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オリジナル小説『しゃべるピアノ』 ショートショートnote杯

そのピアノは楽器の癖によく喋るピアノだった。上手ければ褒め称え、下手ならば容赦なく貶す。
不気味と揶揄されたが、演奏に対する評価は本物だった。
「君はどうしてそんなに酷いことを言うの?」
「あなたの演奏が酷いからよ」
少年は天才と呼ばれたが、喋るピアノは少年を誉めたことは一度もなかった。
「みんな僕を誉めてくれるよ」
「そんなの今だけよ。大人になったら誰もあなたを誉めたりしないわ」
冷たい言葉に涙を浮かべながら、少年は毎日喋るピアノで曲を奏でた。その結果、罵声は少しずつ止んでいった。
だがある日、喋るピアノは再び声を荒らげた。
「今日は特に酷いわ。また明日出直してきなさい」
少年は悔しさを噛み締めながら家へと戻っていった。
そのすぐ後だった。火災が発生したのは。
建物は全焼。喋るピアノも焼け焦げ、二度と喋ることはなかった。
喋るピアノは火事に気づいていたのだろう。少年は泣きながら練習をかさね、一流のピアニストに成長するのであった。

#ショートショートnote杯

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