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磁場

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「私は死なない」って言って

主人公みたいにカッコよく、一言だけ
脈絡もない

事実じゃなくても良いから
いや…
うそ、やっぱり事実じゃないと嫌だ

私は死ぬ
毎日、死のスレスレにいる

突然飛び込んでくる車
コロナの潜在感染者と乗る電車

どきどきしてる活火山の足元で暮らしていること

時限爆弾のようなガン細胞
明日になったら起き上がらないかもしれない体

みんな何故、怖くないのか

私は眠ることも起きることも苦手で、食べることも興味を持ってやれないから、たいして生きはしないだろう

42歳
みたいな、叔父のように、微妙に早死にする

40年も人生が続いたから、「あれ、意外と長く続くのかもな」と思った時に死ぬ

脳溢血とかね
やりそうだし

いっつも興奮してて寝不足なんだから

なんかよく鼻の奥から血っぽい匂いがして、MRI入っても分かんなかった謎のヤバめの頭痛がするの

逆によく生きてんな

少しの温度の違い、少し壁に当たった頭、遺伝、たまたま
体は突拍子もなく動かなくなる

やりたいことや見たいものの量と、それにかかる時間を考えると明らかに足りない気がするんだよ

なんで一日の半分、意識を失ってじっとするなんていうクソシステムを普通に受け入れてんだ

こんなに小まめに死んでいるなら、5000年くらい保ってもいいのに

よく永遠に生きるのは鬱になるとか、飽きるとか「死ねない苦しさ」とか言うけど
そんなの永遠に生きられる体になってから考えればいい

まだ過去にも未来にも行けてないのに、タイムパラドックスにびくびく配慮してる

頭いんだか悪いんだか

もうレトロフューチャーには騙されないぜ

未知の環境は想像もできないほど好都合な場合が多いと、経験則的に知ってる

もう紙の本買わないし、iPadあるから筆記用具全部捨てちゃった

「ミニマリストだよな」ってスッと言われて、
こんなに娯楽物に囲まれてるのに と驚いたけど、あんまり否定できなかった

真に必要なものは私自身だけで、後は思考のサポーターが手元にあればいいから

所詮ツール
ストレスがあるものは使わない

なのに肝心の私の体がダウンロード不可のデータで、サービス終了に怯えて暮らさなきゃいけないんだ

こんな理不尽な利用規約、はいはい同意できないだろ

挙句「不老不死は飽きるから苦しい」って、誰かがステマしてるみたいだ

飽きるなんて絶対嘘だし
2000年前から今までずっと、満月の歌作ってるけど?

25年もポケモン作ってる
(25年もポケモン作るなとは思う)

(でも飽きてないわけだ)

そもそも「永遠に生きたら飽きる」っていう考え方、脳が衰える体しか知らない人間の乏しい想像力によるものだよな

生きるのが楽しくない=脳の衰えだから、不老不死には無縁のはず

人間はただ考えるだけで十分楽しんで生きられる
現に私がそうなんだから

生きてるだけで永久に続く、都合のいいエロ漫画のような快感

昔聞いた言葉が、小さな猫になって胸の中を温めてくれる

時間が過ぎること
(=時間の経過に伴って変化する情報を感じること)

例えば自分じゃない人の声を聞くこと

地面に立ったり座ったり、それだけで考えこんで、
何も考えていない時すら私たちは考えて、バランスをとって立って

2段組の文章を認識している

(なんで0.5秒もかけてないのに、2段組の文章なんか認識できるんだ?!)

四肢が無くなって、目も耳も鼻も利かなくなっても、楽しいことは山ほどある

目を使う娯楽が好きなのにどんどん目が見えなくなった父親が
「もう生きていても」と言ったけど、あんな賢い人なら今だって、死ぬよりずっと楽しいはずだ

考えているだけで、草原の真ん中で深く息をした空気が脳の中に回っていく

ある程度は自由に動く

一人一人、歩いているだけで周りの空間まで発せられる世界観

ごくごく微妙なシナプスの違いで、スニーカーを履いたり、絶対履けなかったりする繊細な人間たち

ここは大量の磁石が置かれた大きな机の上みたい

(全ての場所がプラスとマイナスで引きつけあって出来ているんだ)

そんな場所で、一つの磁場が突然、前触れもなくごっそり失われるなんて良いこととは思えないんだけどな

あなたが居なくなったら

もし居なくなったらそれだけ、かくんとバランスが崩れてしまう

あなたのことを知っている私に留まらず、知らない人にまで、
使いやすかったペンを修理に出したら少し軽くなってしまったように

ずっとそこにあった時計が無くなって尚、ふと見上げてしまうように

生活の一部が抜け落ちてしまうはず

そしてそれは私にも言えることなんだ
なにより私は、少なくとも私は、だから

一言、

私を軽く見下して、知らなかったの?ってテンションで

どうしても失いたくない
誰だってそうだろ

この新鮮な感情、みずみずしい発見

同じもの見てんのに
(ずっと同じものを見ている)

(私そんなコンスタントに物増やすタイプの人間ではないから)

目の奥が、万華鏡のようにチカチカする
星型の情報に、私は5歳だから、喜んでしまう

同じ話を全く同じテンションで何回もするの、友達にウザがられてんのも知ってんだけど、ずっと感動できるほど良い話は何回でも聞きたいでしょ

それとも、これ以上に良い話をたくさん持っていて、お腹いっぱいなんだろうか

失念してたけど、私は鬱病だから「本来より脳が動いていない人」だ

みんなもっと鮮やかな世界に生きているから、私の新鮮な驚きも、食べ飽きたものなのかも

本物の不老不死の人たち、ゆったりと
時間が無限にあるような仕草

私が飢餓で、落雁のようなガッカリお菓子に大騒ぎしている奴だとしても

今よりもっと新鮮な事象、感情、だとしたら、それを続けたくはないのか?

あっと思わず立ち上がってしまう、クッソくだらない発見

人の数より多い、本、絵、音楽、服、家具、建造物、食べ物、

あらゆる形をとった、人の考えを固めたもの

人の考えの輪郭をただ象った、お手本をなぞった線のようなピクセルの集まり

この時点で
それらが2000年分ある社会に、

社会を形成できるくらい生き物がいる世界に、

調べれば調べるほど何でなの??てなる奇跡的なバランス感覚で、たまたま生物が生息できる環境が整ってる惑星の上で

大好きな家族が、友達が、会ったこともない全然知らない人が居なくなること

自分も居なくなることに、どのタイミングで納得できたのかな

私は目の前に誰も他人なんていないから、平沢進が言う「孫子」みたいにフワフワした言葉だけど

(子供いない奴に限って言う)
(怖くなるんだろうね)

もし目の前に他人がいたら、毎日懇願してしまう
半ばキレると思う

絶対に死なないで

ぶつかったら死ぬ虚弱な体で、車道の横うろちょろしやがって

自信満々に、気休めみたいなマスクで

舐めてんな

(かなり早い段階でそこそこキレちゃった)

あなたが死ぬということは、私が死ぬことの裏付けになってしまう

他人事だと思ってぼやぼや歩くな

漫画の主人公にでもなったつもりか?

見えない力に守られて、自分だけはまさか、みたいに
信じられない、いい大人が

ふわ と
2、3秒の出来事で死に落ちていくところを見たことないまま、たまたま生きて来れただけ

それか本当のバカで、考えたくないことを見ない振りしてるかだ
或いは、

或いは本当に

朝、昨日と同じ自分がすっきり目覚めてくれると
信じられる根拠があるなら

私に教えて、安心させてほしい

怯えたカマキリを諭す声で

「実はこれ秘密なんだけど」

あなたが死ぬということは、私が
私も、そしてそれよりも、

「私は死なない」


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