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差を

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月の中に差す直線    ..

あそこに全く同じ人間がいたら、つまり、私と同じ住所に住んでいて

私と同じ髪型をして、私と同じ服を着ている

隣のアパートは深夜も蛍光灯が明るく、その窓がいつも見えるもんだから
4時くらいになると朝日が登ったと思って慌ててしまうよね

人間は今だに明るさで時間を測ってるんだって、恥ずかしくなる

ふわふわしてる

ふーん
人が獣を飼うのは徹頭徹尾、毛のためなのかな

由来は詳しく知らないけど、「毛のもの」て印象を持たせる語感だしさ

私は自分の髪を触るのが好きで、昔は腰まで長い髪で人をギョッとさせていた

人の気も知らず、長い髪に包まれた自分は、少し世界と距離が遠くなる気がして気に入ってた

実際カーストみたいなものに関わらず、楽しく過ごせたのはあの長い髪のおかげだと思うよ

だけど髪を短く切ったら、栄養が行き渡って毛並みがぐんと良くなって

申し訳ないことをしてたな

丸い頭に沿った、お行儀のいい髪を撫でる

何が楽しくて生き物の世話なんかするんだと思っていたけど、これはいいかもしれない…

毛並みの良いものが生活圏内にいて、いつでも触っていい権利のためなら、面倒も辞さないということだったんだ

白い点滅の明かりは、確かにちょっと月光だ

遡れば、私が10年前いた場所にピッタリいたということになる

子供っぽい
獣と変わりない

何て言った?今

あの時なんて言った?

何も言えなかった?
やっぱり髪がボサボサだな

これ見よがしにクリエイターが用意した真っ白な床に立つと、月に帰ってきたようで安心するの?

あの砂浜みたいに死んだ地面の、反射光を、足の裏で感じているのか

帰ってきたのに、私が連れ出したんだ

毛並みが良かったから…

一人で死ぬより良いかと思って、
ばかばかしい

「一人で死んだわけじゃ無い」って思い込むために住んでる汚い建物に野生動物を閉じ込めた

口もきけない私の心を、なんで察せると思ったんだろう

2011年

ひどい震災があったところ
あの時はさびしいとこだと思ってた

眩しい土へ返した途端、毛並みは銀に
肌はぴかぴかに、目は潤って、何もかも波打つ

差だ
差を取ってるんだ

空気中から地面に落ちるまでの差を取っていたんだ

iPhoneの光を浴びて
本来持っていた生き物としてのあり方を、この一瞬で思い出したようだ

本能のプログラムが厳かに動き始めた

私もそう思う
ここにしかいられない

何年たっても、今目の前で起きても、同じ選択をする

気圧のグラフががくんと下がるみたいに、
光線が刺さっていくように、

思ったより、
雨は静かに

今だって聞こえているはず
見えているはず

同じMacを抱えてる
MacBook Air2020M1ね、いいよね、速い

同じ本を持って、同じ曲を聴いている
石板のように清潔な音

泥臭いところが無いんだろ

「泥臭いところが無いんだ」

「身の程知らずにきれいなものを求める人は執着で汚れてるけど、だけど、表は綺麗だから」

「そのきれいな面に立っていたい」

遅くまで起きていても、光の当たっている方しか見えない

私と同じ、全く同じ生き物

切りたての髪の匂いがする


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