賽は投げられた
聞耳である。今日紹介するのはアメリカの現代詩を代表するチャールズ・ブコウスキー (Charles Bukowski 1920-1994) である。ドラッグ、酒、マリファナ、女。アメリカ高度経済成長期の陰で苦難を強いられた労働者階級の、ありのままの言葉を気取らずに紡いだ彼の詩は、未だ多くのファンを獲得している。一方で行間から匂い立つ汗臭いダンディズムが、現代アメリカの若者にはうんざりといった感想もちらほら聞く。でもわたしは大ファンである。今日はそんなチャールズ・ブコウスキーの代表作の中でも特にわたしの好きな(汗臭い)作品を一つ紹介する。
Roll the Dice
if you’re going to try, go all the way.
otherwise, don’t even start.
if you’re going to try, go all the
way. this could mean losing girlfriends,
wives, relatives, jobs and
maybe your mind.
go all the way.
it could mean not eating for 3 or 4 days.
it could mean freezing on a
park bench.
it could mean jail,
it could mean derision,
mockery,
isolation.
isolation is the gift,
all the others are a test of your
endurance, of
how much you really want to
do it.
and you’ll do it
despite rejection and the
worst odds
and it will be better than
anything else
you can imagine.
if you’re going to try,
go all the way.
there is no other feeling like
that.
you will be alone with the
gods
and the nights will flame with
fire.
do it, do it, do it.
do it.
all the way
all the way.
you will ride life straight to
perfect laughter,
it’s the only good fight
there is.
賽は投げられた
もし何かに挑もうとするなら、徹底的にやれ。
でなきゃ、やらないほうがましだ。
自分の力を試してみたいというのなら、
とことんやれ。恋人を失うかもしれない。
妻を、家族を、職を失うことに
なるかもしれない。
正気すら、失うかもしれない。
くたばるまでやれ。
3、4日メシにありつけないこともある。
公園のベンチで凍え
刑務所にぶちこまれることも、
また馬鹿にされ、
笑いものになるかもしれない
孤独。
孤独は贈り物だ、
すべてがおまえの辛抱強さを
試そうとしている。
いかに本気かが試される。
闘え。
おまえならできる。
拒絶や
勝ち目が薄くても
やり遂げたときの
素晴らしさは格別だ。
本気でやろうっていうのなら、
徹底的にやれ。
最高の気分に浸れる。
世界は自分と神々だけになり
夜は火と燃える。
やれ、闘え、振り向くな。
挑み続けろ。
くたばるまで。
朽ち果てるまで。
困難を乗り越えた先に
無比の笑顔が待っている。
それが唯一人生で価値ある闘いだ。
*****
「賽は投げられた」は言わずと知れた古代ローマのユリウス・カエサルの言葉である。一度決めたからには、引き返すことは許されない。それは死を意味する。そこまでの覚悟を持って、何かに向かっていく人は、現代どれだけいるだろう?その人はおそらく社会には適合できないかもしれない。その人は家族や友人から一生非難を浴びるかもしれない。その人は落伍者としてメディアで叩かれ続けるかもしれない。その人は公共の場で顔面蒼白になって頭を下げさせられるかもしれない。それでも一度決めたなら、やれよとわたしは言いたい。そこまでの覚悟がなければ、ハナから仕掛けるべきではないのだ。
チャールズ・ブコウスキーは決して善良な人ではなかった。彼の詩には破廉恥で、反社会的な言葉も度々使われている。しかしマイノリティや社会的弱者には常に味方であり続けた。強い力ではなくて、弱い存在とともに歩む人こそ、本当の強者なのではないか。詩は弱い。だからこそ信じるに足る強さが潜んでいるのである。
今日の講義はここまでである。
聞耳牡丹
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