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20年12月21日(月)「猛牛」

腹の底から胃液が上ってくるような気持ち悪さがあった。ひたすら恐れ慄いていた相手が画面越しに対峙している。

ヒヨコの僕は姿の見えない猛牛を相手に肺の中にあった酸素を音に変えて言葉を投げた。「あなたにはトゲがあるのです。それは言葉のチョイスだけではなく、そんな雰囲気にさせているのです」

今思い出しても足が地面に着いていないような不安定さのある口調だったと思う。己の感情の言語化。そしてそれを己を食わんとしている獣にぶつけたのだ。相手はその気になれば全てを弾き飛ばし僕の喉をかき切るであろう。

だが、それでも言った。自分の抱えていた黒いネットリとした感情をすくい取って投げつけてやったのだ。猛牛は静かに「はい」と答えた。その後の空白の時間が永遠と思えるほど長く感じる。窓から差し込む国分寺の光がやけに僕の首筋を焼いていた。時計の秒針の音が聞こえた。終末の足音のように聞こえた。

僕の様な下っ端が上司に意見するのはとかくハードルが高い。話し方だの、がっかりさせないで欲しいだの、お互い大人だの、場当たり的な言い訳をするなだの、自分のミスを棚に上げて責め立てる厄介な女人という名の猛牛。

死にそうな思いをしながら意見した。それだけでいい。だがこの猛牛はいつも僕の弱点をロジックに沿って指摘してくる。そして僕は自分を省み得る。きっとこの人は僕にとって必要な人物なのだろう。悔しいが。悔しい…からせめて悪口に「猛牛」と呼ばせてもらう。

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