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『拡張による学習』をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの文脈で読む(10)第6章 エピローグ p.389~

 この第6章で最後の章になる。この第6章は日本語でほぼ1ページ(正確には2ページだが2ページ目は1行分しかない)である。
 ここで簡潔に示されているのは、本書で示された「人間の活動構造」と「拡張による学習」の全体像である。

本書の全体像

 エンゲストロームは本書の全体像を以下の6項目にまとめている(私なりにわかりやすく再表現したもの)。

 (1)活動はその構成要素(主体・対象・道具(ツール)・ルール・コミュニティ・分業・生産・交換・分配・消費)から三角形モデルとして表現できる。

 (2)活動は個人と集団のレベル間、および関連して存在する活動間の相互で影響を与え合っている。

 (3)活動はプロセスという観点から見ると、「欲求状態」から「ダブルバインドの認識と分析」、その後、「モデルの構築」から「モデルの現実への適用」そして「他の活動との統合」(次の「欲求状態」を生む契機となる)への循環として表現できる。

 (4)歴史的にみると人間の活動は「手仕事的な活動」から目的追求型のピラミッド型組織のような「合理的な活動」と、目的をもちながらも自律的なグループで運営される「人間化された活動」を経て、最後は「集団的で拡張的に統御された活動」へと至る。これらの最後の段階は、「拡張による学習」理論に沿って進められることによって実現する。

 (5)拡張が行われる際の有力な道具として「スプリングボード」「モデル」「ミクロコスモス」がある。これらのコンセプトを通じて活動を分析し、拡張を支援することができる。

 (6)「拡張による学習」研究は、(3)の活動のプロセスに沿って、活動に研究者自身も関わりながら、「欲求状態」のときは「観察と描写」を、そして「ダブルバインド」のときにはその「分析」を、次の「モデルの構築」と「モデルの現実への適用」のときはそれぞれの段階がスムーズに進むための支援を、そして「他の活動と統合」のときは「活動の記録をまとめ、その評価をする」というように進めるべきである。

改めて、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドとの関連を考える

 これまで、各章の内容を見ていく中でも考えてきたレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドとの関連を、あらためてここに整理してまとめたい。

 上記のまとめの(1)と(2)は、「レゴ🄬ブロックのモデルを作り、そのストーリーを語り、共有していくこと」が人間の活動の一種としてみたときに、どのような意味を持つのかという問いに答えてくれる。
 それは、自分たちの活動を拡張する(新しい理解(モデルとストーリー)と働きかけの方法を確立することで新しい活動を展開する)ための準備を行っている段階であるということである。
 気を付けなければならないのは、あくまで「準備」であり、実際に活動が拡張するには、新しい理解(モデルとストーリー)が現実との矛盾を乗り越え、ピッタリとくるように変形させていかねばならないということである。
 レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドに限らず、ワークショップがそのまま活動の変化への保証にはならないということは、多くの人が気づいていることではあるが、改めてそのことを心しておかねばならない。

 まとめの(3)と(5)は、ワークショップの全体の流れや組み立て、およびファシリテーションのポイントに関わる項目である。
 特に重要なことが「ダブルバインド」のような「矛盾」へと参加者へと向かわせるということである。そこを狙って「問い」を作ったり、参加者が作ったモデルへの問いかけをしていくことが求められるということである。
 また、レゴ🄬ブロックで作ったモデルは、矛盾を乗り越える「スプリングボード」であり、それを現実とすり合わせながら「モデル」としてのレベルを上げていくためにモデルに問いを投げること、参加者が「ミクロコスモス」へと近づくように、お互いのモデルの関連性を意識させることなどは、ファシリテーションを考えるときに有益であろう。

 まとめの(4)では、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドのワークショップの「活動の歴史的な文脈」における意味を見ることができる。つまり、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドによるワークショップは「合理的な活動」や「人間化された活動」の段階から「集団的で拡張的に統御された活動」に移行させるものであるということである。
 「合理的な活動」もしくは「人間化された活動」が色濃い企業が、なかなか自力では抜け出せない問題に直面し、「拡張による学習」が中心になるような企業へと脱皮を図りたいときに、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドのワークショップはその支援ができるということである。

 まとめの(6)は、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドを使ったワークショップを記録するとともに、その効果を分析する方向性を示している。つまり、ワークショップ等で明らかになってきた「矛盾」とは何か、それを乗り越えるための「道具としてのモデル」は何だったかという観点での記録が求められるということである。また、そのワークショップの結果がその後、他の活動にどのような波及効果を及ぼしたか、次の「矛盾」へとどうつながっていったか、という観点での評価も理想的には求められるだろう。

おわりに

 このシリーズでは『拡張による学習』を通じて、10本のNote(「つぶやき」のような短いものも含めるともっと多い)を書いてきた。
 改めて、このエンゲストロームの「拡張による学習」および「人間の活動構造」の理論は、レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドへの理解を深めてくれるものであると感じている。
 またレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドそのものが人間の活動でもあるため、その観点から、このエンゲストロームの理論の発展に何らかの貢献ができる部分もあるだろう。理論と活動との間の食い違い、すなわち「矛盾」は新たな世界への認識と活動への展開の入り口なのであるから。

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