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水が好きだ。

いつからだったか正確には思い出せないけど、
気がついたらここ数年、夏になれば必ず一度は泳ぐようにしていた。

初めての体験ダイビングで潜った沖縄の海、
何mも下まで透けて光が差し込み今まで見たことない世界で、
自分が潜ったのではなく空に浮いて足元が抜け落ちてしまったのかと錯覚してとてつもなく怖くなったのにその数分後には海の虜になってたのをはっきりと覚えている。

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一人旅で訪れたカンボジアで、どうしても訪れたかったのも水上生活の集落だった。
雨季の季節にだけできる大きな湖。
十数人の乗合船。集落の見学や、マングローブ林でのカヌー体験、少しの押売を終えた後、村から離れ少し沖合にでる。
"雨季の間だけ"というだけあってあたりには何もない。
周りのものを水溜りが全て飲みこんでできた湖は全ての始まりのようにも、終末のようにも見えた。いつの間にかエンジンを止めた船の上でそれぞれに周りの人と話しをしたり、ぼんやりと夕日を眺めたりして、穏やかな風が吹いていた。
何隻か自分達と同じような観光船がいて、
中にはオレンジの袈裟を着た僧侶達だけの船もいる。
突然、ガイドが声をかける。
「よし!この船だけ特別だ!好きに飛び込んでいいぞ!」
急な上にさして英語もわからない私は戸惑った。
さっきから隣に座ってた無愛想なバックパッカーらしき男性がサッと立ち上がり我先にと飛びこんだ。
きれいにくるっと1回転し、水に吸い込まれていく。
歓声が上がり、彼を皮切りに数人の男性が飛び込んだ。
1番に飛び込んだ彼が戻ってくると、「行かないの?」というようなことを聞かれた
水着もないし、貴重品が全部詰まった鞄をもってるし、はじめての1人旅だし、女だし、色んな言い訳がぐるぐるして、悩んでいる間に、別のいかにも旅慣れた様子のカップルの年上の女性が飛び込んだ。それを見て「ほら、」というようにもう一度彼が声をかけてくれ、荷物を全部置いて、着ていたTシャツも脱ぎすてて飛び込んだ。
足から飛び降りて、ぼちゃん!と、とてもかっこいい飛び込み姿ではない。
水の中は濁って、本当に何もない。海や川のように水草もないし、生き物も見当たらない。一瞬、本当に、迷子になってどこへも戻れないような気がした。
慌てて水面に顔を出し、船に引き上げるために伸ばされた手を必死で掴んでやっと、ほっと夕陽の眩しさと、思ったよりもずっと生温い水の温度を思い出した。
荷物を取りに戻ると先程の彼が「ほらね」と言
わんばかりに顔を向ける。
たしかに。
ここではわたしが下着1枚で飛び込もうと誰も気にしないし、入ってみなければ水の中がこんなに孤独なことも知らないままだったし、びしょ濡れの身体に吹く風はより一層気持ちいい。
なによりきっとここで飛びこまなければきっと私はずっと後悔したんだろう。
何かが変わったとか、そんな大きなことはまるでないけど自分の中でここで飛び込めたことはすごく大事な思い出になってる。
(帰り道、私と無愛想な彼が話してる様子を見た先程の歳上女性がこちらに興味を示し、あんた英語もできないの?という顔をされ、2人が自国の政治話をはじめるのをぼーっと見守り、それはそれで複雑な気持ちになった。)

はじめてのオール1人旅で、この後も飛行機が欠航になって帰れなくなったりしたけど、一番印象に残ってるのは間違いなくこの日のことだ。

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ライブ、映画、泳ぐこと。
パッと思いつく自分の好きなこと。

その共通点が、"他に何もできない"ことだと思っている。

私は気が散りやすく、あれやこれやと考えが飛躍しがちだし、作業をしてても並行してラジオやSNSを垂れ流してるし、誰かと会話をしててもその空間にいる人や背景、表情が気になって集中できないタイプである。

だからこそ、
泳ぐ時のようにそれに集中せざるをえなかったり、
映画館のように他に何も手をつけられない状況だったり、
ライブハウスのような五感を奪われる感覚に惹きつけられるのではないかと思う。

今年は1度も泳げていない。
配信ライブの嫌なところは他の作業を同時にできる余裕があることだ。

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深夜の3時を過ぎた頃
土砂降りの中をタクシーで帰宅し、
近所の交差点に止めてもらう。

信号が変わるのを待っていると隣におばあさんと、芝犬が並んだ。

大人しく前を見つめていた犬が、私の熱い視線に気付いたのか、
「触りますか?触るんですか?」
と言わんばかりに尻尾を振りながらこちらに鼻を擦り付けてきた。
犬の好意に甘え、傘を斜めに差し替え目一杯撫でさせてもらう。
信じられないぐらい優しくて愛らしい。

「こんな時間まで働いてたの?えらいねぇ大変だねぇ。」

とおばあさんは声をかけてくれた。

信号が変わり、ひと言ふた事交わし、
おばあさんと犬にさよならする。

朝というには早過ぎるし、
夜というには遅すぎる。

こんな時間に何をしてるんだ、はきっとお互い様。
そういうどうでもいいやり取りにきっと私は何度も支えられてた。

土砂降りの雨音を聞いてそんな日の事を思い出す。

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雨もすっかり止んだ。

すっかり秋の匂いがするくせに
日が昇りはじめるとまだまだしぶとく暑さが残る。
扇風機の3時間タイマーはまだ効いてる。

今年はもう泳ぐことも無さそうだ。
映画館は気が向けばいつでも行かれるが。

色んなことに慣れる度に
ぼんやりとした日常に退屈もする。
なんとなく眠れなくなってダラダラ書き始めたら
すっかり朝だ。
とくに刺激的なこともないので文章もダラダラする。
出社しないことの一番のデメリットはこんな日が続くと簡単に昼夜逆転することだと思う。
(そんで昼間寝落ちて上司に返信遅れてんのバレてんのかなそろそろ)

ここまで根気よく読んだ数少ない精鋭よ、
申し訳ないが中身は何にもないです。
水が好き、犬かわいい、仕事好き、秋と朝が来た。

季節の変わり目が本当に苦手。
夏が好きすぎて終わるのは何度でも寂くなっちゃうんだもの…

そろそろ自分ではどうにもできない何かにどっぷり浸かりたいような気もするよね。(眠気以外で)

その日のためにまずは体力つけなきゃね、というところなのでランと縄跳び、それから部屋を片付けて丁寧な生活、早いとこ復活しなきゃね😑🏋️‍♀️🤸‍♀️

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