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かき氷

今年もかき氷機を出した。
かき氷機をもらったのは、いつだったかとスマホの写真フォルダの中を探したら4年前のフォルダに入っていた。
まだ小さくて細っこい息子がかき氷機で作ったかき氷を食べていた。たった4年なのに、遠い昔のように感じる。

かき氷機は住んでいたマンションのお掃除をしてくれるおじさんからもらったものだ。
子どもが産まれてすぐに住んだ家で、古いマンションの7階だった。良く言えばヴィンテージマンションだ。
そこは平日午前中は、ゴミ置き場や自転車置き場、エントランスを掃除してくれるおじさんがいた。
おじさんは、私たち家族が来るよりずっと前からいたようで、マンションの住人たちととても仲が良かった。私たちにも気さくに声をかけてくれた。まだ赤ちゃんだった息子にもにこにこと声をかけてくれた。
息子がベビーカーからよちよち歩きになって、走るようになってもおじさんはいた。
このマンションは水回りが古かったり、自転車の止めかたにうるさい自転車おばさんがいたり、ちょっとやだなと思うことがあっても、このおじさんがいるから住んでいられた。私も夫も息子もおじさんが好きになった。

息子は、毎朝ゴミ置き場へ挨拶へいくようになった。私も仕事へ出るようになって、おじさんとの朝の挨拶で気持ちよく出かけることができた。
世間話もよくした。三重県の出身で西の言葉を話していた。よく息子に好きなものを聞きプレゼントしてくれた。私のことは奥さん、夫をパパさん、息子をせいちゃんと呼び、自分のことをおいちゃんと言った。
『奥さん』なんて呼ばれることないから新鮮で、へへへと思った。
最寄りの駅で偶然おじさんに会った時は私服で、おしゃれなおじさんだとわかった。

おじさんの仕事は丁寧で気持ちが良い。
毎朝おじさんを見習おうと心して仕事に向かった。

ちょうど今頃の時期に、おじさんから「もらいもんやけど、わし使わんから」と、かき氷機をもらった。ちょっと欲しいと思っていたから嬉しかった。
暑くなると、棚の奥に片付けていたかき氷機をキッチンに出しておく。
喉が渇いた夫が、朝起きてかき氷をゴリゴリして食べていたり、
学校から帰ってきた息子が疲れたと言って、ゴリゴリしてかき氷を食べる。

おじさんは80歳になってお掃除の仕事をやめた。
年齢から言ったらおじいさんなのだけど、おじさんと私たちは呼んでいた。
おじさんに会えなくなって、やっぱり寂しい。
おじさんは一階に一人で住んでいたおじさんと特に仲が良く、おじさん2人でエントランスの奥の椅子に座って、いつも楽しそうに話していた。
一階のおじさんも優しい笑顔のおじいさんで、
息子は2人のおじさんの中に入って、よくヤクルトをもらっていた。
おじさんが仕事を辞める少し前に一階のおじさんも引っ越して行った。
その後その部屋は、リノベされ売りに出されていた。
おじさんの仕事納めの日、一階のおじさんが車に乗って迎えにきていた。

おじさん達は海のそばで一緒に住むことにしたのだろうか。
「ショーシャンクの空に」のラストを思い出した。
2人で楽しく過ごしているといいなと思った。
かき氷機を出すと思い出す。

今年も暑くなるのだろう。
私もおばあさんになったら、友達の近くに住んで毎日おしゃべりして散歩してかき氷食べて夕方からビール飲んだりのんびり暮らしたい。
私の目標である。そのために頑張ろう。
おじさん達も、どこかで楽しくかき氷食べたりビール飲んだりしているかな。




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