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国境の北へ(ジョージア冬旅日記)

12月は師走というけれど、本当に一瞬で毎日が走り去り、連日くたくたで、それでも風邪もひかずになんとか任務(イベントのボランティアをしていた)をこなせてよかった。ほっとしたのもつかの間、これまたばたばたと旅支度(冬タイヤに交換したり、スノーボード用の荷造りしたり、留守中の猫の世話を頼んだり)をして、ジョージアへ出発。今回もまた自車で走る(運転は全て夫任せ)。

朝5時に家を出た。冬の朝は遅く、外はまだ暗い。本当に私は筋金入りの雨女なので、出発も雨、しかも濃霧。視界がなく緊張して運転している夫を横目に、ぽかぽかの車内で私はうとうとと眠る。少し、夢を見た。子どもの頃のクリスマスの夢。

バクーから、クルムズキョルプ「赤い橋」の国境までは、高速道路を走って5時間以上かかる。ゲンジェの近くまで来てやっと霧が晴れた。そこで私はぱっちりと目覚めて、ごそごそと朝食を取り出す。プチトマトとチーズと、わかめごはんのおにぎり。夫は、ハンドルを握りつつも、もりもり食べる。私は、サーモスのお茶を手渡したり、おにぎりの包みをむいてあげたりする。車の中で食べるおにぎりは好きだ。それからクリスマスソングをあれこれ選んで、ワンダフル・クリスマスタイムだの、ラスト・クリスマスだの、マライアキャリーだのを聴く、年末だなあと思う。

国境の審査を無事終えると、トビリシまでは小一時間の道のり。小雨が降り始めた。今晩はトビリシに一泊して、北のスキーリゾートに向かうのは翌朝にした。だから、今日はのんびりおいしいものでも食べて、あとはホテルのプールで泳いだりしてのんびりしようかということになる。

遅い昼食は、韓国レストランにした。グーグルマップであらかじめ調べておいたので、お店はすぐに見つかったのだけれど、駐車に手間取る。路上のパーキング料金をアプリから支払う仕組みなのだけれど、国外発行のクレジットカードを受け付けないのだ。いらいらして、互いにちょっと機嫌が悪くなって、とげとげと八つ当たりし合う。たぶんお腹も空いていたのだと思う。だからやっと席について、テーブルの上にキムチだのおかずだのを(韓国式に)たくさん並べてもらって、あつあつのサムギョプサルが供された時には、ほっとして急に我に返ってなんだか照れる。レタスに肉を包んで、味噌をつけてにんにくとキムチを挟んでせっせと食べる。ごめんねという代わりに、朗らかに今日の予定なんかを話しながら。

豚肉が食べられるのはうれしい。

ホテルに着くと、本格的に嵐になった。轟々と風が吹いて、横殴りの雨が窓に叩きつけるように降る。私たちはひとけのないスイミングプールて少し泳いで、サウナでのんびりする。残念ながら機械の調子が悪いのか、妙にぬるいサウナだったのだけど、おかげでふたりで久しぶりにゆっくりと話ができた。

清々しいまでの悪天候(ホテルの前の大通りがすでに川のようになっている)ゆえ、夕食は外出をやめて上階のペルシャレストランにする。洒落たモダンな雰囲気のお店で、おそらく普段は美しい夜景が望めるのだろうけれど、やはり外は嵐。気を取り直して、スパイスの効いた焼き茄子をペーストにした前菜と、牛と羊と鶏のケバブの盛り合わせとサフランライスを食べる。全然ジョージアらしくはないものの、すこぶる美味しい。

料理のプレゼンテーションも素敵だった。

朝方に雨は止んだ。普段は朝食はとらないくせに、旅先だと楽しみになる。サラダの種類がたくさんあって、ハチャプリがあるのがジョージアっぽくて楽しい。それにゆで卵。果物を食べる習慣をつけようと、パイナップルとオレンジとキウイも取る。それに朝のお茶をたくさん。

9時少し前に宿を発った。トビリシの市街を抜けると雨は小雪に変わり、そのうちに本降りになって、山への道は完全に雪に覆われていた。冬は嫌いだけど、道産子だからか雪景色にはいくばくか心が和む。2時間と少しで山に着いた。

しんしんと降りしきる雪は、どんどん積もってもふもふと溜まり、歩く人も車もみな一様に難儀していた。スキー場の駐車場は、雪道の運転に不慣れなアラブ人観光客のレンタカーと、荒っぽい運転でぐいぐい迫る地元のタクシーが混在して、カオス然としている。雪がどんどんと降っている。

私たちは今回、ゴンドラのすぐ麓のリゾート用アパートメントを借りた。スノーボードに命をかけている夫は、嬉々として山に出かけ、私は少し部屋でのんびりすることにした。

こぢんまりしているけれど快適な部屋。

部屋は小さなキッチンと、バルコニー、バスルームがついていて、狭いながらも充分。ピステのすぐ下、ゴンドラまで目と鼻の先という立地もいい。暖かな服装に着替えて、周り少し散策に出かけた。辺りにはバーやレストランもたくさんあって賑やか。スーパーマーケットでジョージア産のチーズやソーセージ、飲み物などを買い出しして、部屋に戻る。

私は台所のついた宿に泊まるのが好きだ。料理というほどのものはしなくても、缶詰や加工肉やチーズなどの地元の食材をちょこっと試してみたり、地ワインを飲んだりできるから。今日は簡単にアペロとシャンパンを用意して、部屋でのんびりしてから夕食に出かけようという魂胆。

豚肉が豊富に買えるジョージアに来たので、嬉々としてソーセージと生ハムを買った。それにスルグニというモッツァレラのようなミルキーなジョージアのチーズも。きゅうりのピクルスとトマトも添えた。お昼ごはんを食べなかったから、ちょっとがっつりしたメニュー。

食卓ではなく、ソファに座ってアペロ。多少お行儀悪くてものんびりできるのはお部屋ならではの楽しみ。

ジョージア産のスパークリングは初めてなので、数種類買ってみた。今晩のはほんのり杏のような香り。YouTubeで(キエフ・バレエの)くるみ割り人形を観ながら、クリスマス気分を楽しむ。とはいえ、ここは正教の国なので、クリスマスを祝うのは1月7日。でもヨーロッパのお友達からは、メリークリスマスのメッセージがたくさん届く。

クリスマスの贈り物に、ソ連時代のアンティークのルビーの耳飾りをもらった。とても私好み。昔タシケントで買って、ルワンダで盗まれてしまったものと似たデザインを探したんだよ、にっこりして夫が言う。一緒に過ごした時間の歴史がこうして積み重なってゆくのは、なんだかいいなと私は思った。

8時半過ぎ頃に、階下のレストランに降りた。モダンなジョージア料理のお店で、かっこいい音楽がかかっていた。

花みたいな香りのクラフトビールを飲んだ。

クラフトビールとヒンカリを一山頼んで、のんびり待つ。ヒンカリはジョージアの小籠包みたいな料理で、シルクロードで食文化は繋がっているのだなと思う。注文を受けてから肉あんを包み始めるので、けっこう時間がかかる。朗らかなウエイターの男性と、少しワインの話をしていたら、ヒンカリがやってきた。黒胡椒をたっぷりとかけて、できたての熱々を頬張る。一山をぺろりと食べ終えて、満腹で帰宅。よい夜だった。雪はまだ音もなく降り続いている。

ヒンカリ大好き

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