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そこで笑ったらだめ

まだ夫と付き合っていた時のこと。
二人で近所のゲオに行ってDVDを借りてくることが度々あった。
DVDを借りるときはだいたい、各人がそれぞれ個人的に観たい作品と、二人で一緒に観る用の作品を選んでいた。
二人で観る用の作品とは、二人で観て感想を言い合うときに盛り上がりそうな作品のこと。
それは今テレビドラマを観る時でもそうだけど、結局二人で一緒に何かを観るのは、コミュニケーションを取るためである。二人で一つのものを観ながら、やいのやいの言うのが楽しいから、テレビや映画を一緒に観る。
だから、極端な話、世間的に評価が高いかとか、良くできた作品かどうかなんてどうでもいいのだ。作りがちょっと雑で突っ込みどころがある作品は、それはそれで盛り上がって楽しい。登場人物に癖があって、毒づきたくなるような作品は最高である。
結局、二人の会話が一番のエンターテイメントである、と思っている。

そういう観点で夫(当時彼氏)が選んだ作品の一つに『婚前特急』という映画がある。
5人の男性と同時進行で付き合っているチエ(吉高由里子)が主人公のラブコメディーだった。

当時、私たちは付き合って数年がたっていたはずだが、私は何となく結婚に前向きになれずにいた。
理由はいくつかある。夫には離婚歴があり、子供がいること。
そのことを私の家族が良く思っていなかったこと。
私と夫は同じ会社に勤めているが、何となく感じる夫への社内での評価。
お互いに役職についていたので、結婚したら会社に居づらくなるかな、とか、色々なことを思っていた。

それで、婚前特急である。今でも覚えているシーンがある。

チエにとって序列最下位の恋人だったタクミ(浜野謙太)がチエの家のものを勝手に売ってお金にしたのを知った時、チエがふっと笑ってしまうのだ。

あー、この人たち別れられないわ、と思った。

そのシーンが映画のどのあたりだったか覚えていないが、なんだか結末を見てしまったような気がした。
「ここで笑ったらもうだめだね」と二人で言い合った。
そしてそれは、自分たちの関係にもそのまま当てはまっているかのようで、なんだか力が抜けるような思いがした。

「えー、私この人と別れられないのかな。なんかいや。」
と思って横を見るといつも見ている顔があって、そう思ったことを実際言ったのかどうかは忘れたけど、なんとなく私たちも笑ってしまったのだった。

えー、なんかいや。

その後数年して、結局私たちは結婚した。

相手のことを変な人だと思う時、お互いに言いたいことを言い合っている時、なんでこの人はこうなんだろうと苛立つ時、相手は変わらないんだと思い知る時、あきれて笑っていたらこういうことになる。

「みーちゃんさ、今更別れるとかないよ?自分でもわかってるでしょ。別れるならもっと前にいっぱいタイミングあったよ。」

私たちは別れるタイミングを、ことごとく潰してきてしまったらしい。

ほら、やっぱり笑ってちゃだめなんだよ。

でも、それは選んでいる段階でのお話。
相手を選ぶときは両目で見て、選んでからは片目で見なさい、というような話を聞くけれど、そういうことだと思う。
お互いに選び合った後は、相手に対する判断をどれだけ保留できるか、どれだけ受け流せるか、どれだけ笑えるか、にかかっているのではないか。
相手を判断・評価し合う関係は、お外でやればいい。
一歩家の外に出れば、そんな関係で溢れているのだから。
せめてお家の中では、「まったくだからだめなんだよ」と言って笑いながら、相手を受け入れ続ける関係でいたい。
だってそれが愛している、ということだと思うから。

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