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仕事は尊い

たまにアルバイトをしている飲食店の厨房に、玉木宏によく似た顔の綺麗な男の子がいる。優しくて温厚でレディーファースト。仕事は無駄がなくテキパキと。私のようなスポットアルバイターが何ヶ月も前にフト漏らした一言さえもきちんと覚えていて、それとなく話題を振ってくれる気遣いっぷりだ。この子、モテるだろうなぁ。そのビジュアルならいくらでも好きな世界を選び取れるだろうに、数ある職業の中から料理人を選んだのは何故だろう。機会があれば聞いてみたいけれど、厨房はいつもてんやわんやでなかなかそんな深い話などできない。余談ですが、私は仕事でてんやわんやになることがとても好きです。


私にはいわゆる【専門職】と呼ばれる職業に就く友人が多い。料理人や、美容師や、看護師なんかね。

私は彼らのように【その道のプロ】と呼ばれる職業に就く人々を心から尊敬している。
「この腕1本でやってきた」なんて言われると、スタンディングオベーションのひとつもしたくなるくらいには尊敬の気持ちを持っている。

彼らは決まって「自分はこれしか出来ないから」と言う。この業界しか知らないから、ずっとこの世界でやってきたから、だから自分は、これしかやれることがないんだ、って。

そんな風に言える何かがあるってとてつもなく格好良いことだ。羨ましい。未だに何ができるかと聞かれても答えに詰まるほど、何かを極めることも秀でた才能も持たない私だ。これは謙遜でも自虐でもない。こんな自分がよく20年も職を失わずにこられたものだと、おまえほんとに運だけはいいな、と自分で自分に感心しているくらいなのだから。

私もいっとき「その道のプロ」とやらを目指してみたくて専門職の世界に足を踏み入れたことがあるが、根気がなくてあっという間にフェードアウトした。そもそも、その分野にさほど興味もなかったので全く身に付かなかったし、はっきり言って苦痛だった。いつも動きながら考えればいいや、という方なので、動いてから、あ…と気づいたおバカっぷり。でもその回り道があったおかげで東京に来られる機会を得たので、人生はうまくできているのかもしれない。

プロの世界に足を踏み入れて分かったことは、そもそもその道のプロたちはそれをやることが好きなんだよね。料理人は料理が好きだし、メイクアップアーティストはメイクや美容が好き。好きだけで食べていけるほど甘くはないんだろうけど、好きでないものを、やりがいを見出せないものを続けることなんてできないんじゃないかな。そうでなければ説明がつかないよ。プロの世界は腕を問われるし、体力的にも楽じゃない。


そしてこれまた何故だか、私の周りには無から有を生み出す才能を持つ人が多い。起業家タイプというのでしょうか。

日本人は人口の8割?9割?が雇われの身、つまりはそのほとんどがサラリーマン、という世界でも珍しい国らしい。にもかかわらず、なぜか希少価値のあるマイノリティタイプがやたらと多い。

0→50を生み出すことより、50→100に仕上げることのほうが圧倒的に簡単だ。しかし彼らに言わせれば、それは逆らしい。「アイデアが思い浮かぶってものすごいことだ。私には言われたことを言われた通りにやることしかできない」と私が言うと「それは才能では」と友人が言った。

「こちらの言った(思い描いた)通りに仕事を返してくれる人は、そこまで多くないよ」

これは目から鱗だった。タイプの違う人間と話すのはこれだからおもしろい。こういうタイプの人はだいたい頭の中にアイデアがパンパンに膨らんでいるけれど、それを言語化するのがあまり得意じゃない。天才によくある、ひとつのことに秀でていればいるほど他の分野がてんでダメってパターン。何を言ってるんだか、何がしたいのか、凡人の私にはさっぱりわからない。もっとわかるように説明してくれと言ってもあまり効果はない。熱量だけは凄まじいので、それを拾っていくのは大変だ。それがまた楽しいし、燃えるんだけど。

自分には当たり前にできることが他人にとっては難しい場合もある。その逆も然りだ。適材適所。全員がステージに立つ必要はない。裏方がいて、観客がいるからステージが成り立つのだ。みんな違うから、世の中はうまく回ってる。


自分からこれをやりたい!極めたい!ということより、人から求められることを形にすることが私には向いているし、やり甲斐もある。20年働いてやっと分かったことはそれだった。

その方がスムーズだし、さほど苦も無くフィードバックしていても感謝も重宝もされる。もちろん「全然違う。やり直して」と言われることもあるんだけれど。

ホリエモンが言ってた。「1年後の世界すら予想がつかない時代に生きているのに10年後のことなんかわかるはずない」って。あの人、たまに良いこと言うよね…。私も全く同感だ。だから先のことはあまり不安に考えず、今、自分が好きなことに、必要とされていることに夢中になるのが一番なのだと思う。あっという間に変わってしまう価値観や常識に対して柔軟であること。あちこち方向転換しても、あいよ〜。と言えるノリの良さを持ち続けること。それだけが大切な気がする。だって考えてもみなかったもの、リモートワークができるだなんて。


どうでも良い話だが、20代の頃よく占いに行って、結婚できますか?とか今の彼氏との相性はどう?なんて聞いていた。(見ず知らずの他人に相性を聞いている時点でやめておけ、と未来の私からアドバイスをおくります)

占い師はまるで口裏を合わせたようにこう言った。

「貴方は絶対に!仕事を!辞めないでください!」

こちとら金を払っているのにまるで答えになっていないが、とにかく仕事は辞めるな、そればかり念押しされて帰るのが常だった。私は例え自分にどんな環境の変化があっても仕事を続けなければならないらしい。仕事をすることで心身のバランスが保たれ、ひいては人間関係も家庭内も円滑になるとのことだった。

わかるわ〜。

仕事があるからバランスが取れている。例え不労所得があっても辞めないと思う。どんな仕事でもいい。どんな仕事でも、私にとっては尊いから。できるだけ長く現役でいること。その道のプロにはなれなくてもいい。求められている限り社会に還元したい。目標や夢があるとすれば、それが私の大きな目標のひとつかも知れない。

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