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『拡張による学習』をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの文脈で読む(2)拡張による学習ーその起源、応用、そして挑戦 p1~34

 本書におけるこのパートは、「章」として扱われていない。本書全体を概観する長めの序文となっている。

 この序文ではタイトルにあるように、これまでの「拡張による学習」理論の簡単な発展史を「起源」として、そしてその理論を積極的に介入して現実に当てはめていくことを「応用」として、これから向かわねばならない問題を「挑戦」として述べている。

起源~活動理論の三つの世代

 歴史的に「拡張による学習」理論は三つの世代を踏まえて進化してきているとされる。

 第一世代:媒介された個人の行為
 第二世代:個人とコミュニティとの複雑な関係からなる活動システム
 第三世代:相互作用する最小限二つの活動システムからなる活動

 世代をまたいで理論の視野が、個人、集団、集団間と徐々に範囲を広げていることが示されている。

応用~活動への介入と展開の方向性

 「拡張による学習」理論は、現実のより説得力のある説明の先に、より良い世界の構築を目指している。そのため、活動をより理解することと同時によりよく発展させることに研究者たちは挑んでいる。検証ではなく、介入を目指すことになる。

 このとき、理論の正しさを保とうとすると理論の枠組みの押し付けになってしまう危険がある。理論通りになってほしいという希望に基づく働きかけによって、現実の活動の発展可能性が損なわれてしまっては、本来の目的から外れてしまう。

 そこで介入者は当事者の当初の見込みからの逸脱も許容し、時に自らの活動に対する理解や理論も修正しながら、当事者の活動の発展を支援することが求められるのである。

 また、具体的な活動は、それぞれ独自の歴史的・文化的特性をもっており、それらの比較を重ねることで、より「拡張による学習」理論は発展していくのである。

 こうした研究の積み重ねを通じ、最近では、より多くの人やコミュニティの間で対話を通じて意味の共有が行われる水平的な拡張と、ある考え方を前提化して活動が展開されるようになる垂直的な拡張およびその2つの関係への理解へと至ろうとしている。

 また、社会的空間次元での拡張時間的次元での拡張のほか、道徳的・思想的な拡張という観点での拡張の理解もできることが議論されるようになっている。

挑戦~三つの重大な問題

 第三世代まで発展してきた「拡張による学習」理論は、ますます重大な問題に直面することになっている。ここではとりわけ重要な3つの問題が指摘されている。

(1)巨大な「制御不可能対象」あるいは「ハイパー対象」の出現:気候変動やパンデミックなどの個人や集団では制御できないもの

(2)「野火的活動」や「菌根の組織化のような形態」:スケートボーディングの流行や災害救援ボランティアのような、予期しない形で現れ、ときどき消えたかのように見えながら不意に復活するような活動

(3)「社会運動」:より水平的でありながら多くの中心をもつような性質をもっており、(1)などにも反応しながら、野火的活動のような性格も持っていそうである

レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドとの関係

 それぞれのパートの内容とレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドとの関係を考え、コメントしてみたい。

「起源」で語られていることとの関係

 ここでは分析(働きかけ)のレベルが3つ示されている。個人、集団、集団間である。

 レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドは、通常、ワークショップという形式で個人が参加するものであるので、まず参加者は個人もしくは集団における個人について考えることが多い。

 集団間での相互作用について踏み込んで分析したり考えたりするワークショップの経験は個人的にほとんどない(集団間の関係性を表現する手法はある)ので、実際にそのようなことが必要になったときにレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドをどのように応用するかについての知見も個人的にはない。この点について「拡張する学習」理論から学べることがあるかもしれない。

「応用」で語られていることとの関係

 レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドでは、進行役はファシリテーターとして参加者が集中かつ心理的安全性を感じて思考でき対話できる環境を整えることが第一である。

 ファシリテーターは参加者同士の対話に直接介入することはないが、作品への問いかけを通じて参加者の思考に影響を与える側面はある。ファシリテーターは何のためにどのような問いかけをしているかについて自覚的である必要がある

 また、ワークショップには、その結果に関する期待水準が設定されていることが多く、その期待水準に合わせようとするファシリテーターの気持ちが対話の中で生まれる知識や活動の可能性を阻害するリスクがある。このことも心の中に留め置いてワークショップに臨む必要がある。

 「拡張する学習」の展開の方向性については、これはレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドのワークショップの中で作られたモデル、および参加者によって語られたストーリーを比較および評価するときの切り口として有用である。

 また、現在のモデルから、これから目指したいモデルなどを作ってもらうときにも「水平的な展開」「垂直的な展開」「社会的空間を広げる展開」「時間的視点を伸ばす展開」「道徳的・思想的な変革」などを意識させることがよいシナリオとなることがあるかもしれない。

 また、期間をおいて同じテーマで作品を作ってもらう場合(定点観測)において、その分析軸としても使うことができそうだ。

「挑戦」で語られていることとの関係

 ここで挙げられている3つの問題は、そのままレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドのワークショップのテーマや対象になりうる。

 また、流行事象や社会活動に関わる人たちに、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを使って彼らの活動に関する考えなどを表現してもらうことによって、(2)や(3)の解明の一助になるかもしれない。レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドは、外からの観察やアンケートなどによる回答とは異なる、よりその人の内側の思考を導き出すことができるからである。

 このように書いていくと、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドをまさに拡張する要素が「拡張する学習」理論には含まれているという期待が膨らんでくる。逆にレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドによって、この「拡張する学習」理論の介入的研究に寄与できる部分もありそうである。

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