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【諷刺録】特筆すべき現代アーティスト5組 バンクシー/アイ・ウェイウェイ/カテラン/ムニーズ/Chim↑Pom


気まぐれ更新の「諷刺作家備忘録」で、今回は現役の現代アーティスト5組を取り上げる。
“騒ぎになること”を商売としているかのようなお騒がせな面子(めんつ)がそろった。
あるラッパーに、『オレは人を不快にさせるのが仕事なんだ』という発言があったが、以下のアーティストたちはその筋の仕事のプロといえる。

詳細版は以下のブログページにあります。
http://kikui-y.hatenablog.com/entry/2020/01/27/070000

諷刺録No.83 バンクシー

現代イギリスの覆面アーティスト。
政治的な含意のある1コマ漫画的なセンスと、写実的な高い描写力を特徴とする。
多くは公共の場に無断で描き残されたものだが、悪夢のテーマパーク「ディズマランド」など、作品の射程はイギリスから世界へと伸びている。

以前東京で見つかった“ネズミの落書き”騒動もあり、バンクシーの関連書籍は手に入りやすい。
またバンクシー公式ホームページでは、数々の作品をスライドショーで観ることができる。
http://banksy.co.uk/


諷刺録No.80 アイ・ウェイウェイ

一つのささやかな行動は、千の思考に値する。
(『アイ・ウェイウェイ主義』)

北京五輪の「鳥の巣」計画に関わったアーティストだが、ユーチューブで堂々と「ファック・ユー・祖国」(中指付き)と言っちゃう過激さを持つ。
作品の風刺的内容から、中国政府によって現在も弾圧を受けている。
パフォーマンスの「漢時代の壺を落とす」(95年)など、国家を真っ向から敵に回す挑発的な作風があり、社会運動家としてもWEB上で活発な発言を行っている。
2018年には監督作品の『ヒューマンフロー 大地漂流』が公開。難民問題を扱い、活動は真面目さを増しているように思う。
しかし精神のタフさは変わらず、 “共に中指を立てよう”というたくましさを与えられる。

諷刺録No.81 マウリツィオ・カテラン 

(※カトランとも表記)
イタリアのアーティストで、これまでに何度も物議を醸す問題作を社会に投じている。
これまでの作品に、自殺する小動物の剥製、懺悔するヒトラー像、隕石に衝突された前ローマ皇帝の像、首でなく胴体が飾られた馬などがある。
等身大の首吊り死体を公園の木にいくつも吊るした『無題』は、怒ったミラノ市民たちによって破壊された。
人を怒らせるツボを心得た確信犯アーティスト。

2019年の美術界の諷刺シーン(そういうものがあるとすれば)で国際的なニュースになったものが二つある。
一つはバンクシーによる、オークションでの作品シュレッダー事件。
そしてもう一つが、カテランの『コメディアン』が1000万円以上の価格で落札されたことだ。
デュシャンは便器をひっくり返して『泉』という作品にしたが、本作は壁に本物のバナナを貼り付けただけの作品。
さらに落札後に別のアーティストによって食べられる、というオチまでついた。
アートシーンと資本主義を笑い者にして、バナナは本当にコメディアンとなった。


諷刺録No.82 ヴィック・ムニーズ 

ブラジル出身の現代アーティスト。
食料品やゴミの山など、あらゆるものを素材にして作品を創りだす雑食系。
消費社会から見捨てられた物欲の残骸のど真ん中から、不死鳥のアートを飛翔させる手腕があるが、オモチャの集積で描かれた「語るには悲しすぎる」など、そこには現代を生きるものの哀感が含まれている。
亀がプラスチックごみにまみれ、海鳥がオイルにまみれてもなお生き抜いていくほかないように、物質社会にまみれてもなお美術を生み出そうとする、人間的・文化的な試みだ。


諷刺録No.77 Chim↑Pom

「チン↑ポム」は、現代日本のアーティストグループ。
広島の空にカタカナで「ピカッ」と書いたり、渋谷のネズミを捕まえて染めたりと、その創作姿勢には保守的な人をイラだたせんとする志向がある。
ひんしゅくをかってでも、無差別に知覚させようという行儀の悪いアートを乱発している。

メンバーの中でもエリィは多方面で活躍しており、最近は文芸誌の『新潮』でエッセイを連載中。
当然のようにツイッターをやっているため、情報の拡散も早い。
時事問題への瞬発力を見せている、数少ない日本のアーティストといえる。
「あいちトリエンナーレ2019」問題に対し、作品発表によって放ったカウンターはその一例だった。

美術だけでなく文学や映画もそうだが、藝術分野においては諷刺の過激さは評価されにくい傾向がある。
流行に左右されず、時代を超越した深淵で重厚な作品の方が評価されるものだ。
しかし現代の問題に対して、深さとか渋みとか言っている場合でないときもある。
今まさに事件が起きており、今すぐに対処せねばならないというとき、作品の熟成をまっているのでは遅すぎる。
時事問題に対しては、深さや重さではなく、早さと鋭さが最も優れた闘争手段ではないだろうか。
Chim↑Pomを含めた諷刺的作家達の作品は、そのための武器を提供してくれるものだ。
特にこれからの日本において、その武器はもっと、大量に要るように思われてならない。

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