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第2回 都電で、女性運転手になりたくて

都電は夢のチャレンジだった

電車っていうよりも都電が好きで。この景色を毎日見たいという一心で採用試験を受けました。

都電は、私にとって夢のチャレンジなんです。都電に出会う前までの人生プランは、何事もなく平凡に多数派の人たちと同じ生活ができればいいかなって思っていたから、進学校に行って、大学に行って、一般企業を受けて…って思ってました。

でも都電は私の中で、別枠なんです。受かんなくても当然だと思ってましたね。なんの知識も持っていなかったので、できないだろうなぁと。別に戦う武器も持っていませんでしたし、受からないだろうなぁと。

採用人数も少ないし、勉強しかしてきてない私が、鉄道が大好きで、そういう勉強をしてきた子も受けに来るなかで、受かんないだろうなぁって。まあやってやろっかくらいで受けました。

一次が筆記、二次は健康診断と面接で…。だけど結果はダメでした…。だから普通に就活して、一般企業の事務で働き始めました。地方から東京の大学に来て、東京で事務の仕事に就いて、本当に思っていた通り来たって感じです。世間的には多数派の道でやってきました。

やっぱり都電に関わりたい

事務に就職をしたんですけど、やっぱ都電で働きたい!って思って、社会人1年目のときにもう一度受けました。前の年に一次試験は受かってるから、次も行けるかなって思って、2回目は一次の対策はあんまりやらなくて。

面接の練習はしっかりやりました。結果は合格でした。事務の仕事とどっちをとるか悩まなかったです。こんな機会は二度とないって。受かった時にこっちしかないって思いました。やっぱ自分のやりたかったことだから、受かったらなりたいですよね。

大学を卒業して、9月までは事務で働いていたんですけど、都電の合格が分かったと同時にすぐ「辞めます」って言いました。前職は半年しかやっていないんです。

もし2回目がダメだったとしてもまた受けてたと思います。年齢制限が30歳くらいまであるんですけど、たぶん20代後半くらいまで受けてたんじゃないですかね。結婚もしたいし、子供も産みたいし、でも夢も追いかけたいって。でも、ずっと受けてたかって聞かれると…。どうなんでしょう(笑)。

受かってからも勉強の日々

研修は座学と実技があるんですけど、特に座学は苦労しました。何もわからないし、大学で学んでいた歴史は全く使い物にならないし。運転理論とか加速度・減速度とか歯車比とか構造の回路とか、軌道法の法規とか全然やったことがない科目ばっかりで。

私の同期は5人なんです。前職が鉄道関係の人、電車の点検作業を行なっていた人、乗り鉄の人、電車好きの人とか。座学研修の最後のテストで、8教科全部70点以上ないとダメなんですけど、優秀な同期の中で私だけできないんですよね。毎日大学の図書館で勉強して帰ってました。

男性ばかりの職場に女性が入っていく

都電の運転手は、事務の勤務形態と全く違う生活で。もともと私、ピアノをやってたんですね。アルバイトもケーキ屋さんで、女の子ばっかりで、前職の事務も女性ばっかりで。だから周りにいる人たちもガラッと変わりました。

都電には十数年間女性運転手がいなくて、私で3人目らしいんです。2人目の方が退職されてからずっと男子校状態で。1回目を受けた時、実は面接で言われたんです。

もしあなたが採用された場合、女性1人ですがどう思いますか?」って。それを2回目に受けた時にも言われたので、「あっ、去年女性を採用していないんだな」って思って。「むしろ女性を採用してください」ってお願いしました。女性らしい気遣いができるだろうからって推しました。

体力的には男性の方が向いてると思いますけど、「女性運転手さんだと安心するわ」と言って頂けることもあります。

十数年、女性運転手がいなかったこともあって入局当初は、環境が整ってなかったり。輪の中にも入りにくかったです(笑)。皆さんもどういう話を振ったらいいかわからなかったっぽくて。

もう今はみなさん仲良くしてくださるんですけど、最初はほんと辛かった(笑)。4時間の休憩があるんですけど、休憩が気分転換にならなかったりとか。

あとは電車の扉が重くて、1人だけ開けられなかったりとか。そういうこともありましたね。女性が来たってことで改善をしてくださったので、今は問題ないですね。

私は今年で3年目なんですけど、今年の4月から女性が増えて2人になったんですよ。運転手が80人いて私以外男性だったけど、やっと同い年の女性がきて2人体制になりました。

高校生の自分に伝えたい

もちろん勉強してたから今があるんでしょうけど、自分の思ってる通りに良い意味で行かないってのかなぁ。うーん、勉強はがんばっとけとは言いますけど…。

取材受ける前に同僚にいろいろ聞いてたんですよ。「高校生の頃、何かやってた?」って。そしたら生徒会やってたとか、部活の部長やってたとか、学級委員とかみんなすごくて。

1人で3つも話せるネタを持ってる子がいて、あなた行った方がいいんじゃないの?って同僚に言ったくらいなんです(笑)。でも、私みたいに何もない人でも、何かが好きで漠然とそれに向かっていけば道は開けるから。

自信持って自分の進みたい方に進めば、突然こんな風になることもあるから、思い詰めずにやったらいいよって思います。誇れることが何もなくても、今の自分の仕事が誇りって思えるくらいになれたから。

(おわります)

ありがとうございます。 列島ききがきノートの取材エリアは北海道から沖縄まで。聞きたい、伝えたい、残したいコトバはたくさんあります。各地での取材にかかる交通費、宿泊費などに使わせて頂きます。そして、またその足跡をnoteで書いていければ。