母と父、両方の仕事を受け継いだ娘。美容師とうちわ職人の道。
2019年2月、編集部メンバー5人で千葉県南房総を訪れていました。(その際の活動レポートはこちら)「列島ききがきノート」をどんなメディアにしていこうか?ということを旅しながら話して、時々取材も行いました。
今回はそんな記念すべき、メディアとして第1歩目のインタビュー記事です。お話を聞いたのは千葉県南房総市の「うやま工房」で房州うちわを製作されている、宇山まゆみさんです。
なぜ宇山さんに取材したのか、その経緯を少しだけ。
もともと、初回インタビューということもあり、聞き書き甲子園で過去に取材をさせて頂いた職人さんに、改めて話を聞きに行くということを考えていました。
そのなかで関東近郊でどなたか探していた時に、4年前にお世話になった宇山正男さんを思い出し、お電話しました。電話に出られたのは女性の声。正男さんはご在宅か伺うと、お亡くなりになられたとのこと。
聞き書き甲子園では高齢の職人さんに取材することが多く、度々そういった知らせを耳にすることがありますが、うちわ作りの1から10まで全てを1人でなさっていた正男さんの技術や想いは消えてゆくのだろうかと、ふと思いました。
電話口の女性は宇山まゆみさん。正男さんの娘さんでした。今はご自身がうちわ作りを継いでいるとのこと。なんだか、正男さんに娘さんを紹介してもらったような気がして、急遽、取材の依頼をさせて頂き、「うやま工房」に伺いました。
宇山まゆみさんに聞くうちわのこと、伝統工芸のこと。全2回、工藤がお届けします。(こちらの記事は聞き書き形式です)
第1回 突然、職人を継ぐ日が来た。
おじいちゃん(父である宇山正男さんのこと)が急に亡くなっちゃったからさ、いや…参ったんです。私は手伝ったり、うちわ作りの体験教室やったりしかしていなかったんでね。
もともと私は美容師なの。母親が美容師だったから美容室持ってるわけ。だけど、「うやま工房」が窮地に立たされたから無理とか言ってられない。まずね、うちわ作り最初の工程は、山に入って竹を伐ることなんです。
だけど、私は山に入ったことがなかったの。おじいちゃんも「女は山は無理だ」って言ってたんだけどね。近所に竹伐りを手伝ってくれてた人がいるので、その人に「どこの山行ってた?」って聞いて。本当にね、そこからなんだよー(笑)。
だから、今は美容師とうちわ職人の二刀流なんです。
経営の工夫
竹伐りはね、おじいちゃんは半日山で竹を伐採して、そこから半日(山のなかで)うちわの大きさに竹を切り揃えてたわけ。でも、私は慣れないから山から竹を伐り出す作業は人に頼むの。
半日じゃなくて1日山に入ってもらって、長い状態で伐れるだけ持ってきてもらうの。そしたら、うちわの大きさに切り揃えるのは私がいつでもできるじゃん。雨でも、家でもどこでもね。
おじいちゃんみたいに全部自分でやれれば一番理想なんだよ。だけど、そうはいかないから、私はどうしたら一番効率がいいのか考えるようにしたの。そうしないと長くは続かないなって思ったの。
どこで自分が一番動くか、そういう経営的なことを考えながら、うちわの大きさにコツコツ竹を切り揃えてたの。そうやって、うちわ作りを始めました。そしたら初めてのことだから楽しい。
↑切り揃えられた竹
守るために変えていく
コツコツ、ギコギコとのこぎりで6000本くらい竹を切り揃えるのね。そしたら指が腱鞘炎でえらいことになっちゃって。朝起きると一番辛い。
指が曲がったままなの。バネ指寸前になっちゃってね。朝、おはようって言いながら指を起こしてた。このままだと指が壊れると思って、今年はまた頭使ったよ。
おじいちゃんの場合は荷物を軽くするために、山のなかで竹を切ってたのね。だからのこぎり使ってたんです。だけど、私は家で切ってるから、丸ノコでびーっびーってやればいいと思ったわけ。電気使えるんだし。
だって、あとの工程でまた竹は綺麗に伐るわけ。だから、丸ノコで切っちゃっても大丈夫なの。
でも、それ以外の工程はおじいちゃんのやり方と変えてない。道具も全部、おじいちゃんが使ってたものを使ってる。
実感のある仕事
房州うちわは今、装飾品になっちゃってそんなに売れない。だから、10年くらい前からおじいちゃんがうちわ作りの体験をやるようになって、私も手伝ってたの。
で、体験用に中国の竹が安いから仕入れてみたんだけど、全然モノが違うのよ。しなりが違うのよ、竹のしなり。房州女竹を使うってことはしなるってことなの。
違いはあるっておじいちゃんに聞いてたんだけど、現実にどんな風に違うのかってのは自分で手にとって自分で勉強だよね。
(第2回へ続きます)
ありがとうございます。 列島ききがきノートの取材エリアは北海道から沖縄まで。聞きたい、伝えたい、残したいコトバはたくさんあります。各地での取材にかかる交通費、宿泊費などに使わせて頂きます。そして、またその足跡をnoteで書いていければ。