ぼくの友達レイモンド
大学で待ち合わせをする。
いろんな国の学生たち。
見たことのない装い。
嗅いだことのない匂い。
行き交う人々をすり抜けて
レイモンドがやってくる。
やあ元気?と満面の笑顔のレイモンド。
元気だよ、と笑顔で答えるぼく。
司書員のレイモンドは踊るのが大好き。
バレエやヒップホップやワッキング。
舞台でも踊るし、オーディションにも挑戦している。
練習のしすぎで右ひざを痛めてしまったらしい。
少しは休んだらってぼくが言うと、
体が踊りたがるのを止められないんだ!ってレイモンド。
レイモンドにぼくの論文を見てもらう。
アジアの比較文化研究をしているレイモンド。
韓国と台湾と日本のポップカルチャーの研究をしている。
後退したおでこをペン先で叩きながら
真剣な表情で赤ペンを入れるレイモンド。
尊敬する人はTRFのサム。
サムとのツーショットを待受画面にしている
実は仕事を辞めたんだ。
レイモンドは右ひざを撫でながら笑って言う。
どうしてさ?とぼくが聞くと
やりたいことがたくさんあるんだよ、とさらり。
聞けば最近韓国や台湾にも行って
ダンスのコンペティションにも参加したらしい。
仕事なんかやってる暇はないんだ。
五十もほど近いレイモンド。
ぼくの大好きなレイモンド。
レイモンドの思考はぼくの小さな世界なんかにおさまりきらない。
信じたルールはオセロみたいにきれいにひっくり返される。
それでもなにかしらの正しさを求める心が
ぼくの世界に影を落とし強いコントラストを作っている。
両腕を広げたレイモンドはその上をふわふわ軽やかに飛んでいく。
もういかなきゃ、と立ち上がるレイモンド。
メンバーたちと打ち合わせなんだ。
見上げると蛍光灯の明かりが
レイモンドの頭をぴかぴか照らしている
ぼくも立ち上がり、お礼を言って握手を交わす。
右足をひきずりながら立ち去るレイモンド。
ぼくの大事な友達レイモンド。
*****
聞耳です。ロンドンにもやっと春が訪れ、日照時間はすでに20時30分に程近くなっています。ひときわ長く陽光を楽しめるのがロンドンの好きな点のひとつですが、他にも良いところのひとつとして人種の多様性があります。
もう何度も言われていることですが、学問・経済・政治の分野問わず、今日でも人種的多様性は繰り返し取りざたされる社会問題のひとつです。先日アメリカで行われアカデミー賞でも黒人コメディアンのクリス・ロックが米映画界が「白すぎる」と皮肉を交えて評しました。先日ロンドンで行われた広告界の世界的カンファレンスAdWeek Europeにおいても同様の問題が複数のプレゼンターから提起され、現在作られている広告イメージの多くが未だに「白人中心」に作られていると問題視されました。
ぼくの友達レイモンドは社会的に作られた年齢や性差に関するイメージの制約を軽々乗り越える人のひとりです。どんなに意識していても彼の生きかたから学ぶことはたくさんあるなと思います。インターネットやスマートフォンなどで現代人の生活がたった20年ほど劇的に変わりましたが、人の意識は簡単には変わりません。そんなことも詩作を通して考えていきたいひとつのテーマです。
聞耳牡丹
Reference:
the guardian (2016) http://www.theguardian.com/film/2016/mar/15/ang-lee-oscars-chris-rock-racist-joke-east-asians-academy-awards-2016
ADWEEK (2016) http://www.adweek.com/news/advertising-branding/new-survey-looks-growing-demand-diversity-how-ads-portray-families-169973
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