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『拡張による学習』をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの文脈で読む(4)第2章 人間の学習の歴史的形態としての学習活動とその出現(前半) p.67~

 本書の第2章は100ページ以上あるため、前半と後半に分けてみていきたい。
 章のタイトルは「人間の学習の歴史的形態としての学習活動とその出現」となっている。学習ではなく「学習活動」としているのが一つ目のポイントで、前半では人間の「活動」というものの大きな枠組みが示される。

 もう一つのポイントは、人間の学習活動は時間と共に進展するという意味で歴史的であり、一般的な構造に基づきながらも領域ごとに異なる進化を遂げるという意味で文化的であるという点である。これは本章の後半で主に扱われている。

学習は活動である

 前半のポイントは「学習は活動である」という考え方である。これを理解するには「活動ではない」学習の考え方と対比するとよくわかる。その代表格は「学習は脳の中(人間の内面)で起こる」という考え方である。

 「学習は脳の中で起こる」という立場をとると何がまずいのだろうか。それはこの考え方に基づくと、「人間の思考の発達が上手く説明できない」ことになるからである。簡単に言えば、人間がどのようにして新しい考え方に至ったり思考を発達させていくのかを説明しようとすると、どうしてもその人の頭の中だけではなく、外部とのやり取りや外部からの影響を説明に入れざるを得ない。特に言語習得や社会的な慣習や文化などは外部とのやり取りがあってこそである。

 このようなことから、著者のエンゲストロームは人間の学習は外部とのやり取りの中で成立するという観点を込めて「活動」という概念を提示する。

人間活動の構造

 では人間の活動とはどのようなものだろうか。
 本書では以下の図が、人間活動の理解ののための基本的な構造であるとする。

人間活動の構造

少しわかりやすくするために色を付けてある。

まずこの中でも基本的な構造となるのが黒枠の三角形である。

人間は世界の何かに働きかけ、その反応から世界のいろいろなことについて学んでいく。このとき、
一人で世界に働きかけることを通じて学んでいるのと同時に、複数人で形成される「コミュニティ」を通じて世界に働きかけることを通じても世界について学んでいるというのが人間の活動の大きな特徴となる。

そして個人とコミュニティの活動を支え、対象への働きかけの成果をより高めるものが水色で示されたラインで示されている。

まず、複数人で世界に働きかけるときに重要になることがある。それが、コミュニティを形成・維持していくための「ルール」である。これが守られなければ個人はコミュニティ全体にかみ合わず、次に出てくる「分業」の力も発揮できない。

そして個々人がコミュニティに属することになったのちに、集団的に対象に働きかけて成果を出すために重要になることがある。それが役割を分け合って「分業」することである。

そして、分業に役割を分けていくと、それぞれの個人が自らの役割を効率的に進めるために、よりよいコミュニケーション方法が不可欠となる。このとき、指示や相互理解のための「道具」である言語(記号)が発達する

 これらの言語という「道具」を通じて私たちはお互いの考えを交換できる。お互いによい考えを共有することは、世界をよりよく理解することにもつながっていく。
 また世界の様々なものを加工したり、生活を便利にするためという意味でのツールとしての「道具」も発達する

 ツールも言語も個人が使うものではあるが、コミュニティでそれらの使い方は共有されており、個人が作り出した道具はコミュニティの「分業」を支えることにもつながる。コミュニティを支える「ルール」も言語という道具の浸透なしには機能しないといえるだろう。

 そして、人間が「ルール」「分業」「道具」を通じて展開する活動が、赤色のラインで表現されている。

 人間は「道具」を「生産」する。記号(言葉)としての道具であれば、その記号(言葉)を作り出すことによって世界の理解を広げることになる。

 次に、人間は「ルール」を通じて様々なものを「交換」する。生産された「道具」および道具によって生産されたものも、ルールに基づきコミュニティの他の人にわたっていく。逆に交換の範囲が広がることで、その交換に携わっていた人はコミュニティの一因になっていくのである。

 そして、人間は「分業」を通じて、コミュニティ全体の活動から生まれた成果を人々に「分配」する。企業活動などでは、コミュニティのメンバーに全て分配されるわけではなく、余剰が別の場所に集中的に投資されることになるかもしれない。分配する先が生産設備などであれば、個人の「生産」にも影響が出る。

 そして、これらの活動で生み出されたものは「消費」へと向かう。消費へと向かうことが意味するのは、繰り返し「生産」や「交換」や「分配」が行われていくということである。そして人々は「消費」するなかで、より良い「生産」、より良い「交換」、より良い「分配」の在り方を求めるようになっていく

レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドと人間活動の構造

 この「人間活動の構造」とレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドとの重なりを考えてみる。

 まず、個々人がワークショップの中で、レゴ🄬ブロックでモデルを作ることである。作られたモデルはある問題に対する自分の考えの表現である。モデルは自分の考えという「対象」を理解していくための「道具」であり、モデル作りおよびそのストーリーを語ることは「生産」であるといえよう。

 次に、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを使ったワークは、通常、複数人で行われる。各人が問いに合わせて作ったモデルとそこに込められたストーリーをお互いに「交換」する。このとき、大事になるのは「交換」の「ルール」である。まず、問いを受け止め、個々人で作品を作ることに集中し、その後一人一人が語り、質問を受けるというプロセスがある。
 そして、自分の説明の番には、モデルを見ながら語ること、他の人の番の時には、その人のモデルの意味を勝手に決めないこと、などである。こうしたルールはメソッドの中でエチケットとも呼ばれている。
 これらのルールがあることで、人々の気持ちが結び付き、参加者がテーマに関してお互いに協力し合う「探究するグループ」になる。

 そして、ワークでは参加者が作ったモデルとストーリーをお互いに「交換」していくと、その問題に対する包括的な理解の構図がそこに浮かび上がる。それは、ある問題を深く考えるために、参加者それぞれの視点を反映した意見をモデルで表現するという「分業」をしているのだといえる。そして、ワークを通じて皆で行った活動から参加者は何らかの気づきや知見という「分配」を得ているのである。

 そして「生産」「交換」「分配」の活動は「フロー」的な人のエネルギーの「消費」活動の中に投げ込まれることでより良い成果を発揮することになる。

 これらを図に表現すると以下のようになるだろう。

レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを使った活動構造

 この図から見えてくるのは、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを使ったワークショップという活動が成功するためのポイントであるといえよう。

・参加者がレゴ🄬ブロックでモデルを作り、問いの理解につながる表現とストーリーを生み出せるようにしなければならない。
・参加者がプロセスとエチケットを守り、探究するグループを作り出して、考えを100%引き出し、共有できるようにしなければならない。
・安心安全の場のなかで、参加者それぞれが作ったモデルの相互比較や連結を行い、より大きな理解へと至るとともに、参加者それぞれに気づきが与えられるようにしなければならない。
・「モデルとストーリー」が「共有され」、「気づき」がもたらされて、最終的により大きな成果へと結びつくために「フロー」状態へと参加者は投げ込まれる必要がある。

 良いワークショップを提供できるようにするために、これらのことを日々、心掛けていきたい。

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