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#004 常磐線と平田篤胤〜遺骨を運ぶ

君が生まれるずっと前のこと。
(今回は、番外編のような過去のはなし。)

たしか20年くらい前。わたしの父は、実父の遺骨を常磐線で運んだ。

祖父は茨城県の土浦市で暮らしていて、老いて体調を崩して市内の病院に入院した。
医師だったわたしの父は、勤め先ではないその病院の病室に見舞いに行き、
「この状態だったら、たぶんあと一週間だろう」
と予言(?)し、祖父は息子の言葉に合わせたように一週間後に亡くなった。
その骨を、父は自宅のある東京の目白まで胸に抱いて運んだ。常磐線と山手線に揺られて遺骨を運ぶなんて、なかなか見ない光景だと思う。

でもわたしにとっては、常磐線は祖父宅への電車であり、それ以外の目的がなかったから、常磐線でうちにやって来たことに何の違和感もなかった。骨だけになっていてもだ。

わたしは幼い頃から、夏休みになると新幹線と常磐線を乗り継いで祖父の家に遊びに行った。居間には壁一面に本棚が有り、もう一つの部屋にも本棚があり、興味深い本がずらりと並んでいた。
時代がかった文学全集や、科学系の新書も多かったけれど、なによりもわたしが心惹かれたのはオカルト関係の本だった。

理系だった祖父がいつから興味を持ち始めたのかはわからないけれど、そこには「霊魂」「世界七不思議」「UFO」「生まれ変わり」「ピラミッドの謎」なんて本たちが並ぶコーナーがあって、神道に傾倒していた祖父はそれに加えて出口王仁三郎、平田篤胤の本がどっさりとあったのだ。そして比較対象として読んだらしい、西洋の神秘家の本もいくつかあったと思う。

そう、祖父は魂の存在を強く意識し、死後の世界や、魂とは何ぞやということに興味を持っていたのだと思う。

今回は過去話でして、むかしの常磐線の写真がありません。
これは現在の西武秩父駅です。

一方で孫のわたしはと言えば、幽霊や妖怪の存在に興味津々で、ひたすら「怖いけど面白そう」な本に食いついていた。平田篤胤というひとが聞き集めた『仙境異聞・勝五郎再生記聞 』、生まれ変わり、あの世の訪問譚、あとは『古事記』に関する本も昔話と思って読み漁った。

さらには、そういった異界や生まれ変わりが、結局科学じゃ解き明かしきれないというオチの本たち。祖父の家にあった本は行方不明だけど、『科学で解き明かす超常現象 ナショジオが挑む55の謎』といった内容の本があって、それがいたく面白かった。

要するに、祖父は(神道を信仰していたけど)信仰こそ正義ではなかったのだ。掘り下げることで、何が真実なのか探り続けたのが祖父だった。

この祖父のおかげで、わたしは雪男やUFOや生まれ変わりや予言など目に見えない世界にはまり込んだ割に、宗教や信仰には妙にクールで、何かや誰かだけを信じるということはせずに成長することができたんだと思う。

祖父が亡くなって、わたしは常磐線に乗ることがなくなった。

でも上野の博物館にきみ(4歳)を連れて行った時、常磐線が走りだすのを横目に見たわたしは、瞬時に祖父の本棚を思い出した。
いま、祖父の魂はどのあたりを旅しているのだろうか。

これもまた常磐線ではなく、西武鉄道の運転席です。
亡き祖父のひ孫=私の子共(4歳)が撮影したものです。

(今回は番外編のような過去話でしたが、次回は先月乗った流鉄について書こうと思います。)

書き続けるために使わせていただきます。 おいしいワインも買います。