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「組織の罠」に対してレゴ®︎シリアスプレイ®︎は何ができるか

 経営学にさまざまな本があれど、読んでいて頭を抱えさせられるような本を上げろといわれれば、クリス・アージリス『組織の罠ー人間行動の現実ー』(英題:Organizational Traps)をあげたい。

 本書でアージリスは、組織の中で何らかの脅威や困難にさらされると、いとも簡単に人々は自己保身に走り、自らを罠にかけることを指摘する。この罠は、人々を苦痛の中に追い込み身動きさせられなくするというイメージよりも、そこに自ら入り込むことによって一種の心地よさ(comfort)を作り出すというからやっかいである。

 組織が困難や脅威にさらされたとき、本来ならば、それを乗り越えるために、確かな情報を集め、分析し、それに基づいて行動を修正するということがまっとうな考え方だ。
 ただし、修正へのプロセスは自分だけでなく時に他者も巻き込むことになる。悪い情報の提示、変革の指示に対する他者からの反発や抵抗を受けることの恐れから、内面では適切でないと分かっていても外面では「波風立てない」ような振る舞いをする。部下から上司に向けての修正提案ももちろん、上司から部下に向けての変革の提案においても同様に起こるのである。

 このような状態が繰り返されると、人々の間に言っていること(目指そうと掲げること)と実際の行動との間に乖離が生まれるだけでなく、同時に、その乖離が存在しないかのように振る舞う方法を学習する。「物事を荒立てたり、波風を立てるよりはよい」という点から、いつしか行動修正をしないことが正しく合理的な判断であるとの考えが染み付いてしまうのである。

組織の罠への処方箋

 組織の罠は非常に厄介な問題だが、アージリスはこの罠に陥らないための方法はあるという。左右対照法を使って状況を診断をし、どのような基準を使って行動していけばいいのか第三者の手伝いも経て検討することである。

 左右対照法は「外面的な言動」と「内面的な思い」とを区別して書き出させるという非常にシンプルな方法である。例えば、会議での実際の会話を書き出すとともに、当事者がそのとき、何を考えていたのかを別に書き出す。そしてその二つを比べるという方法である。これによって、自己防衛的な言動がどのくらい人々の間に巣食っているかを浮かび上がらせるのである。
 その後に、自己防衛的ではない、適切な言動とはどのようなものか、スポーツの基本動作のように繰り返し考えさせる。こうすることで、組織の罠が克服可能である(軽視しないことがまず大事)だと、アージリスは主張している。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークへの示唆

 この組織の罠の研究はレゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークにどのような示唆を与えてくれるだろうか。

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎によるワークは、作品にそれぞれの考えが単なる意見表明に以上に、はっきりと出る。それが、お互いへの信頼感を高め、過剰な配慮や相互不信を解消し、組織の中の相互関係を改善することにつながるメカニズムをもつ。それは、普段の組織の罠の発動を減少させることにも寄与するだろう。ファシリテーターは、ワークの一つの成功指標として「お互いに対する信頼感」がどのくらい高まったかを見ておくべきであろう。

 また、ワークのテーマとして、その組織における問題を取り扱うときに、左右対称法の感覚で、問いを組み立てる方法はありそうだ。例えば、「悪夢のような会議」を作り、さらに「そこに参加する参加者の胸の内」を想像させ、2つの作品の関係について、作品を見ながら皆で話してみると言った方法が考えられる。

 組織における問題をテーマとして取り扱う時にも、ファシリテーターは「その人の言動」部分と「内面の思い」部分を区別してストーリーを聞くという態度も重要であるといえる。作品に表れていなければ、追加で「その問題に対してどのような行動をとっているか」「その問題に対してどのような配慮をしているか」ということを問いかけることによって、組織の罠の存在がその組織にとってどのくらい深刻なのかを浮かび上がらせ、そのギャップがあることに、参加者にも気づかせることに寄与するかもしれない。

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