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No.12|物質的な豊かさを乗り越えて

資本税とベーシックインカムの導入(No.11参照)は、格差を縮め、より平等な社会に変わる転機に成ることを紹介した。労働時間が減り、競争から解放され、互いを思いやるゆとりが生まれる。かつてのように広告に踊らされて、無駄なものを買うということが必要なくなる。無駄なものを買わなければ、長時間働く必要もない。長時間働かなければ、ストレスがたまることもない。モノは減っても―—むしろ減ることで、今よりずっと自由に生きられる。

最低限のモノの生活するという「ミニマムライフ」という生き方は、モノを減らすことが目的ではない。モノはあるだけで、人から時間と気力を奪ってしまう。モノは定期的に手入れをしなければならないし、目に入る度に衝動買いしたことを思い出して後悔するかもしれない。それはわずかな時間かもしれないけれど、積み重なれば膨大な時間とエネルギーの消費となる。モノを捨てるということは、人生にとって何が必要なのか、その優先順位を決めることだ。日々モノと向き合い、自分の価値観に向き合い、自分のやりたいことを見つけ出す。そうして初めて本当にすべきことに時間やエネルギーを使うことができる。

モノが少なくなれば、家も小さくすることができる。生涯年収が2億円と言われている中で、建築費、修繕費だけで1/3(6,000万)近くのお金を使っている。その結果ローンを負い、その返済のために長時間働かないといけなくなる。そうなればクタクタになって、せっかくの我が家も寝起きするだけの場所になったり、職業や住む場所は変えにくくなって、家という檻に縛られるようになる。

家が小さくなれば、建築費や維持費は少なくて済み、環境にも負担が小さい。浮いたお金の一部を使って、素材やデザインにとことんこだわってみたり、庭も以前より広く取れる。家の支払いのために長時間働く必要もない。私たちのところに自由が戻ってくる。

この活動はスモールハウス(タイニーハウス)ムーブメントとも呼ばれ、徐々に普及が始まっている。小さいからこそ自分の力だけでも建てられる。自分好みに仕立てられ、修繕も容易だ。手を入れながら家とともに育ち、一緒に年を取っていく。多くの人が自分の家にもっと愛着を注げば、街や社会はずっと魅力豊かになる。

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Tiny house(例)

小さな家は運ぶこともできる。吊り上げて荷台に乗せても良いし、車輪をつけていても良い。好きな時に、好きなところに住むことが容易になる。広く取った庭で家庭菜園を始めてみる。土いじりを楽しみながら、四季を全身で感じる。買って手に入る高価な野菜より、形が歪だけれど、手間暇かけて育てた野菜の方が面白い。

食と住を一部でも自立できることは意外と大切なことだ。ハイテクに頼り過ぎてしまうと、存外社会は脆くなってしまう。ハイテクでもローテクでもない、地域に適合した人間的な技術*は、自然と調和し、地に足のついた自信を人に与え、経済的・精神的な自立を育む。主体的に人生をコントロールできるようになる。(*『スモールイズビューティフル再論』参照)

将来の老後のために働き詰めて、今を犠牲にしてはいかない。若い時の1日と、老後の1日は等価ではない。幼少の子供が親と一緒に過ごす一日は、大人になってからは二度と得られない。我々はもっと今を大事にしないといけないにも関わらず、簡単に今を切り売りしてしまう。

幸福な国と呼ばれるデンマークには、「ヒュッゲ」という言葉がある。人と人とのふれあいから生じる温かみを表現したものだ。私たちはモノばかりを追い求めてしまって、そうした温もりを忘れてしまってはいないだろうか?

ぱちぱちとした火をじっと眺めてみたり、のんびり石臼で小麦を挽いてみる。友達を家の中に招き、ゆっくりパンが膨らむ様を眺めながら、談笑して過ごしてみる。

暖炉

ただ、自分の時間を大切にすることも大事だが、常に将来に備えていなければならない。地球には資源的な限界があり、また国家間の複雑かつ不安定なパワーバランスの上で平和は維持されている。自分の世界に閉じこもらず、世界にアンテナを張り、遠い未来にまで思いを馳せ、与えられた環境に驕れることなく協力し合わなければ、秩序は容易く崩れてしまう。

現実と向き合おう、世界とはめちゃくちゃなものなのだ。世界は非直線的で、乱雑で、混沌としている。世界は動的である。世界はいつもどこかほかの場所へ向かう途中にあり、数学的に整った均衡状態にはない。世界は生き物であり、進化を続けている。世界は均一性ではなく、多様性を生み出す。だから世界は楽しいのだ。だから世界は美しいのだ。だから世界は成り立っているのだ(『ドーナツ経済学が世界を救う』より)

知るということは、世界のバランスを取るために不可欠なことだ。世界は複雑な要素が絡み合い、相互作用し合うことで均衡を保っている。何かを失う毎に、システムは不安定さを増していく。自然は急速に数を減らし、多くの種が絶滅を迎え、気候は安定性を失いつつある。やり直すことはできず、「知らなかった」では済まされない。

全てを信じたり、全てを疑ってはいけない。見極める力を身に着け、正しいことには協力し、間違っていることに盲目的に従ってはいけない。常にバイアスを恐れ、物事は多角的に見なければならない。残された時間はそう長くなく、後回しにすればするほどより良い選択肢から消えていく。地球はとっくに限界を迎えている。

本マガジンが、変えられなかったものを、少しでも変えていける後押しになってくれれば幸いである。

(参考資料)
より少ない生き方 ものを手放して豊かになる
スモールハウス ──3坪で手に入れるシンプルで自由な生き方


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▼マガジン(全12話)

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note:kiki(持続不可能な社会への警鐘者)

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