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たっこちゃん、齢ほぼ80歳 #34 上を向いて歩こう

70代で人工関節置換術をしたたっこちゃん。手術後もその前も下を向いて歩いている。足元が怪しくてちょっとの段差につまづくからだ。

コンビニの駐車場の縁石にけつまずいた苦い経験もある。

下を向いているから縁起が良いゾロ目ナンバーの自動車にも、新しく建った洒落た扉の一軒家にも気づかない。

そのかわりに早春の道端に咲いた小さなスミレや犬のう◯◯にはよく気づくいて教えてくれる。
「う◯◯あるで~踏んだらあかんで」
気づいてるっちゅーねん。

落ちている小銭にもよく気づく。
一緒に歩いていると「100円落ちてるわ」と言われるが大抵はゲームコインだったり、銀色のガムの包み紙がそれなりに丸くなったものだったり。

小銭を見つけたとしても膝と腰が曲げにくいから拾わない。拾えない。100円だったら悩んでやっぱり拾わない。拾えない。500円だったらどうにかして拾いたいらしいが、いまだ遭遇したことはない。

遭遇しても十字路だったら絶対に拾わない。私もだ。

「ものもらいやおできができたら硬貨で撫でて家からいちばん近い十字路に置いてくると治る」

母の家系で代々伝わってきたおまじないを信じているからだ。

告白するとわたくし、中学生のころおでこに大きな出来物ができた。化膿したニキビだったかもしれない。悩んだ末にそのできものに10円玉をスリスリ撫で付けて、自宅から一番近い十字路に置きに行った。

1円玉はダメでも10円玉なら拾ってもらえるかもしれない、100円玉はちょっと惜しい、そんな感じだった。

置いている姿は誰かに見られてはいけない。その日も暗くなってからでかけた。まるで丑の刻参りじゃないか。

自分の災いをお金を餌に誰かに引き受けさせるとはなんて恐ろしいまじないなんだろう。中学生の私はそこまで考えなかったけど。

たっこちゃんが田舎から大阪に出てきて間もない頃、祖母と町を歩いていたら十字路にりんごを見つけた。りんごは白い紙の上に置いてあったらしい。

「さすが大阪。道にりんごが落ちてるんか」

りんごに目が離せなくてじっと見ていたら横にいた祖母が言ったとか。

「触ったらあかん、まじないや」

たっこちゃんはその時初めて、小銭だけでなく食べ物をスリスリ撫でて置くパターンもあると知った。私は今初めて知ったよ。

話が不思議系にいってしまった……。

一緒に歩きながら
「下向いてたらぶつかるやん」
「前から自転車来たら危ないやん」
そう言っても
「避けれくれるわ」
たっこちゃんは他人をめちゃくちゃ信じてる。相手もそう思っていたらどうするんだ。ぶつかるやん。

もう少し、上を向いて歩こうよ。
梅の花が咲くころだもん、眺めなきゃ。人様さまのお庭の梅ではあるけれど。


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