自分の状態をちゃんと分かっていたTさんの話
Tさんは、以前働いていた会社の同僚です。
とある会社の子会社で、社員数は30名ほど。その中で事務員は2人。私はそのうちの1人で、経理以外の事務全てを担当していて、経理を担当していた上司と連携しながら、毎日忙しく仕事をしていました。
Tさんは上司が親会社に異動になるときに、親会社から出向してきました。彼女は、気持ちを前に出し、はっきりとものを言うタイプで、子会社に出向になったことが嫌だという気持ちを、とても分かりやすく顔や態度に出していました。
当時、経理は私が引継ぎ、Tさんには私の仕事を引継ぐことになっていましたが、それすらも気に入らない様子で、私の仕事を全く引継ごうとせず、最終的に経理担当につきました。
今後のキャリアのために、専門的な仕事をしておきたかったのでしょう。今思い出しても呆れるくらい、かなり強引な方法で我を通しました。私も今後のために経理を担当したいと思っていましたが、日々の業務が迫っている中で争いに割く時間の余裕はなかったため、仕方なく引く決心をしたことを覚えています。
彼女はとても自分の気持ちに忠実な人、言い換えると気分屋でワガママな人でした。
とはいえ、私も褒められた性格ではないし、小さい子供がいて突発的に迷惑をかける可能性もあったので、お互い様だと思って一緒に仕事をしていました。
彼女は気分屋やワガママが出ないときは、とても人懐っこく明るく話題も豊富で、当時、仕事と家事・育児に追われていた私にとって、彼女から聞く外の世界の話はとても興味深くワクワクしました。
また、Tさんは自己肯定感が高く、実際に小さいころから今まで成功体験を積み重ねていました。ところが、ある時期からその成功パターンが通用しなくなったようです。親会社で少し浮き気味だったときに、子会社へ出向になり、現実を突きつけられて辛かったようです。事情をよく知らない私から見ても、荒れている印象でした。
当時、30代前半。周りの環境も変化してきて、これからのことをいろいろと考えていた時期だったのではないでしょうか。
彼女はとても賢い人だったので、その自分の状態を良く分かっていた。けど、どうしようもなかったのではないでしょうか。
なぜ、そう感じたかというと、私が退職するときに彼女は
「サナさんは、どこででも、誰とでもやっていけますよ。」
と言ってくれました。
それは、新しい場所で新しい生活が始まる私への励ましだったのかもしれませんが、「(こんなに気分屋でワガママな私と一緒に仕事ができたのだから)どこででも、誰とでもやっていけますよ。」と言われたように聞こえました。
私は一緒に仕事をしている間、彼女が言うことをほぼ聞いていましたが、一度だけ頑なに譲らなかったことがありました。そのとき、溢れ出る(多分、怒り?)感情をどうしたら良いか分からず、なかなか切り替えができなくて葛藤している様子でした。
ご自身でも自分の取扱いが難しいと感じていたのかもしれません。
自分のことは分かっていても、いつもそのコントロールが上手くいくわけではないと思います。Tさんは、分かっていても上手くコントロールできない自分と闘っていたのかもしれません。
数年後、めでたく親会社の専門的な部署へ異動になったTさん。葛藤を抱えながらも、その賢さと負けん気の強さで乗り切ったのかもしれません。
私自身もそうですが、人は自分のことが分かったり分からなくなったりしながら、でも少しずつ前に進もうと、日々奮闘しているのだと思います。
そう思うと、不機嫌な顔をしている人にも少しは優しくできそうです。
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