今回取り上げるのは「合意と確実性のマトリックス(Agreement-&-Certainty Matrix)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。
この方法で何ができるか? 個人やグループが、課題の性質に適応していない方法で問題を解決しようとする、よくある間違いを回避することができます。2つの質問を組み合わせることで、課題を「単純(simple)」「難解(complicated)」「複雑(complex)」「混沌(chaotic)」の4つのカテゴリーに簡単に分類することができるようになります。単純な課題とは、複製が容易な手法で確実に解決できる場合です。難解な課題とは、専門家による高度な解決策が必要であり、その結果、期待通りの結果が得られる場合である。複雑な課題とは、いくつかの有効な進め方があるにもかかわらず、結果が詳細に予測できない場合です。混沌な課題とは、文脈が乱れすぎていて、進むべき道が特定できない場合です。このような違いを表現するために、緩やかな例えを使うことができます。単純なものはレシピ通りに、複雑なものは月にロケットを飛ばすように、複雑なものは子供を育てるように、そして混沌としたものは「ロバに尻尾(Pin the Tail on the Donkey)」という遊びのようなものです。第5章※のリベレーティング・ストラクチャー(LS)のマッチング・マトリックスは、課題の本質を明確にし、慢性的に繰り返される問題の根源にありがちな、問題と解決策のミスマッチを避けるための最初のステップとして使用することができます。
”LS Menu 27. Agreement-&-Certainty Matrix”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 ※書籍『The Surprising Power of Liberating Structures』の第5章のこと。 これは取り組んでいる課題とその解決のために採用している手法のミスマッチを分析することが中心となったLSである。その中でも主に課題の性質を考察する。4つのカテゴリーは以下のような表を通じて説明されている。
問題の4つのカテゴリーとその性格 ”LS Menu 27. Agreement-&-Certainty Matrix”より。 DeepLで翻訳し一部修正した。イラストは入れ替えてある。 このうち「混沌」に対応する例えの「ロバに尻尾(Pin the Tail on the Donkey)」は英語圏での有名な子供遊びのひとつとのことである。子供に目隠しなどをさせた状態で方向感覚なども少し惑わせ、壁にはったロバの写真や絵にうまく「尻尾」をくっつけさせる。日本でいう「福笑い」と「スイカ割り」のミックスされたような感じのものと考えられる。
また、4つのカテゴリーの関係性は以下のような図で表現される。
合意と確実性/予測可能性からみられる問題の4つのカテゴリー ”LS Menu 27. Agreement-&-Certainty Matrix”にあったものを日本語化し筆者により一部修正。 また、引用文中の最後に出てくる「リベレーティング・ストラクチャー(LS)のマッチング・マトリックス」は33のLSとその用法・効果をコンパクトにまとめたものが一覧になっている表である。使う側は「用法・効果」をみてチェックを入れれば、どのLSを採用すれば良いかが簡単にわかるようになっている。
5つの構造要素 1.始め方 ・参加者に現在の課題を「単純」、「難解」、「複雑」、「混沌」に分類してもらう。 ・2つの質問に対する回答に基づいて、すべての課題をマトリックスに配置するように指示する: 課題とそれに対処する最善の方法について、参加者の間でどの程度の合意が得られているか。課題に取り組むために提案された解決策からどのような結果が生まれるかについて、確実性と予測可能性の程度はどの程度か。 ・各課題に取り組むために、自分たちが使っている、あるいは検討しているアプローチについて考えてもらい、それらがどの程度適合しているかを評価し、どこにミスマッチがあるのかを判断してもらう。2.空間の作り方と必要な道具 ・4~6人のグループで座るための椅子。小さな丸テーブルの有無は問わない。 ・長く開いた壁には、マトリックスの大きなタペストリー紙のイラストが貼られているようにする。 ・参加者全員分の白紙マトリックスを1枚。 ・全員分の付箋とマーカー。3.参加の仕方 ・議論中のワークチームやユニットに関わるすべての人(リーダーだけにはしない) ・誰もが平等に貢献できる機会を持つ。4.グループ編成の方法 ・個人で初期評価を行う。 ・4~6名の少人数グループ。 ・グループ全体。5.ステップと時間配分 ・参加者に、自分の時間を奪う課題のリストを個別に生成してもらう。5分 ・参加者は各自で課題をマトリクスに配置する。5分 ・参加者にペアで話し合うように指示する。5分 ・4~6人のグループで、他の参加者と話し合い、一致点、相違点、ミスマッチを見つけるよう促す。10分 ・大きな壁のマトリックスに自分の課題を掲示するよう、全員に呼びかける。5分 ・参加者に小グループを作り、一歩下がって「どのようなパターンが見えるか」「私たちが取り組むべき課題と手法のミスマッチはあるか」について考えてもらう。5分 ・グループ全体で振り返りを共有し、次のステップを決定する。10分
”LS Menu 27. Agreement-&-Certainty Matrix”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 自分たちが直面している課題の4つの分類を参加者にしっかり理解させることができるかどうかがポイントになりそうだ。
実施にあたっての追記事項 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
なぜ その目的なのか? ・課題と手法のマッチングで無駄な労力を省く。 ・局所的な実験がより大きな問題の解決に役立つ可能性がある場所を特定する。 ・組織の人々が直面する課題の範囲と内容を、誰にでも見えるようにする。 ・ミスマッチを発見することで、重要な課題が進まない人々のフラストレーションを軽減する。 ・組織の機能・階層を超えた視点の共有を行う。
”LS Menu 27. Agreement-&-Certainty Matrix”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 このページの冒頭に、アルバート・アインシュタインの「もし私が問題を解決するのに1時間あって、その解決策に私の人生がかかっているとしたら、最初の55分間は適切な質問を決めることに費やすだろう」という有名な言葉が引用されているが、まさにそのことがこのLSを使う大きな理由となっている。
コツとワナ ・どのような課題と活動が含まれているかを明確にする。 ・個人から、ペアでの会話、さらに多い人数での会話へと発展させる。 ・人々が活動をどこに位置付けるかについて判断することは避けよ。 ・複数の分類にまたがる項目は、以下のように質問してもう少し探ってみましょう。「この課題には複数の力学が働いているのだろうか?」「どのようにシンプルでありながら、同時に複雑なのか?」 ・Brenda Zimmerman教授からより多くを学びましょう。
”LS Menu 27. Agreement-&-Certainty Matrix”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 Brenda Zimmerman教授は、4つのなかで特に理解が難しい「複雑」ということについて詳しい研究者である。主著として以下のものがある。
繰り返し方とバリエーション ・「アプローチにミスマッチがある場合、どのような対策が有効か」と問う。 ・ミスマッチと取るべきアクションステップを把握した一覧表を作成する。 ・人々が仕事で直面している一つの問題に対しては、同じアプローチを使う。 ・戦略策定を目的としたリベレーティング・ストラクチャーとリンクしたり、連動したりする: 「重要な不確実性」、「目的から実践へ」、「エコサイクル」、「パナーキー」、「統合〜自律」、「発見と行動のための対話」
”LS Menu 27. Agreement-&-Certainty Matrix”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 課題と解決策のミスマッチが見つかったあとにどう行動に確実につなげていくかということに工夫が加わるとより効果的なLSになるということだろう。
ここで紹介されているLSのうち、「発見と行動のための対話」は、以前にNoteで紹介している。以下を参考にしてほしい。
また「重要な不確実性」、「目的から実践へ」、「エコサイクル」、「パナーキー」については機会を改めて紹介したい。
事例 ・直線的な因果関係の分析しかしてこなかった管理職に、複雑な課題では何が違うのかを紹介するために。 ・新しい改善プロジェクトの開始時に、変化手法の組み合わせを選択するために。 ・企画グループが「分析の麻痺」から「行動」のフェーズに移行するのを支援するために。 ・部門のプロジェクト編成のために。
”LS Menu 27. Agreement-&-Certainty Matrix”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 おそらく、このLSが必要になるのは「単純」な課題のときではなく、「難解」「複雑」「混沌」の判別がつきにくいときであろう。つまり努力しているがなかなか突破口が見えない課題にあたっているときということになる。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは直面している課題あを直接モデルにして作ってもらう。そのモデルには、どのような課題かということだけでなく、課題 がどのようにして起きているのか、その課題がどうして解消されないのかということも、しばしば表現される(そのような側面の表現が欲しければ、モデルの作成者(問題の当事者)に改めて問いを投げて作ってもらえればいい)。つまり「難解」「複雑」「混沌」という分類を通じてではなく、問題そのものの姿に直接アプローチしていく のである。 また、課題に対してどのように行動しているのかもモデルにしてもらえれば、課題のモデルとのマッチング、ミスマッチもより詳しくつながりを発見することができる。そして、どのように行動を変化させれば、課題のどこがどのように変化するのかもプレイすることができる。 時間がなければこのLSのように分類をするアプローチが良いだろうが、少し時間をかけてでも(標準で5時間ぐらい。どんなに長くとも12時間ぐらいで終えられる)、より明確かつ納得度の高い解決策に至ることができるのであれば、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使った課題分析ー解決再考の取り組みは大きな価値を参加者にもたらしてくれるであろう。