見出し画像

酒蔵の酒販店営業について書いてみた

こんにちは、ボンです。

この前とある方々と楽しくオンライン飲み会をしていた時に、
「酒蔵の営業マンがヤバイ」
という話になりました。「ヤバイ」の捉え方は読者の皆様に委ねます。

その言葉を聞いた時に当事者であることを忘れ「わかるわかる」と言ってしまいました。もちろんすべての酒蔵に該当するわけではありませんし、その「ヤバイ」に該当してしまっていても優秀な営業マンというのはたくさんいます。

ヤバイのに優秀。矛盾しているようにも思えますが、実際問題、優秀な人材を生かし切れていない現状はありますよね。ちなみにここから書く内容はSMなどの量販店ではなく地酒専門店やファンへの営業活動を念頭に置いてます。

日本酒販売に求められる知識

そもそも日本酒の製造および販売は、「商品先行型」のビジネスモデルです。商品を造り出来上がった酒を片手に小売店営業…。消費者のニーズに応えて商品開発をする「需要先行型」とは大きく異なります。

ここで1つ重要なのは、酒蔵における商品先行型の大部分に「ニーズを予測する」というフェーズが含まれていないことです。例えば近年流行のスパークリング清酒などはニーズをある程度予測したものと言えるかもしれませんが、通常ラインナップの酒はいつも通りに造ってもその年の米の影響等があるので、なんなら造り手側すら厳密にどういう味わいに仕上がるのか予想できないのです。

そういった商品を販売する時に絶対必要なこと。それは他の如何なる要素を差し置いて、「絶対的かつ臨場感あふれる知識量」かと思います。「知識がないと商品を売れない」のは自明ですが、同じパッケージの商品でもビンテージという概念がある酒において、その時々で必要な「知識」は異なってきます。

パソコンを開いて商品提案書に書いてあるテンプレートをそのまま説明するのは簡単です。しかし実際に現場で聞かれるのは「今年の酒造りはどう?」や、「どういう意図で造られている酒なの?」など、酒造りに触れていないと正しく答えられないものばかり。そのさらに先では料理やシーンの提案など、味わいに対する知識も必要になってきます。

極端に小売店のマージンが低いなんてことがなければ見積や価格の話は10秒で終わってしまうので、電卓やそろばんを叩く数字の営業はあまり求められていません。(量販店営業では逆にシビアなので、最初に前提条件を書いておきました)

これまでお世話になってきた酒販店さんが、ここ数年で後継者不在や売上を理由に次々と廃業しています。対照的に現在も商売を継続している酒販店さんというのは、地酒や洋酒に特化した専門店化したお店ばかりで、お互いのコミュニケーションコストを低くするためにも、営業スタイルを変化させなければならないのは明らかです。

知識量のバランス

ここまで書くと酒蔵の営業マンをこき下ろしているようにしか見えないと思いますが、逆も当てはまると自分は思っています。つまり対外的な営業活動を知らないと、酒造りに関する知識がいくらあっても良い商品は造れないのはないか。「蔵の色」と言えば聞こえはいいですが、消費者に寄り添う要素がそこになければ、ただの自己満足になってしまうリスクが潜在しているのです。

部署間のコンフリクト(摩擦)はどこの企業でも存在すると思います。対外業務をこなす人間と、社内業務をこなす人間では優先したい事柄が変わってくるので起こらないわけがありません。わかりやすく例をあげるとすれば、

営業が外から持ち帰ってきたニーズを商品に落とし込みたい→製造部門に伝える→自分たちの軸がぶれてまでそこに応える意味がわからない→結局うやむやになる→せっかく良さげな要望をしてくださったお客様の意見が放置される

みたいな感じですかね。ブラジルワールドカップの時にサッカー日本代表が「自分たちのサッカー」にこだわりすぎて負けたみたいな話があったようなないような…まあそれと似たようなものでしょう。よく「おたくの蔵はどんな酒?」という質問をいただきますが、ここをガチガチに固めすぎるとその時に本当に必要なものが見えなくなります。

酒蔵は多くても社員20名程度。小規模な組織です。小規模な組織の最大の強みはフットワークの軽さなんじゃないかと個人的に思う所ですが、実際には摩擦の連続でストロングポイントを生かし切れていないのが実情です。

酒造りは職人気質なところがあり「頑固一徹」な部分が和醸良酒につながっているのもまた事実。繰り返しになりますが何事もバランスが大事。時代にあった変化は何も営業だけでなく、内部的な部分にも要求されているのです。

酒蔵に部署は必要なのか

「ここまで書いているんだから御社では何か対策しているんでしょ?」という声が聞こえてきますが、正直めっちゃやってます。

まず部署を廃止しました。筆者が入社した4年前は、

・営業部(対外業務)
・製造部(酒造り)
・製品部(瓶詰めやラベル貼り等)
・総務部(事務作業)

と4つも部署がありました。この時は各部署間でいちいち摩擦が起きていて、商品・酒・内部の人間関係など何を取っても良いことがなかったように思います。

しかも酒造りは冬場にやってくる季節雇用の杜氏と蔵人を中心に行っていました。歴も腕もある人たちだったので出来上がる酒はもちろん美味しかったのですが、それぞれの部署とのコミュニケーションがなく、醸造以外の部分での要素で品質を落としている状況。

それを2年前(造り的には3期前)から、

・営業部
・商品部(製造部と製品部を集約)
・総務部

の3部署とし、それに伴い季節雇用を廃止し社員のみでの酒造りが始まりました。歴も腕もない素人集団の酒造りがスタートしましたが、上槽から瓶詰めまでの不要な工程(滓引き剤の投入や調整ろ過)を省き、搾り上げた酒本来のピュアな味わいを保つことにより、酒質を評価していただく機会がむしろ多くなってきた感覚がこの頃からありました。

そして昨年を経て今年(酒造り的には2020BY)、ついに営業部・商品部を廃止し、社員全員で酒造り・製品化・営業を行う体制を実現しました。

瓶詰めはよりスピーディーになり、今のところ上槽から3日以内にはすべての酒を瓶詰めできています。瓶詰めまで時間がかかることによるオフフレーバーの心配もなくなり、上槽時には澱が視認できなくなるまで自動圧搾機を通しているので、先述したように滓引き剤も調整ろ過もしていません。

また2020BYから普通酒商品を価格据え置きで本醸造にしたので、それまでタンク貯蔵していた商品が一切なくなりました。正真正銘、今期以降菊の司酒造で醸造した酒は全量特定名称酒・無濾過・瓶貯蔵ということになります。

これは一見部署の話とは関係のない取り組みに思えるかもしれませんが、部署が分かれていた頃では絶対に実現できない取り組みです。まず酒のことがわかっていなければこれを徹底するメリットがわからないでしょうし、意思統一ができない以上、どこかで淀みが発生するのは明白。部署統合の成果だと断言できます。

兄弟間摩擦

自分たちは兄弟どちらも蔵に戻ったので、よく「兄弟でやってて喧嘩しない?」みたいなことを聞かれます。筆者は腹がひん曲がった人間なので「なんでですか?」と意地悪に聞き返すと「なんでって…」と口ごもる人も多いわけです…(笑)世間的には兄弟でやってる蔵は仲が悪いイメージがまかり通っているようですね。

なんでかなあと考えてみましたが、業務内容の違いからくる見解の不一致が原因かと。よそのお蔵さんを見ていると、兄弟で製造と営業を分業しているところが多いので、もし不和が生じるとしたらそこしかないのかな…と思ったり思わなかったり。

そういった意味では自分たちは兄弟で分業せずどちらも営業・酒造りをこなしているので、大体のビジョンは一致している気がします。一緒に飲みに行ったりするので仲は普通にいいですよ(笑)

と、酒販店営業の話からかなり話題がテンコ盛りになりましたが、結局何が言いたいかいえば、「慣習であったとしてもその時に求められている形へと最適化する取り組みが必要」ということです。「ヤバイのに優秀」な営業マンが生まれてしまうのは単純に構造に問題があるからですよね。

そこには部署間摩擦であったり、知識や視座の偏りが潜在的な問題としてあり、それが外に出る営業マンに顕在化している…というのが実情です。

日本酒が売れない、広めたいという言葉を数々見てきましたが、肝心のプレーヤーである我々酒蔵がその有り様では論外ですよね。筆者もまだまだ勉強して精進していかなければならないと日々感じるところではありますが、当社の取り組みを交えて思う所があったので今回このnoteを認めた次第です。

無垢‐innocent‐シリーズ

ここまで書いてきた当社の取り組みの成果が表れた商品が、今期からスタートした「無垢‐innocent‐」シリーズです。

朝6時から上槽し、社員総出で手詰め、ラベル貼り、梱包を行い、その日中に事前予約いただいた全国の酒販店様や個人のお客様へ出荷を行う限定商品です。「無垢」という言葉の通り、しぼりたての本当に何にも染まっていない、蔵人しか味わえないその瞬間だけの酒を、ぜひ一人でも多くの方に味わっていただきたく企画しました。

NO.1の本醸造が衝撃的すぎて、まるでシードルを飲んでいるような、すいすい飲めてしまう仕上がりで、回を重ねるごとにご注文が増えております。

NO.4とNO.5がこれから年内に出荷予定なので要チェックですよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?