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140字小説まとめ 夏

星々という140字小説コンテストに毎月応募している。夏の分がたまったのでまとめて載せます。


6月(お題は流)


雲は流れない。雲を生む気象条件が連続して発生しているだけで、同じ雲ではないんです。昨日、お天気お姉さんがそう笑ったので、僕の人生は輪切りになった。昨日の僕と今の僕は偶然似た姿をしてるけど、実は違う人間なんだ。だから平気。盗られた財布も、今の僕のものじゃない。明日から学校に行ける。

その店では隕石のかけらを売っていた。燃え落ちてずっと小さくなった、流れ星の成れの果て。陳列棚は星の墓場だ。いつか死ぬならお寺じゃなくここに納まりたいですねと言うと、店主は黙って予約票をくれた。予約票は掌サイズでひやりと冷たい。飛び降りたい夜、ベランダでかざすとうすぼんやりと光る。

永遠を信じなかった。寄せ書きに色つきのペンで書かれる「一生友達」を嘘っぱちだと思っていた。時は流れるし心はうつろう。人の誓いが破綻するのを見るのが好きだった。あなたからの10年越しの手紙が届くまでは。約束の夜、私はあの場所へは行かない。どうかあなたも私を忘れてほしい。一生、永遠に。

ジョージアのトビリシには市内を流れる川があり、その岸辺に無人の屋台らしいものがいくつかあった。近づいてみるとそれは小さな移動式の本屋なのだった。棚には鍵がかかっていた。売り物か貸し本か、店主が来ないかなと待っているうち日が暮れた。旅を終えた今、あの店にあったはずの本を書いている。

ウズベキスタンの胡桃と乾燥デーツは麻薬的な美味さだった。初めて齧った瞬間、シルクロードを行く商団の駱駝が見えた。挨拶のたび流れる祈りのようなサラームの声。実際祈りなのだろう。私が祈り返すならこうなる、あなたの胡桃とデーツがずっと美味でありますように。ちなみに絨毯はぼったくられた。

7月(お題は放)

「君は不要だ」と言われ魔王戦の前にパーティーから追放された。物語なら、実は秘密の能力があって…という展開だが、俺は本当に凡人だ。勇者も魔女もエルフも剣聖も、俺なしで問題ない。大人しく故郷に戻り、穏やかに畑を耕している。「君の顔を見るとほっとする」と笑った勇者の顔をたまに思い出す。

親が陰謀論に染まった。このご時世よくある話だ。予言がどうとか言い出した時に放っておかなければよかった。いやまだ間に合う。ねえお母さん、私ーーうん、 宇宙人が予言をくれるの? そう、でも……えっ? それで宝くじ当てた? 3億!? ほ、ほんとだあ。 えー、ちょっとこのまま放置しようかな……

長年の友人とケーキバイキングに来た。勇んで臨んだが三つで満腹になる。彼女と食べ放題に来るようになって今年で八年目、年を経るごとに食べられるケーキの数は減っていく。まるでカウントダウンだ。残り0になった時、私達はお互いに何を食べさせ合うだろうか。あと二年。腹をぐうぐう空かせて待つ。

悲しみを放電できるふしぎな機械を買った。早速使ってみると、放電された電気が集まり子猫の形をとった。嬉しくて、撫でたり添い寝したりした。だがある日、子猫は忽然と消えてしまった。製造元の電話は繋がらず、訪ねた社屋は廃墟。親とはぐれた子猫が一匹いて、そっと抱き上げると胸に電流が走った。

異世界の悪役令嬢に転生した。王子に婚約破棄をされ、魔法学校も放校処分に。前世は高校中退のスケバンなので懐かしくすらある。最後に校舎裏で煙草を吸っていると灰が足元の蕾に落ちた。意思のある蕾は口を極めて私を罵る。摘み取って「かわいいな、一緒に家出するか?」と誘うと、蕾はぽっと咲いた。

8月(お題は「遊」)

高等遊民の友人がいる。資産家の生まれで一度も労働したことがない。海が好きで、クルーザーで釣りと飲酒ばかりしている。俺が死んだら遺産ちょっとやるよと冗談で遺言書まで書くような気のいいお調子者で、みんなが彼を好き。もちろん俺も。だから死体は船の事故を装って、ちゃーんと海に捨ててやる。

孤独な魔術師に友人ができた。友人は朗らかで明るく、魔術師を毎日遊びに誘った。魔術師ははじめ喜んだが、失望されることに怯え、悩み、ついに不安に耐えかね絶縁を言い渡した。古来から繰り返された、ごくありふれた喜劇だろう。分かっている。だがそれがなんだと言うのだ。あなたに何が分かるのだ。

よく百貨店の屋上の遊園地に連れていってもらった。その百貨店は先月、イオンと過疎化に敗北し廃業した。老朽化した建物だけ残して。あの遊園地はどうなったのか。深夜、鍵を壊し忍び込む。やたら広い階段を七階分登り、屋上に出ると、そこにはもうなにもなくて、私もそのままどこにもいなくなった。

子供の頃、シャベルで庭を掘っていると土の下から「遊ぼう」と声がした。いいよと答えた。うかつだった。気づいても遅く、幽霊は私に取り憑き永遠に離れられない。あれから十年、不幸が続いた。今も彼氏の死体の前でめそめそ泣いている。あの時も友達を埋めてる最中だったのに、ほんとうかつな幽霊ね。

村に流星が落ちた。正確には宇宙から飛来した虹色の石だ。UFOの欠片か宇宙人か遊星からの物体Xかと連日新聞を賑わせた。でも僕は神様の卵だと思う。そういう本を読んだんだ。村役場から卵を盗み出し、ママの自転車で海へ向かった。体操着の懐で卵を暖める。神様、孵化したら、どうか僕を許してほしい。

<ひとこと>
親が陰謀論にはまったのはほんとですが宝くじは当たりません。8月は死体を埋める話を二作も書いている。よく死体を埋めたり死体を沈めたりするのを書いてしまうし、そういう夢もよく見るので、誰もが使いやすい汎用性があるネタであるのと同時に、好きなんだろうと思います。この前ツイッターで「海育ちの人は殺してしまった死体を山に捨て、山育ちの人は海に捨てる」というような説を見て、真偽は不明ですが興味深かったです。私は山育ちなので確かにどちらかというと海に捨てがちです。でもよく考えれば、自分に地の利があるところ、土地の性質が分かるようなところに捨てた方がいい気がしますね。
高等遊民の知人は実際にいます。

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