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酒蔵における実用的な利き酒とは…?

こんにちは、ボンです。

先日社内研修の一環として社員みんなで酒を持ち寄り利き酒を行いました。ちなみに17種類集まった内の7本は自分が持ち込んだ酒でした…笑

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今回の利き酒では2つの目的を設定。

1つ目は「低アルジャンル」の研究です。低アルについては先日、佐賀県・光栄菊酒造さんの記事を書いた時に、「これからビックウェーブが来るであろう酒質」と見解を述べさせていただきました。

すでに当社では「平井六右衛門 心星」「菊の司 季楽 純米爽酒 ひまわり」の2商品で取り組んでいる酒質ではありますが、今後の商品開発を見越していろんな酒を飲んでみよう、というわけです。

実際に飲んでみると良い意味で個性しかないジャンルだなあ…と。全体的に酸を効かせているという共通項はありますが、思いの外、蔵の色が出ますね。

度数を出さなくて良い分、清酒酵母ではなく変わり種の酵母を活用した商品も目立ちました。白瀧酒造さんの「上善如水 純米 はちみつ由来酵母」は、はちみつ入りヨーグルトと言っても過言ではくらいの味わいで、「朝食にイイね!!!」というアル中コメントも飛び交いました(笑)

2つ目は「この酒の売り文句を考えよう」です。当蔵の入り口にて今月から角打ちスペースを始めるので、接客時に商品の魅力を伝える力を養おう!という狙いです。今回は完全ブラインド、事前情報がほぼない状態で行ったので、スペックに頼らない、五感のフル活用が要求されます。

正直めちゃくちゃ難しかったし、何回かやらないと上達しないと思いました。いわゆる減点法の利き酒は、経験や勉強を積み重ねていかないと一筋縄ではいかないものですが、今回の形式における利き酒も、お客さんに美味しさを伝えるためのかみ砕いた官能表現や感性が必要です。それぞれの目的・培われる能力が異なるので、両方とも真面目に取り組んでいって損はないと感じました。

「対企業」と「対消費者」

就活生が最初に覚える言葉の同率第1位は、

「BtoB」「BtoC」

であると勝手に思っています。簡単に説明すれば、企業活動は大きく「法人向け(BtoB)」と「消費者向け(BtoC)」に分類されますよ~という言葉ですよね。スーパーに商品を卸す生産者や問屋は前者、お客さんにそれを売るスーパーは後者という感じです。

じゃあ酒蔵はどちらに分類されるかというと当然BtoBです。酒屋さんや量販、流通業者に酒を販売し大部分が成り立っています。近年ではECサイト等における直売も増えてきてはいますが、それが売り上げ構成の大部分を占めているお蔵さんというのはほぼないのでは。

しかしながら、加工されることが前提の商品や商品を製造するための工業機械等とは異なり、酒はあくまでも蔵から出た時点で完成しており、それをそのままの形で飲み手の皆様に飲んでいただきます。

企業間での取引で成立している商売なのでBtoBで間違いはありませんが、本質的には消費者へ如何に直接売り込みを図るかが肝心…とは僕が改めて言うまでもないでしょう。酒に限らず、菓子、清涼飲料水、その他食品。既製品が仲介業者を通して消費者に届けられるすべてのメーカーに当てはまることです。

メーカーからの発信力

日本酒って正直分かりにくい商品ですよね。(※ここで言う「分かりにくい」は、「知識がまったくなくても自力で思い通りに商品を選べるか選べないか」を基準にしておきます)

当たり前のように日本酒が売れていた時代は酒類の中での選択肢がビール、日本酒が大部分だった上に、日本酒そのものの選択肢も、1つの蔵が何十種類と出している時代ではなかったので、複雑さがそれほどではなかったと思います。

しかし現在のアルコール市場は日本酒、ビール以外の選択肢が途轍もなく増え、日本酒自体も米の品種、特定名称等で選択肢が多くなっているという状況です。外的・内的要因の両面からどんどんわかりづらくなっていると言えるかもしれません。

そういった分かりにくい商品を酒屋さん、飲食店さんの力を借りて販売しているわけですが、酒蔵発信の詳細な情報がここに来てより求められているように感じます。加えてその「情報」はスペックやデータが羅列されたものではなく、シズル感、あるいはライブ感が内包されたものでなくてはなりません。

米や酵母の説明は正直誰でもできます。肝心の消費者の購買意欲をそそるような説明は、本来酒が出来上がるまでの0から100まで知っている蔵元発信が軸となるべきところ、どうも酒屋さん・飲食店さん任せになっている節があります。もちろん酒屋さん・飲食店さんの腕の見せ所でもあると思うので、それが完全にダメだとは思いませんが…。

僕が尊敬して止まないとある酒屋の店主さんに、ある時こんなことを言われました。

「蔵の人間と飲みに行って、その蔵の酒を燗つけて飲もうぜっていう時に、全然その酒のベストを知らないの。しっかりしろよーって思うよね」

そうだよなあ…と思うと同時にドキッとしました。酒造りの全工程を知っていても、実際に酒を飲む・買うシーンでの決定的な仕事ができない。お客さんの購買意欲をそそる仕事ができれば、それを商品にドンドン落とし込みより良くしていけるはずです。直接販売する機会が少ないとはいえ、決して疎かにしてはならないポイントです。

酒蔵が担うBtoC

菊の司酒造は蔵からの情報発信という点においては、かなり前衛的なんじゃないかと思っています。主要SNSのアカウントはそれぞれの傾向に合わせた形ですべて運用していますし、SEOなんかも考えて「きくつかこらむ」という名前の社員連載も行っています。

しかしこれらを見てくださっているユーザーというのは、あくまでも既存日本酒ファンの皆様が中心であり、いわゆる「0→1」の間を彷徨っている潜在ユーザーへの訴求には難があります。

私たちは幸いにも、県庁や市役所、裁判所等が立ち並ぶ「中央通」や、飲食店が集まる「大通り」「八幡町」「桜山地区」といった繁華街など、盛岡市の中心部からほど近い紺屋町に蔵を構えています。新型コロナウイルス感染症の影響により現在は少ないものの、通常なら観光客も足を運ぶエリアです。

情報発信の場というとどうしてもオンラインに偏りがちですが、こういった立地条件であるからこそオフラインでの消費者との交流も活用したい。そうすればたまたま通りがかった、オンラインとは別のユーザー層にもしっかり訴求していける。それが最初に書いた蔵前KURAMAE角打ち開始のきっかけとなりました。

では元々分業制で成り立ってきたこの業界ですが、蔵元が酒蔵を活用した消費者対面において担える役目とはなんでしょう。これには様々考え方があると思います。

個人的には、「文化としての日本酒」を消費者に意識づけることではないかと思っています。酒離れが指摘されている昨今、酒を飲む理由・価値すら提案するのがなかなか難しい状況において、日本酒を飲む理由まで持ち込むのはかなりハードなテーマとなります。

しかし日本酒にはビール、ワイン、ウイスキー、発泡酒…etc.のいずれにもない最大の武器があります。それは日本という国がここまで形成してきた歴史・文化の中の一部だということです。

特に神道や仏教との関わりは深く、神社や寺で酒造りが行われていたことを知っている人も少なくないのではないでしょうか?掘り下げればキリがないないので、きくつかこらむのバックナンバーを見てみてください。

今回こういった歴史の話を滔々と話したいわけではありません。日本で暮らし、日本の文化に愛着を持つ多くの人々には、潜在的に日本酒と慣れ親しむ感性があると思うのです。そして酒が造られた場所でその空気を感じながら飲む経験が、気づきのきっかけになるのではないかと。


そういった「気づき」を促すためには、やはり「酒をおいしく感じてもらうこと」が重要です。直感的においしいと感じる酒を造るのはもちろん、条件がそろって初めて真価を発揮する酒ならば、道筋を作っておいしいまで誘導するのも仕事です。

やはり酒の本質価値は「おいしさ」であると思います。そこがわかってないと造ることも誘導することもできません。スペックはそれを構成する手段にすぎず、目的にはなり得ないのだから、やはり我々が酒を売りこむために最も重要なのは味を理解しているかどうか、そこに尽きると思います。

それを踏まえたときに、実用的な利き酒研修はなんなんだろうという話になります。文脈上、「減点法の利き酒は無意味」と言いたげに見えるかもしれませんが、そういうことではありません。結局なにを目的にしてやるかが重要ではないでしょうか。

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おいしい酒を造るためには、「どういった造りをしたらこういう味になるのか」を勉強しなければなりません。だから従来の利き酒はその酒を造る過程の分析がセットになります。これがなされていない利き酒こそ無意味と断言できます。

今回の社内研修で行った利き酒においては、いつ誰にどこでを明確にした上でセールスポイントを考えることが重要に感じました。そこに具体性がないと実践的ではなく、ただの味の感想が羅列されるだけになってしまいます。次回への反省点ですね。

どちらの利き酒も重要ですが、今までのBtoCの場面・経験が少ないことから、これからは販売に生かすこと常に考えていかなければならないと思います。個人単位でやってた人はいると思いますが、あくまでも企業単位での取り組みとしてです。

利き酒に限らず市場の変化に伴い、今までのやり方・目的に新しい要素を加える、あるいはそもそも根底から覆さなければならない取り組みというのが、次々と出てくると思います。柔軟に対応できる力、アンテナを張り続けることを常に意識していきたいと感じました。


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