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『なぜ人と組織は変われないのか』をレゴシリアスプレイの文脈で読む(8) 第7章 うまくコミュニケーションが取れないチーム

 ハーバード大学教育学大学院のロバート・キーガン教授とリサ・ラスコウ・レイヒー女史との共著による『なぜ人と組織は買われないのか』(英治出版 2013年)を読み、レゴシリアスプレイメソッドとの関係を考えていく。

 第5章、第6章では、個人の変革のプロセスを実例として紹介していたが、第7章ではあるチームを対象とした変革の事例となっている。

チーム変革の事例のプロセスの全体像

 本章の事例の背景を簡単にまとめておくと、
・チームは8人で、できたばかり
・「チェト」がチームのリーダーで細かく指示を出すスタイル
・チームの半分は「チェト」の部下で、もう半分は別のチームから合流
・合流してきた別のチームの文化は、放任主義的
 という感じである。
 また、第6章で登場したキャシーはこのチームの一人であった。

 そして、このチームに対して著者たちが請われて、半年間のチーム変革の取り組みを行ったということだ。そして、全体の取り組み設計は以下のようになっている。基本的には(A)から(G)に向けて進んでいく。

(A)開始前に全員に「質的調査」と「量的調査」の両面での現状調査
(B)2日間の全員参加のワークショップ
(C)個別のコーチング(4ヶ月の間に10回ほど行う)
(D)1日のワークショップ(その1)
(E)半年後に全員に「質的調査」と「量的調査」の両面での現状調査
(F)1日のワークショップ(その2)
(G)プログラム終了の3ヶ月後に全員と個別面談

(A)「質的調査」と「量的調査」の両面での現状調査(開始前)

 開始前の調査においては、チームの強みと問題点が浮かび上がった。
 強みとしては、チーム全員がチームの成功に向けて献身的な姿勢をもっていることと、さまざまな問題に取り組もうという前向きな姿勢があることの2点が挙げられた。
 問題点としては、リーダーの「チェト」が過剰に仕事に口出しをしてくることに他のメンバーが困っていることと、チームメンバー同士の信頼感が不十分なことがわかった。

(B)2日間の全員参加のワークショップ

 この2日間の全員参加のワークショップは、3つの狙いで行われている。
 ひとつ目は、チームのとしての「改善目標」(免疫マップの最初の項目である)を設定して共有することである。
 ふたつ目には、チームの「改善目標」に紐づいた個人レベルの「改善目標」を設定して共有することである。
 みっつ目は、今後のワークショップとコーチングの日程を決めることであった。
 このワークショップは、(A)の開始前調査の結果共有から始めたが、「チェト」に関わる問題については、著者たちが彼自身に内容の公表の可否を事前に確認し、その上で行っている。
 その後、その結果をもとに全員で話し合いを行い、チームにとって必要なのは「コミュニケーションの改善」だという合意がなされた(チームの改善目標)。また、そのために必要なルールを「情報の送り手」と「情報の受け手」の両面から話し合いリストアップした。この話し合いで出たルールについては「コンセンサー(共感度)チェック」としてどの程度受け入れる意思があるかを「強」「中」「弱」で答えてもらうようにし、全員が「強」を選んだとのことである。
 続いて、個人の改善目標の設定にとりかかる。チームのコミュニケーションの改善に関連して自己分析を行い、自分の改善目標を考えさせた。その後、メンバーでペアを組ませ、意見交換をさせた。このときには、発言内容の秘密は遵守することを前提としている。その後、著者たちは様子を見て、全員の許可をとって目標を全体に共有するようにさせている。
 この全体発表のとき、他のメンバーへの質問やコメントには「トントン・ルール」を設けたという。「トントン・ルール」とは、相手の部屋のドアをノックするように、相手の同意を得てからコメントをするというものだ。またメンバーがコメントを考える際には「チームのコミュニケーションの改善」という視点から考えるように指導している。
 このようにして個人の改善目標を設定した後に、著者たちは個別に「免疫マップ」の全体を作らせている。その後、発言内容の秘密は遵守するという前提のもとでペアで話をさせるようにしている。個人の「免疫マップ」をお互いに公開してはどうかとの提案もあったようだが、著者たちは慎重な態度で公開するかどうかは個人の判断に委ねさせた
 最後に振り返りをしてもらった際には、「このチームはきっと成功するだろう」とメンバーが口々に話したという。また、事前の調査では「他の人に秘密にしておいてほしい」といっていたこともワークショップの後半では堂々と語る姿が見られたとのことである。

(C)個別のコーチング

 この個別のコーチングでは、免疫機能の克服に向けて、第5章や第6章でも紹介されていた他のチームメンバーへの自己評価のアンケート調査や「目標への道のり」を作ることをサポートするような活動となっている。
 アンケート調査では、チームメンバーは相互に一生懸命コメントを交わし合っており、その中で、お互いの仕事のスタイルとその好みの差が明らかになったという。そのことが次の(D)にもつながっている。
 (D)や(E)のワークショップの間にもコーチングは続けられている。

(D)1日のワークショップ(その1)

 (D)の1日ワークショップでは、著者たちは、メンバーがお互いの仕事のスタイルの違いを理解することに重点を置いた。それによってチームメンバー相互への信頼感を高めることを狙っていたという。
 この時に「マイヤーズ・ブリッグズ性格指標(MTBI)」を使ったという。その指標には、性格の優劣が前提とされていないため、同じように、仕事スタイルの差の持つ意味合いも理解してもらう狙いがあったという。
 また、私たちがしばしば深く考えずに他人の評価を下し、結果として誤った結論にはまりこんでしまう「推論の梯子」を紹介した。著者たちによれば、この考え方を教えることよって不正確な思い込みや性急な結論を避ける効果が期待できるという。
 これらを使って性格のタイプがコミュニケーションにどう現れるか、そして、異なる性格の人々同士がどのようにすれば上手くコミュニケーションをとることができるか、考えるとともに練習する時間をとった。
 また、著者たちは、さらに「目標への道のり」(ワークショップ内で気づいたことによる改訂も含む)をお互いに公開し話してもらう時間もとった。

なお、ここで出てくる「マイヤーズ・ブリッグズ性格指標(MTBI)」は以下から体験できる。

「推論の梯子」については以下のNoteが分かりやすくまとめてくれている。

(E)「質的調査」と「量的調査」の両面での現状調査(半年後)

 締めくくりのワークショップを控えて、チームの進歩の度合いを明確化するために調査を行っている。これについて、今回の調査と前回の調査との比較表なども作って成果を見える化し、ワークショップ前に共有するようにしていた。

(F)1日のワークショップ(その2)

 この3回目のワークショップでは、チームと個人の目標達成状況を報告しあって祝うこと、今後の取り組みについて話すことを狙いとしたものである。
 そして著者たちが変革の主導者になってここまで導いてきたものを、チームメンバーにバトンタッチする、すなわち「自走するチーム」への第一歩という位置付けになっている。
 前回との比較もあり、チームの進歩を確認した後、あらためて今後の行動や仕事の仕方をするかについて話し合った。これはチームにとっての新たな「改善目標」の設定である。チームの「改善目標」を決めたのちには、個人の「改善目標」を新たに掲げるようにした。
 また、著者たちはチームと個人の新たな目標を達成するために、学習のパートナーを各自選ばせている。これ以降はペアでの活動に移り、自分たちだけで学びを行えるようにするためにワークショップ後にはフォローアップのコーチングの機会も設けている。

(G)プログラム終了の3ヶ月後の個別面談

 この面談は変化が続いていることを確認するためのものであった。また、遠慮なく話ができるように、面談は著者たちではなく、第三者に依頼している。その結果、全員が目標に向かって学習を続けていたということが確認されたという。

著者たちによって指摘された今回の組織開発の成功の要因とは

 結果として、この事例は成功で終えている。著者たちは全体を振り返り、成功の要因を以下のようにリストアップしている。

  1. リーダーが自分の弱さを見せ、率先して自己変革に取り組んだこと

  2. チームの目標がチームの成長を力強く後押しするものだったこと

  3. 一人ひとりがチームの目標に沿った目標を掲げて努力しつづけたこと

  4. チーム全体の取り組みに目標と関わりある「私的な問題」を持ち込んだこと

  5. チーム全体が変革に向けた強い意志と意欲を共有していたこと

  6. 一人ひとりの学習がチームという社会的構造によって支えられていたこと

  7. 学習課題に適した学習方法を採用していたこと

 このうち、4番目の「私的な問題」とは、免疫マップでいう「裏の目標」や「強力な固定観念」の領域で、自分自身の内側の深くにある感情や思いのことである。そこまで他のチームメンバーに話すことができたということである。

 6番目の「社会的構造」とは、チームが共通の目標をもち、メンバーがお互いに励まし合い、助け合う関係性を持つことができるようになっていたということである。

 7番目の「学習方法」については、特に今回の問題が時間がかかるとわかっていたことから、
他のことよりも優先してこの取り組みのためにスケジュールを組み、時間も確保したこと
チャレンジと相互支援のバランスをとったプロセスにしたこと
自分たちの成長を確認しながら進めることができるようにしたこと
といったことが、特に重要であったと著者たちは振り返っている。

レゴシリアスプレイメソッドとの関連

 この章で扱われているチーム変革の事例において、前半にもっとも注意を払っているのは、考えていることや感じていることを安全に表出できる環境づくりである。「コンセンサー・チェック」や「トントン・ルール」、秘密が守られたペアワークなどは、そのための工夫である。
 レゴシリアスプレイメソッドでは、そうした安全に自分の意見を表出する環境を作りやすい。チームメンバーの間の相互信頼を深める一つの方法として取り入れる価値はあると感じる。

 また、レゴシリアスプレイメソッドは、抽象度が高く言葉にしにくいことについて表現してもらうのにも向いているので、一人ひとりや仕事への向かい合い方の違いを表現したりお互いに理解し合うために「マイヤーズ・ブリッグズ性格指標(MTBI)」ではなく、レゴのモデルでの表現を使う方法もありそうだ。
 また、チームの現状や雰囲気を調査する「質的調査」の一つに組み込むこともできるだろう。

 また、この事例を読んでいくと、大きく組織を変えていくには、1回の単発のワークショップでは限界があり、複数回のワークショップや取り組み期間の設定、その進捗報告や個別面談などの組み合わせなどが必要になってくることがよくわかる。レゴシリアスプレイメソッドも、このような大きな取り組みのデザインの中で、最も効果的な場面に位置付け、組み込んでいくことが重要となる。その意味でも組織変革に携わっていきたいファシリテーターは、長期的な取り組みの視点や設計能力も鍛えていく必要があるといえるだろう。

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