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紀元前1000年頃に活躍したハープ弾きの演奏を聴いてみたい

この絵は、シャガールの『ダビデ王と竪琴』と題する作品です。赤い御召し物を着てにこやかにハープを弾いているのは、戦士であり、詩人でもあった、後のイスラエルの王様、ダビデです。

ダビデは元々は羊飼いでした。勇士としては、ゴリヤテという敵の巨人を石一つで討ち取ったお話は有名です。かと思えば芸術面でも優れていて、竪琴(英語ではハープ)の名手でありましたから、幅広い分野での才能に恵まれていた方でした。

その噂はイスラエルの初代の王、サウルの耳にも伝わり、サウルはダビデを呼び寄せて自分に仕えさせました。サウル王は心の病を抱えていたので、それを癒すための療法的な音楽を必要としていたのでした。

これらのことは旧約聖書に記載されていますので、ダビデはある意味「文献に残る世界最古のハープ奏者」「有史以来の音楽療法士」などとも言えるでしょうか。同じハープを弾く者として大変興味を掻き立てられます。

そして私はいつも、一体ダビデは当時どんな音楽を奏でていたのだろう?と想像を膨らませます。同じように旧約聖書の「詩篇」というところに編纂された詩の多くはダビデによって書かれたと言われていますので、こうした詩を自らハープで弾き語りをしていたのではないかと思います。

ダビデの詩には楽器のことも書かれていて「十弦の琴よ、立琴よ」という表現がありますので、10本の弦が張られている小さな竪琴を弾いていたことが伺えます。

私はコンサートでこのお話をした時に、10弦のハープでどんな音楽ができるか、という即興演奏(というほどのものではありませんが ^^;;)をお聞かせしたりします。まぁ10弦だけでは、1オクターブプラス2音だけしかありませんので、楽曲として成り立つようなものではないのですけれども。

でも、ダビデのそのハープの調べには人智を超えた力が働いて、サウルの心の病はどんどん癒されて元気を取り戻した、とも書かれています。現代に生きていますと音楽もどんどん複雑化しますので、悲しいですが、ちょっとやそっとでは感動できないという頭でっかちになったりします。つまり頭で音楽を聴いてしまうことがあります。

10弦のハープで弾かれた音楽に心が洗われる、シンプルな響きが心の琴線に触れてどこか懐かしい気持ちになる・・・・そんな体験が時に必要になります。

ハープという楽器自体に何か魔力があったのではなくて、ダビデの思いが込められた調べをとおして、聴く側のサウルは自らを顧みる機会が与えられたのではないでしょうか。心の中に溜まった暗い影を放出して、徐々に本来あるべき姿を取り戻して行ったのではないかと思うのです。

この絵の場面は、いろいろな画家によって描かれていますが、シャガールが描くダビデは目がパチクリしていて、細身でなんとなくお茶目です。心の病で苦しむサウルを前にしているとは思えないくらい重々しさや暗さがなく、むしろ楽しい空間を作り出しているように感じます。

確かに私もハープを弾いているととても心がウキウキしますから、この絵の中のダビデの気持ちに賛同いたします。まず自分が楽しまなきゃ、という精神です。相手に寄り添いながら、その心豊かな思いをシェアすることで、そこに音楽でのコミュニケーションが生まれるのでしょう。

ダビデの生涯は波瀾万丈でした。いろいろな所を通らされて、崖っぷちまで追い詰められることもあった日々の中でも、変わらずに祈りの詩を歌い続けることによって強められていました。

「私のたましいよ。目をさませ。十弦の琴よ。立琴よ、目をさませ。私は暁をよびさましたい。」

きっとダビデの音楽には包み込むような優しさがあったことでしょう。こんな風に絵を眺めながら思いを馳せている時、Before Christ、紀元前に生きたダビデの奏でるハープを、歌声を、私は益々聞いてみたくなるのでした。

♪お読みくださりありがとうございました♪

©️2023 Harp-by-KIKI  **記事、文章の転載はお断りいたします**

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