げると彼女は私の方に向かって歩いてきた。すると、尻もちを着いた瞬間に落ちてしまったトランシーバーが鳴った。先輩社員が心配して、呼びかけていた。「大丈夫?何かあった?」と。その後何回もそのような呼びかけがあり、しまいには「お願い、返事だけでもして欲しい。」と懇願された。私はトランシーバーを取り、「あ、すいません。実は、」と言いかけた瞬間、女性が私からトランシーバーを取り上げた。そして、「今、取り込み中なの。この子少し借りるわね。」と返答した。その直後、トランシーバーを壁に叩きつけ壊してしまった。
そして、彼女は再度私の方に向き直しゆっくりと歩いてきた。私はその時初めて気づいた。彼女は背中に赤ちゃんを背負っていたのだ。「え?赤ちゃん?さっき手を引いた時、そんな重さ感じなかったのに。いや、そもそもさっき居た?」と自問自答を頭の中でしているのも束の間だった。彼女は私の顔から数センチの所に顔を持ってきて、こう告げた。
「もう一回、言うわね。邪魔しないで。というか、もしかして貴方私の事見えるの?そんな子、この時代にも居るんだ。」そう言い終わると、私から離れ、さらに続けた。「忠告する。これ以上私の邪魔するならあの人達を殺すから。あ、もちろん呪い殺すってことね。」とどこか悲しそうな顔をしながら告げてきた。
しかし、私は女性の言い分を無視して、無意識に反論した。「それは出来ない。さらに言うと、貴方はそんなことをするためにあの夫婦に近づいたんじゃないんじゃないよね?あの夫婦を守りたいんだよね?」
すると、女性は私の反論に対して回答した。「私に反論出来るんだ。凄いわね。それに、あの人達を私が守る?何言ってるの?私、妖怪なの。人間相手にそんなことしないわよ。」と怒りながら答えた。
その怒声が嫌だったのか、背負っていた赤ちゃんが大声で泣き出した。女性はその子を自分の腕の中に回し、抱きしめ泣き止むようにあやした。すると、赤ちゃんは、泣き止んだ。彼女はその様子を見て、ほっと安堵していた。
私はその姿を見て、彼女に聞いた。「妖怪はそんな悪い存在だと私は思ってない。それに、私は今の貴方を見て、やはり悪い妖怪と思えない。だって、姑獲鳥はそんな恐い妖怪じゃないって分かってるから。」と。彼女の私の発言を聞いて、「ふっ。何言ってるんだか。私は彼女達にも自分と同じように苦しんで欲しいのよ。」と本当の気持ちを隠すように返答した。私は彼女のその様子を見て、転がっていたトランシーバーを取って、先輩に繋いだ。先輩は慌てた様子で「どうしたの?大丈夫なの?」と答えてくれた。私は先輩に「ごめんなさい。今は簡単にこの状況を話せませんけど、とりあえずまたしばらく応答出来ないと思うので1、2時間私のことを居ないと思って貰えますか?すみません。」伝えた。先輩は、私のその冷静なお願いを聞いてただ事じゃないと思ったのか、「わかった。ここは気にしないで。でも無理しないでね。何かいつでもトランシーバー繋いでね。」といつもの優しい先輩で聞いてくれた。そして、私は彼女にお待たせしました。と告げ、話を聞かせて欲しいと懇願した。
彼女は、静かに座って話し始めた。私も彼女を見習って、抱いている赤ちゃんを泣かせないように座った。彼女は十年前に自分に起こった話をし始めた。
彼女はある私立中学校で歴史を教えていた。ずっと夢だった教師になれて、生徒からも信頼を得られるようになった。さらには、大学時代に片思いしていた亮平と大学卒業と同時に付き合い始めてから、1年目で同棲を始めて4年経っていた。私は彼と幸せで順風満帆な生活を送っていた。亮平は、大学時代に書いた小説がヒットした。その功績が称えられ、大学から声をかけられた。その大学の文学部で講師として働き始めて3年が経っていた。経済的にも安定したそろそろ結婚かな?と思い始めていた矢先、ある転機が起きた。私が2ヶ月ほど生理が来なかったのでおかしいと思い、薬局で検査薬を買い検査すると陽性反応が出た。すぐに帰ってきた亮平に報告した。亮平はすごい喜んでくれて、そこからはトントン拍子に色々進んだ。お互いの両親に挨拶し、結婚の許しを貰い、十月十日経ち、新しい命が生まれた。女の子だった。結婚式は挙げなかったけど、3人で時にはオムツ交換などで大変なこともあったが、充実した日々を過ごしていた。
でもそんな幸せな日々は長く続かなかった。事件が起きてしまった。私は娘をベビーカーで押し、亮平はオムツやタオルなどが入ったリュックサックを持ってくれ、3人で新しく出来たショッピングモールに向かっていた。どんなお店があるんだろうね。なんて世間話をしながら青信号を渡ろうとした時に、車が信号無視で止まらなかった。その瞬間、亮平が私を押して、思いっきり頭を打って気絶してしまった。遠くの方で女の人の誰かーとか救急車ですか。などの声が聞こえていた。
私が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。看護師さんが私の名前を呼んで、先生を呼びに行った。先生は私に、「ここがどこか分かりますか?病院です。話せますか?」と聞かれたので私は返事した。「大丈夫です。あの、夫と娘は?」と聞くと看護師さんもお医者さんも暗い顔をした。そして、お医者さんは口を開いた。「残念ですが、ご主人はあなたと娘さんを庇ったことによって衝撃が激しかったようで頭蓋骨骨折し、即死です。娘さんは、ご主人が庇ったもののベビーカーから落ちてしまったようで強い衝撃を受けて同じように即死です。」と告げた。私は夫の死を聞いた瞬間から耳鳴りがして数時間呆然としてしまった。そして、やっと声を出してお医者さんに聞いた。「なんで、私は助かったのでしょうか?」と聞いた。お医者さんは、「おそらく、ご主人はあなたと掴んでいたベビーカーを一緒に突き飛ばして、自分が1番ダメージ受けるように車の前に倒れ込んだのだと思います。なので、奥様はそのおかげで気絶しただけで不幸中の幸いで助かったのだと思います。」と詳しく教えてくれた。「どうして?」と何回も泣きながら言った。その場にいたお医者さんも看護師さんも居た堪れない様子で立っていた。その2日後、今度は刑事が来た。車の運転手の情報を伝えに来てくれた。刑事によると「運転手は夜勤続きでほとんど寝てなかったらしく、ほとんど居眠りの状態で運転していたらしいです。運転手は、家族にバレるのが嫌だから慰謝料で解決したいと話しています。どうなさいますか?」とお話してくれた。私は、その時に怒りではなく呆れという感情が出た。「家族にバレたくないから、慰謝料払ってそれで終わりにしたいってありえないです。」と刑事に告げた。それを告げると刑事は「分かりました。彼を送検します。この度はご冥福をお祈りします。」と言い、病室を出た。私はまた涙が止まらなくなり、叫んだ。その後、運転手はすぐに送検され、裁判により懲役5年・執行猶予3年という判決になった。その判決の頃には私は退院して住んでいたマンションに帰り、ニュースでその判決を見ていた。
そして、私は絶対に許せないと叫び、持っていたグラスをテレビに投げた。そして、私はある復讐を果たすことにした。怨霊となってこいつの家族も同じ目に会わせてやると誓い、憎悪を持ってベランダから飛び降りて自殺した。すると、私は目を覚ました。覚ました時、自分の部屋の姿見に写っている自分の姿を見た。それはもう驚いた。私は娘を抱きながら血まみれの状態で立っていたのだから。そして、そこの部屋には住人が居て、住人は姿見の前で服を新調していた。目の前にいる私には気づいていなかった。私はその時に思った。「あ、幽霊になれた。これでアイツらに復讐できる。神様ありがとう。」と思った。そして、私はある絵を思い出したのだ。「これは、姑獲鳥だ」と。「私は亮平が講義で使う資料の中に自分のような姿の女性の絵があったのを思い出した。その資料には「これは姑獲鳥という月岡芳年の絵である。」と記載されていた。てことは、私は姑獲鳥になったんだ。」と喜びを感じていた。姑獲鳥の特性を知らなかったので、夜の図書館に侵入し、調べた。
(姑獲鳥)は、水辺に赤ちゃんを抱いて血まみれの状態で立っている女性である。何らかの出来事の影響で死産や流産をしてしまった女性がなってしまった妖怪。そして、通りすがりの人に「私の赤ん坊を抱いてみて。」と声をかけ、抱かせる。すると、その赤ん坊は石のように重くなり、男性達に復讐するように重さという恐怖を与える。中国のある地方の風習では家の外に子供のおもちゃや衣服を出しては行けない。という風習がある。なぜなら、姑獲鳥が子供を攫うからとされている。
そして、私はこの姑獲鳥の特性をあることに置き換えた。自分は事故によって大切なものを2つも失った。幸せそうな家族を私のように苦しめる。まずは、犯人のアイツの家族から。と決意した。

「私は、アイツのことを調べた。刑事から名前と住所は死ぬ前に懇願して教えて貰ったから覚えていた。そして調べている時にあることを知った。ヤツには娘がいる。あの事故の影響で奴は離婚し、娘とは疎遠になったと。その娘は、昨年結婚し、今妊娠中だと。その娘の名前は〈鳥山愛子〉よ」と。私はその名前を聞いて、はっ。と思わず言いながら口を塞いだ。そして、彼女は私のその反応を見て話を続けた。「そう、この部屋に宿泊しているあの女よ。そして、あの女も同じ目に合わせてやる。とそれが今日なのだ。だから私は、守るなんて考えてない。ただ復讐のためなのだ。邪魔するな。」と強めの口調で言った。

そう姑獲鳥は、私に自分が現れた理由と経緯を話し終え、再度邪魔するなと忠告をしてきた。だが私は、姑獲鳥の話を聞いて何故か腹立たしくなった。そして、彼女に問いを声を荒げて投げた。「じゃあ、聞くけど復讐にしては、鈍いんじゃない?本当に復讐したいのであればなんで、早く殺さないの?早く殺せば復習を果たせて、自分の人生これで役目果たせたってすぐに終われるじゃない。なんで、何日も期間を置いたの?その時点であなたは自分で自分のことを苦しめてる状況だけが出来てるじゃない。あなたにとってデメリットしかないじゃない。」と彼女を詰めた。彼女は、「それを機会を伺っていただけで、でも本当に殺そうと思ってて、自分と同じ目に会わしてやろうと思ってるわ。苦しくなんかない。そんな人の心とうの昔に置いていったのよ。」と私に反論してきた。
すると、私が抱いていた赤ん坊が突然泣き始めた。さらには、赤ん坊なのに言葉を発した。「ママ、もうやめよう。ママが苦しんでるのなんて見たくない。いつも泣いてたよ、ママ。僕抱っこしながら泣いてた。泣きながら謝ってた」と突然話し始めた。私は、驚きを隠せなくて口が開いたままだった。その顔のまま、姑獲鳥の方を見ると姑獲鳥は目から人間のように涙を流していた。そのまましばらく、声を発さずにずっと涙を流していた。やっと気づいたようで自分の手で涙を拭った。「なんで?なんで、泣いてるの?どうして?」と目を拭った。私もその人間のような姑獲鳥の姿を見て、ジーンと来た。そして、彼女は私の方に腕を開きながらやってきた。その様子を感じ取り、抱いていた赤ん坊を彼女に渡した。彼女は赤ん坊を抱くと、「ごめんね、ごめんね。あなたにもこんなにも無理させてしまってごめんなさい。」と自分の頬と赤ん坊の頬を擦り合わせながら強く抱き締めていた。そんな彼女の姿を見て思わず泣いてしまった。
その後、彼女は私に「あなたの言う通り、私は自分のことを苦しめていたのかもしれない。復讐という心に縛られてたんだと思うわ。」と告げた。そして、「鳥山さんは今どこにいるの?彼女に謝りたいの。」その言葉を聞いて私は鳥山さんの居場所を教えた。「彼女は、隣の部屋に移動してもらってます。呼んできましょうか?」と鼻水をすすりながら話すと彼女は黙って頷いた。すぐに私は鳥山さんのお部屋に向かった。鳥山さんがいるお部屋にノックすると彼女は泣いた後なのか涙目の状態で出てきた。私は彼女に「全部聞いていましたかね。あの人と話せそうですか?」と聞いた。すると、鳥山さんも姑獲鳥と同じように黙って大きく頷いた。私はその固い意思を受け入れ、ドアを押さえた。鳥山さんを外に出し終わり、少し待っててくださいと告げ、彼女が居た部屋に入った。そして、外れていた内線を静かに元の位置に戻した。その後、鳥山さんを姑獲鳥が居る部屋に案内した。
あ、皆さんにここで説明しなくてはなりませんね。これは私の世を忍ぶ仮の姿。解説者きくちゃんである。なぜ、内線を元の位置に戻したかと言うと、実は鳥山さんを移動したあとすぐに鳥山さんにあることを話した。私が部屋に移動した瞬間に隣の部屋に内線してください。そう言うと鳥山さんは内線の音で何かあると思われませんか?と質問してきた。けど、私は大丈夫です。作戦があるので。と告げた。鳥山さんは、驚きながらわかりました。と返答してくれた。そして、私は姑獲鳥がいる部屋に移動した。移動するとすぐに内線がなった。その時私は姑獲鳥と初めて会話を交わしていた。その時にちょうど内線がなった。私の働いているホテルの内線は最初の音が小さい。なので、姑獲鳥が私を突き倒した瞬間に内線外した。そして、敢えてそのままにしていた。だから、内線から鳥山さんは私と姑獲鳥の話を聞けたのである。以上解説者きくちゃんでした!
話を戻します。私は、鳥山さんが部屋に移動したのを確認し、自分も部屋に入った。入った直後最初に話を始めたのは鳥山さんだった。鳥山さんは「ごめんなさい。私の父があなたに酷いことをして。実はあの事件の後、母はすぐに父に離婚届を拘置所の面会時に渡して、離婚してしまったの。父に会いに行ってないの。だから父が今どういう気持ちで拘置所内で過ごしているのか分からないの。でもね、この子が産まれたら会いに行こうと思って。その時にね、あなたの話もしようと思う。私があなたの分までしっかり育てます。実は、あなたが今抱いている子と同じお腹の子も女の子なの。私やこの子のこと見守っててくれますか?」と語りかけた。姑獲鳥は彼女の真剣な眼差しと言葉に感化され、「私も驚かせてごめんなさい。そのお腹の子は、この子の生まれ変わりなのかもしれない。だから、大切に大切に育ててね。私もこの子とあなた達の事を見守ってる。そして、必ず幸せな人生を過ごせるように支える。見えない力かもしれないけど、愛子さんあなたは私とこの子が傍に居ることを忘れないでね。」と優しく声をかけた。
そして、姑獲鳥は黄色い太陽のような光に包まれながら消えていった。鳥山さんは、私に「ありがとうございました。命の尊さというものを改めて実感出来ました。父には今日のことを話します。それで父がどんな反応をしても、私は彼女に支えて貰いながらお腹の子と生きます。そして、彼女のことを自分なりに調べて彼女に会いに行きます。菊田さん、本当にありがとうございました。」私は鳥山さんのお礼を聞いて、自分が誰かの役に立てられた事を誇りに思えた。
そのすぐ後、外を見ると、いつの間にか太陽が出ていた。あ、夜明けだ。と胸がジーンとなった。 そんな余韻に浸っている間もなく、トランシーバーに先輩から何回も「おーい!菊田さん!大丈夫?」と声かけがあった。その声がけに私は慌てて答えた。「菊田、大丈夫です!無事に終わりました。」と高らかに答えた。
その応答が終わり、事務所に戻ると先輩から色んなことを詰問された。まるで事情聴取をされているみたいだった。しかし、私は真剣にあったことを答えた。先輩も私と同じように真剣に聞いてくれたので、話しやすかった。そして、ワードの新しい文書に事の顛末をまとめた。私は休憩を取らずに通常業務に戻った。先輩は、休憩に行かせた。
その日の9時頃、鳥山さんはチェックアウトした。その時、私が対応し、再度鳥山さんに本当にありがとうございました。とお礼された。その鳥山さんの後ろには姑獲鳥が赤ちゃんを抱きながら旦那さんと微笑んでいる姿が見えた。私はその姿を見て、「またのご来館お待ちしております。」と返答した。
鳥山さんがチェックアウトしてすぐに、先輩から日勤スタッフへ引継ぎが行われていた。私は、フロント業務をしていた。引継ぎが終わり、副支配人に呼ばれた。そして、副支配人に昨日何があったか全てお話した。副支配人も私と同じように妖怪についての卒論を大学時代に書いてたのもあってか私の話を真剣に聞いてくれ、理解してくれた。

それから、何日か経ち、特に何事もなく通常業務をこなしていたある日副支配人から個人的に話があると言われ、私は会議スペースに向かった。すると、副支配人が私にあることを告げた。「菊田さん。実は、このホテルにはこの前のような出来事がたまに起こるんです。」と話始めた。私は、「この前の出来事?あの、鳥山さんの件ですか?」と聞くと、うん。と頷いた。続けて、「ポルターガイスト現象のようなものがたまにお客様から言われることがあります。そこでなのですが、あなたにそれらを解決してもらう担当になって欲しいんです。」と笑顔で言われた。私は、その通告にはぁ?みたいな顔を思わず上司にしてしまった。副支配人は、私のそんな反応を他所に「あなたは、この前の出来事といい、こういう未知な現象に関しての知識が多々ある。なので、是非もし、また同じような出来事が起きたらあなたなりの方法で解決して欲しいんです。そんな現象のせいでお客様に不愉快な感じで帰って欲しくないでしょ?笑顔で帰って欲しいでしょ?このとおり、お願いします。」と机に両手を置き頭を下げて懇願してきた。私は、「私なりの方法?そしたら、私が持っている全ての本を持ってきていいんですか?私専用の机を作ってくれますか?他の従業員の皆様にその話をして、変な顔で見られないように細部まで配慮していただけますか?私の願いを叶えてくれるのであれば引き受けます。出来ますか?」と少しキレ気味に副支配人に話した。すると、副支配人は、「いいでしょう。その願い全て叶えます。そして、従業員の皆様には私の方から伝えます。ただ、1点だけお願いを聞いてください。」と言われた。私は「もう既に1点壮大なお願い聞いてますけど。」と心の中で思いながら「なんでしょう?」と聞いた。「通常業務もやりながらやって欲しいんです。もちろん、肉体的に負担になってしまうかもしれませんが、その分休憩時間など多く取れるように配慮させていただきます。どうでしょうか?」と言ってきた。私は少し納得はしていなかったが、「わかりました。やらさせていただきます。」と答えた。それからの副支配人の行動は早かった。従業員の皆様に引継ぎ時、私の今後の仕事について説明された。みんな、ポカーンとした顔をしていたがあの時夜勤が一緒だった先輩は「頑張って。何かあったら俺が支えるから」と言ってくれた。

──そして、私の新たな生活と共に事件も起きてしまった。──

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