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労働のパラパラ漫画を編む【タイミーにハマった話】

昨年の秋頃からつい先日まで、私はタイミーにハマっていた。

どれくらいハマっていたのかというと、実は昨年のクリスマスもタイミーしていた。小料理屋さんの仕込みに入ってみたら、賄いがクリスマスツリーになって、嬉しかった。

まかない〔まかなひ〕【賄い】
読み方:まかない
食事や宴の用意をすること。また、下宿・寮などで作って出す食事や、それを作る役目の人。「寮の—」
料理人自分たちの食事のために、あり合わせ材料作る料理

weblio辞書

まかない。お金をいただいてお出しするのでは無い、生きていくための食事。使える食材も限られていて、大根なんかは筋が多くてお客様には出せない部分。その範囲の中で、できるだけの気遣いをしてくださったのがとっても嬉しかった。

でも、年が明けたら、この賄い作ってくれた人が、お店からいなくなっていた。異動になったのか、それとも飛んだのかは、タイミーの私には分からなかった。

これはそんな令和らしい「労働のパラパラ漫画」を、半年ほど続けてみた所感の記録です。


「お店開拓、内側からすれば効率いいのでは?」

昔から食にのめり込んでいた私は、学生時代、大阪で、イタリア直輸入のピザ窯を設置しているイタリアンレストランにて、薪火でナポリピッツァを焼くバイトをしていた。

イタリア人仕様で背が届かなくて私用の踏み台用意してもらってた

400℃近くになる窯の前でずっと作業をしていた私の腕は常に低温やけどの状態。その後遺症か、今でも猛暑日や疲れたりすると、腕に斑点が出る。それでも、一日何百枚ものピザを黙々と焼き上げる作業は性に合っていた。

あれからもう何年もの月日が経った。

それなりに自分の心身の強さとか限界というのも学んで、体力勝負の飲食の現場のに立ち続ける体力みたいなものは持ち合わせていないということを思い知った。それでもやはり私には食しかなくて、なんとか食の仕事を軸にして生きている。

これは先日の仕事現場

さてそんな私も大人になり、最近は、お金の感覚が昔と変わってきていることが気になっていた。

学生の頃は「時給が100円違うだけで1日4時間入ったら400円、週3日で1200円も違うのか……」なんて計算をしていたのに、今はもう、1案件で何十万だとかの案件にも目が慣れてきて、いただくお金も、そして使うお金も桁が変わってきてしまったのだ。

自分の時給単価だとか、投資だとか、不労所得だとか。

そんな話もどこかで聞いたりしながら、ある程度お金を稼げるようになり、そして使うようになって、改めて思うことがある。

結局、自分が労働して稼ぐお金が一番信頼できるのだ。

皆が羨むようなお金持ちというのは、ただただ豪遊しているように見えて、日々そこらへんの人よりもずっと考え続けて、努泥臭いことを日々繰り返していることにも、改めて気がついた。

それに騙されて、楽して稼ごうとしたりすると、お金のことを考えすぎると、何かが狂う。そんなニュースが、先日も世間を騒がせている気がする。簡単に手に入れたお金は、簡単に消える。


タイミーとの再会

タイミーとの出会い、いや再会は、2023年11月末の夜中だった。
深夜のテンションで家中をニャトル・ランしていた猫を宥めながら先々のスケジュールを眺めて「会食飽きたなあ……」と思っていた。

これは怒られて隠れてるつもりのテト君です

先述の通り、自分の中でお金の感覚、そして消費と生産のバランスが狂ってきている自覚もあったし、何より会食でのコミュニケーションから、何か生み出せる営業力や生産性が、私には備わっていなかった。

色々と考えを巡らせていたら、なんだか学生の頃毎日立っていた飲食の現場“原点”に再び立ってみたくなった。時給100円の違いに頭を悩ませていたあの頃に、そして何よりもくもくと食洗機でお皿を洗ったり、皿を拭いたりすることを、久々にやってみたくなった。

ただ、私自身現状の働き方からして、明日いつ仕事が終わるかわからないし、そもそも、よくある「週3日4時間以上」なんてやってたら、本業がどうにかなってしまう。そして、大前提、接客が本当にダメ。加えて、バイトするにしても、そもそも面接の準備が面倒すぎる。履歴書なんてどうやって書けばいいのか忘れた。(加えて私は転学部しているので本当に履歴書が面倒くさい)

それでもまあ、会食は本当に飽きたしなあ、と思いながら、とりあえず「東京 日雇い 洗い場」で検索をすると、タイミーが一番にヒットした。

タップしてみると、過去の私が会員登録まで済ませていた。そういえばまだ会社員として某料理系会社の新規事業開発部署にいた頃、事業責任者であった上司がタイミーの運営チームと何度かやり取りをしていて、このサービスが次来るよ、という話を聞きながらダウンロードしたことを思い出す。

アプリを開いてみて、その当時との違いに驚いた。

ダウンロードした頃はコロナ禍だったこともあり、飲食店の募集がほとんどなかったように思うが、今は「今日、この後来てほしい……」という、切実な募集がずらっと並んでいた。しかも、「30分後に、1時間だけ」というのも結構ある。そして驚くべきことに、私が気になるな、と思っていたお店がたくさん載っているのだ。

実は私、過去にも時々皿洗いバイトがしたくなる発作を起こしては「時間ない」「面接だるい」「週3で4時間とか無理」「接客無理」という壁にぶち当たって夢破れてきていた。

だからこそわかる。

こんなに環境に恵まれている時代は、後にも先にもそうそうない気がする。

検索条件を「キッチンのみ(できれば洗い場)」「まかない付」にして検索をかけ、記念すべき一番最初のタイミー先に、評価が高めの、渋谷の居酒屋のキッチンスタッフ・まかない付を選んで、そのままファミマとドンキに行って、コックシューズと白いシャツ、黒いズボンを買い揃えた。

「メモ、取らなくていいよ」

当日は結構緊張した気がする。
15分前に到着してくださいと書いてあって、きっちり15分前に到着した。
案内されたバックヤードに入ると、私の制服と名札が用意してあった。

フロアから切り離された厨房だったので、タイミングによっては接客を必要とされる、なんてこということもなく、安心だった。

最初はにつきだしの「子持ち昆布のフライ」の揚げ方を教えてもらうことになったので、メモを取ろうとすると、料理長に「メモ、取らなくていいよ」と言われた。続きは口にこそしなかったけれど「今日だけだし」という意味合いだろう。正直、最高だと思った。

その日覚えられることを繰り返して、6時間の勤務時間を終えた。次までに覚えてくることもない。人間関係も今後のことを考えて築く必要もない。まかないは牛丼だった。帰りに退勤のQRコードを読み込みながら改めて、最高だと思った。

私もとても楽しかったし、料理長は「包丁が使える人が初めて来た!」と、私を認定ワーカーに入れてくれて、優先的にシフトが届くようになった。店長さんとも連絡先を交換し、人が見つからないときは連絡がきて、18:00に入れない場合は18:30で枠を作ってもらって、手伝いに行ったりした。3回目のシフトインから、私の名前が書かれた500mlペットボトルが料理長から支給されるようになり「子持ち昆布、やり方覚えてる?」と聞かれるようになったので、再びメモを持参するようになった。駅近のチェーン店に見えて、地方の港での競りに参加できる権利を持った会社が運営しているらしく、かなり美味しい魚が食べられるのが、この店のウリらしい。こういうのを知れるのが、タイミーの醍醐味だと思った。

しかし、次第に、18:00-23:00という労働時間がなかなかに体調に影響することがわかり、シフトを減らしていった。同時に、早めに進学が決まって上京してきた男の子が通常契約のバイトとして入り、手数料の高いタイミーへの打診は少しずつ減っていった。「最近シフト入ってないじゃん」のやり取りもなく、歯切れ良い関係の切れ方が、やはり最高だと思った。

この後、同じエリアで色々と入ってみたが、この居酒屋がタイミーワーカーをいかに大切に扱っていたのかを思い知ることになった。1回しか来ないかもしれないタイミーに名札用意してくれてたのはここだけだったと思う。

昼の仕込みのプロとなる

夜の労働や4時間以上労働が難しいと学んだ私は、「労働時間が4時間以下」「勤務時間21時まで」を条件に追加し、見つけた小料理屋に、昼の仕込みに通うようになったあたりで年が明けた。冒頭のクリスマスツリーのまかないは、このお店でいただいたものだ。

年が明けて飲食店はわかりやすく閑散期に入り、求人の量が目に見えてグッと減った。タイミージャンキーと化していた私は、食べログではなくて、タイミーでお店探しをするようになっていたので、かなりの時間タイミーを見ていたが、一般に出た求人は瞬く間に枠が埋まっていく様子が伺えた。年末までは「タイミーだけで生活できそうじゃん」と思っていたが、そんな簡単にはいかないか、と思い直した。かくいう私も、小料理屋でももしっかり認定ワーカーをいただいたおかげでシフトインできていたが、それがなければ、入れる枠がなかったと思う。

2店舗目は、そんなに高級な価格設定でも無いのに、仕込みでイチから丁寧にだしをひいているのに感動して、タイミーワーカーとして通うようになった。オープンキッチンだが、昼の仕込み時はお客さんはいないので、特に問題ない。何より、作業中ほとんど話しかけられないのがとても性に合っていた。回ってくる業務は、ゆで卵を100個剥いたり、ロールキャベツを100個作ったり、餅巾着を100個詰めて、結んだりするという作業。正直、この作業がこんなに私に向いているとは思っていなかった。

しかも、季節感豊かなメニュー展開をしているので、日々扱う食材が変わるのも良かった。仕事に慣れ始めた春は葉ごぼうのささがき、初夏は茄子や万願寺ししとうをこんがり焼いて、皮を剥いたりさせてもらえた。改めて自分は料理が、いや、単純かつ細かい作業が好きなんだと思った。

最初の方は楽しくて仕方がなくて、本業を調整してどんどんシフトを入れていたもんだから、店長や料理長にお金に困っている人だと思われたようだった。キャベツの冷製サラダを作るために、キャベツの芯を全て切り落とすのだが、その芯を袋に入れてくれて「持って帰る?」と聞かれた。こういう時の喜ぶ顔は誰よりも上手な自負がある。というかシンプルに嬉しかった。家に帰って軽く湯通ししたのち、ファミマで買ったザーサイと切り揃えて和え、ラー油をかけて食べると美味しかったと料理長に報告した。


お母さんに「今日はこんなのもらった」と送った動画しか残ってなかった笑

これを聞いた料理長は、牛タンの根元、わかめの茎、春菊の茎、揚げ損ねたがんもどき等を私にくれるようになった。牛タンの根元はすでに味もついていたので特に調理は必要なかったので細かく割いて食べた。わかめの茎は生姜醤油。春菊の茎は、ちょうど仲良くしていただいている代官山の小さな書店の店長、陽子さんに「中華スープベースに、レモンを効かせたところにパクチーの代わりとして入れる」というレシピを教えていただき、とても気に入って何度も試した。(ごま油たらすとなお美味)

私は出勤時、IKEAの青いビニールトートの小さいサイズに空のお弁当箱を入れて持って行ってたのだが(まかないを持ち帰りにしていただいてた)、食材も合わせると、持ち帰るモノの量がどんどん多くなり、途中からIKEAのビニールトートを、大きいサイズに変更した。料理長も、本当に料理が好きな人のようで、それを喜んでいて(あとは私が本当に可哀想な人だと思ってたのかもしれない)、ある日少し空いてシフトインしたら、45Lの袋にキャベツ10個分くらいの芯が入っているのを「喜ぶかと思って!」と渡され、さすがに面白かった。

海老で鯛を釣る(鯛ミー)

こういうエピソードができると、私は馬鹿の一つ覚えのように行く先々で話す節がある。特に食に関するものとなると饒舌になる。会食こそ減らしていたものの、個人で仕事をしている私は、毎日違う人と話す機会があるので「最近タイミーにハマっていて、油揚げを半分に切って、中に餅を詰めるのも楽しいんですが、何より楽しいのは干ぴょうで綺麗に縛るのが本当に楽しくて、1時間黙々と、ずっとやってられるんです!余りで出るキャベツの芯は持ち帰って、ザーサイと合わせると本当に美味しいんですよね!」と意気揚々と話した。そんなどこか自慢げな私が面白いらしく「暇なの?笑じゃあうちの仕事手伝ってよ」と、タイミーエピソードで商談を10個くらい成約させた。現場仕事を楽しそうにやってるのがプラスに見えたりするのかもしれない。

そして

そんな風に「仕事のわらしべ長者」をしていたら、タイミーのシフトインが週に1回できるかできないか程度に忙しくなってしまった。かなり先々のシフトまで案内が来るが、予定が読みづらくシフトインできず、せっかく入れても、キャンセルをすることが重なった。そのせいだろうか。もしくは、一言程度のレビューが表示されないのを良いことに、いつも「ありがとうございました!」しか書かなかったせいだろうか。いや単純に何かしてしまったのかもしれない。7月中旬から、どうやら認定ワーカーを外されてしまったようで、いつも見ていたシフトではなく、余ったシフトしか見れなくなってしまった。

半年勤務したとて、タイミーは所詮タイミーだ。料理長はタイミーのシステムをほとんど触っておらず、日中ほとんど席を外している店長が触っている。ダメ元で「次のシフトって、出てますかね?」と料理長に聞いたが「俺わかんないんだよねえ」と本当にわからない感じだったので「そうですよね」とだけ答えた。

この半年は、タイミーが家に引き篭もりがちな私が外に出る理由になっていて、餅巾着を結ぶのが頭の中を整理する時間となっていたので、悲しくはあったが、不思議と新しいタイミー先を探そうとは思わなくなっていた。ある程度やり切ったのかもしれない。

また年末などの繁忙期が近づいてこれば、タイミーワーカーとして降格してしまった私にも、シフトインするチャンスが回って来るかもしれない。次いつになるだろうなあ、と思いつつ、直近最後のシフトインになった日、料理長はなぜか「お米、いる?」と聞いてきて、お米を1kgプレゼントしてくれた。もしかして餞別のつもりだったのかもしれない。この日は帰路の荷物が過去イチ重かった。

最後にレビュー紹介

リスキリングなんて言葉が持て囃されて、なんとかスクールみたいなものに通うのも良いかもしれないけど、手っ取り早く小銭を稼いでみたいなら、タイミーをとてもおすすめしたい。シフトインできてないけど、歌舞伎町の雑居ビルでシャンパンタワーした後のグラスをひたすら洗う仕事とか、客単価3万とか5万円とかする高級店も洗い場にタイミーを募集してたりする。レビューに「謎の白鳥の頭がついた皿を洗うのが大変だった(20代女性)」とか「お店が駅から遠くてとてもわかりにくいところにあったけど、まかないがとんでもなく美味しくてびっくりした(10代男性)」とかあって、この子達は画面ワンタップで、とんでもなく貴重な体験をしているな、と羨ましく思ったりもする。

そして、これを読んで「タイミーなんて使うお店なんて!」と思う人は、一度タイミーで入ってみると良いと思う。タイミーを雇い入れているお店は、どんな人が入っても業務に取り掛かれるよう各所に説明が貼ってあって仕組み化されていて感心するし、逆に「ここ自動化すればいいのに」みたいなことを、現場の人たちが、完全な職人技で毎日解決してたりする。何事も、大体現場に、視野を広げるいろんなヒントが転がってると思う。

また「タイミーは若い人だけが使ってるわけじゃない」という内容のCMが流れていることは、小料理屋の料理長から聞いて知ったのだが(地上波全く見ない)、これについて、私が見つけたレビューを1つ紹介しておく。


タイミーを1年以上続けているお店は、ワーカーからの店舗レビューが何百件も溜まっている。基本的にはお店ごとに入った日と年代と性別しかわからないようになっていて、そこで密なやりとりは基本的に発生しないのだが、あまりにも強烈なスタッフがいると「レビューによく登場する例の人」となって、度々登場する。「レビューでよく登場する方に、酷い扱いを受けた」「レビューを見ていたので、この人だとわかりました」といった具合だ。

一店舗、あまりにこの「例の人」が登場する店舗があり、面白く読み進めていると、なんと80代の方が同じようにレビューを読んで、人間観察しにタイミー行ってしっかり楽しんで帰ってきていた。強すぎるやろ。

私もこんな80代女性になるべく、日々鍛錬に励むのみである。



#創作大賞2024 #ビジネス部門






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