『拡張による学習』をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの文脈で読む(9)第5章 拡張の方法論に向けて p.369~

 第5章では、第4章まで考察してきた人間の活動構造を拡張する学習をどのように研究すればよいかについて、その基本的な指針が述べられている。

研究の目的と研究者としての関わり方

 まず、研究の目的である。それは、人間の活動をよりよく説明するということではなく、人間がその活動のレベルを高めていくことを実現することにある。
 そのためには、世界を理解しより良い働きかけが個人としてできるようになるためのモデルを作り出す「第二の道具」と、集団としてそのモデルを作り出し、共有し、発展させ続けるように個人に働きかけるための「第三の道具」が活動の中で生み出されるようにできなければならない。

 ここでいう「第三の道具」についてもう少し補足しておきたい(以下の内容は第4章で扱われているため、本来ならばその章を扱うNoteで扱うべきであったが、十分に触れることができなかった)。

 さて「第三の道具」は、集団レベルで分析すると見えてくるもので、その集団のメンバーが内在化しているモデルを生み出す方法論やイデオロギーであるとエンゲストロームは指摘する。具体的な方法論としては「弁証法」を上げている。ここでいう「弁証法」は、思考の中で行われるものではなく、モデルと現実との矛盾を乗り越えて新たな活動を作り出すという意味での「弁証法」である。

 また、その「弁証法」を支えるものとして、多くの人の声が響きあっている状態で対話が進む「ポリフォニー」としての相互作用や、並列して分散した人々や小集団のネットワークの中で活動が進むことが構想されている。もちろん、こうした状態は自然に出来上がるものではない。したがって、その重要性を理解している誰かがそのような状態になるように介入していかねばならないのである。それが研究者に課せられた一つの役割なのである。

 エンゲストロームによれば、研究者は人間の活動構造に寄り添っていく。まず、活動に参画し、そこでの現象を理解し、描写する。その積み重ねを整理し、解釈し、歴史的に活動を分析していく。
 活動の拡張のために、新しい「道具」が必要となる場面では、それまでの分析を使って「道具」としてのモデル作りが上手くいくようにサポートする。
 また、研究者は一連の活動の拡張の結果を報告、評価して、他の研究者や実践者と共有していく。それぞれの活動は、それぞれの歴史をたどり、同じ道をたどらないという前提のもとに、さまざまな事例を集めながら、活動の拡張を支援するのである。

レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドの研究について

 私はレゴ🄬シリアスプレイ🄬という手法にひかれ、その手法が内在する原理をもっとよく理解したいと、社会科学と認知科学の理論との関連性を考察してきた。

 ファシリテーターとして、集団や組織にワークショップを提供することもあるが、活動理論の観点から言えば、ワークショップで行われていることをより深く理解するためには、外から眺めるのではなく、実際にその活動に一員として深くかかわっていかねばならないことになる。

 そうはいうものの、活動に入り込む集団や組織を見つけるのは難しいことである。企業などにレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを活動理論の観点から関わっていくのは、大学での教育その他の仕事を考えると、エンゲストロームの構想通りに研究を進めるのは条件的に非常に難しい。

 そうなると、大学教員という立場を捨てて、自分で起業したり集団を主宰する立場になったうえで、研究者という立場も兼ねてレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドのワークショップをそこに導入していくという活動になるのだろうか。

 そう考えると、まさに自分自身が「矛盾」の中に立たされている感覚となる。それは活動理論においては、新たな拡張による学習が起こる前触れでもある。その感覚を大事にしながら、これからも日々の仕事や自分自身の活動を見直していきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?