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『拡張による学習』をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの文脈で読む(3)第1章 イントロダクション p.35~

 いよいよ本書の内容に入っていく。この第1章では、本書が扱う問題と、それを明らかにするための方法が示されている。

『拡張による学習』が扱う問題について

 この章では比較的簡潔に『拡張による学習』が扱う問題が述べられている。それは大きく2つに分けられる。

(1)従来の学習理論が役に立たないがどうすればいいか
(2)人間による拡張をどうとらえればいいのか

 従来の学習理論が役に立たないのは、それらの学習理論が「状況(文脈)を固定した」学習を想定しているからである。ある状況(文脈)において通用していたものでも、別の状況では役に立たず失敗することになる。

 しかしながら、実際に人間は様々な状況に応じて自らの行為を合わせているように思われる。その行為は全くランダムな行為ではなく、過去の経験をうまく重ね合わせて対応させた行為のように見える。つまり、人間は自らの行為を過去の状況(文脈)を超えて新たな文脈にも拡張させる学習をしているのである。そこで、これを説明する新たな理論が必要になる。

「拡張による学習」を明らかにする方法について

 これを明らかにするために著者は、3つの種類の情報を使って明らかにするとしている。

(1)理論を提案するための情報
(2)理論の妥当性を示す歴史的で一般的な説明
(3)理論の妥当性を示す歴史的で具体的な事例

 ここでいう「歴史的」は「時間経過とそこで生じたことを含んでいる」という意味合いで、誰もが知っている過去の事件や人物ということではない。「拡張」を知るためには、異なる文脈を超えて起こるものを見なければならないので、必然的に時間の経過やそこでの出来事を追うことになる。

 また、「拡張による学習」を理解していくためには、研究者と実践者の双方が共同で実践に取り組む必要があると主張している。それはこの「拡張による学習」が、より良い実践を達成するための理論を目指しているからである。
 研究者は「拡張による学習」に関する知識をもとに、拡張が起こっていくための道具(仕組み)の導入を提案する。このように実践に入り込むことによって「拡張による学習」をよく理解できるとともに理論の発展のための糸口をつかむことができる。
 実践者は、研究者からの提案も踏まえて現実の実践を分析し、そこに起こる問題を解決し、拡張していく。その成功によって「拡張による学習」の妥当性を示すことにもつながるのである。

レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドとのつながり

 レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドによるワークショップで参加者が何かを学ぶとすれば、それは従来の学習理論が想定するような学び方ではない。従来の学習理論では、文脈(状況)が固定されているため正解も固定される。結果として、そこでの学習は特定の正解を覚えることと同義である。

 拡張する学習では、自分たちが置かれている状況(文脈)を意識しながら適切な行為、考え方は何かを探ることになる。レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドのワークショップでも参加者によって状況は異なるので、毎回状況に応じた異なる答えにたどり着く。また、時間をあけて再び同じテーマでワークショップを行ったとすれば、その間に状況は変わるため、前回と異なる答えが生成されることになるのである。
 こうした状況はレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドというよりも、他のメソッドも含めた「ワークショップ」一般に言えることであろう(ただし、そのワークショップが強力に想定状況を固定していなければ)。

 また、理論の進化(とその結果としてのより良い実践)のために、研究者と実践者の双方が共同で実践に取り組むべきという点においても、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドでも同じように考えるべきだと感じる。
 ここでは研究者=ファシリテーター、実践者=参加者と読み替えるべきだろう。ファシリテーターは、実践者が掲げたテーマに対してより良い答えを作り出せるように問いを投げかける。実践者の反応をよく観察し、その実践の展開にあわせて、必要に応じて柔軟に問いを作り変えながら進む。そのようにしながらより良い実践の実現を目指していくのである。まさにファシリテーター・マインドの基本である。
 同時に、このようなファシリテーターの実践での経験は分析されて、メソッド全体の進化の材料になるという点も重要である。研究者が集まって共同体を形成し理論の進化を検討するのと同様に、ファシリテーターも理論の進化を目指していくべきということになるであろう。なぜなら、状況は歴史的に変化していくのであり、それらの状況の変化を乗り越えて、自らの行為を拡張していかねば、一時的に素晴らしい成果を導いたメソッドも通用しなくなってしまうからである。そしてそのような変化を何度も乗り越える中でこそ、メソッドの適用範囲が広がり、活動はより強靭になっていくのである。

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