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#葡萄

小説|なまえ-ひとかけ

小説|なまえ-ひとかけ

あらすじ
——-存在していることの証明になる名前
誰もが当たり前に口にする名前、自分であるという自覚
ある葡萄畑で起こる不思議な事件
“正しい”「守り方」とは——

さらさらとその蔓は降りてきて私に語りかけた。
その雫をごくりと飲み込むと目に見えるもの全てがこれまでより色鮮やかで体は軽く、初めて見た世界のようだった。

昔のことである。十歳かその辺の歳だったと思う。
わしには好きな娘がおって、その

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小説|なまえ-ふたかけ

小説|なまえ-ふたかけ

***杏果

「私は葡萄畑のお手伝いが結構好きです。
ワインの味はよくわからないけれど、秋になるとその身いっぱいに甘い蜜を抱えた葡萄が大好きで、ワイナリーの娘にしては珍しく飽きもせずに葡萄を眺め、収穫の時期になれば大喜びでその粒たちを頬張ります。
中学生になった今も、部活には入らないで好んで家の手伝いをします。
お父さんは学生を楽しめっていうけど、それなりに楽しんでいるし、葡萄畑は私の憩いの場所

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小説|なまえ-みかけ

小説|なまえ-みかけ

***幸来

おじいちゃんが言っていた話はずっと覚えている。病院のベッドでどうして私にその話を残してくれたのだろう。
おじいちゃんは遠いところに行ってしまった。
お見舞いに行くといつも遠い目をしていて、おじいちゃんはそこへ連れて行かれてしまったのかもしれない。

昔、葡萄畑で不思議なことがあったのだという。
おじいちゃんと幼馴染が遊んでいた時に今の桜広場と葡萄畑の間に謎の穴ができたという。

そこ

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小説|なまえ-よんかけ

小説|なまえ-よんかけ

***杏果

やめて!!!!
声すら出なかった。
足も一歩も動かない。
お母さんが鈴菜ちゃんを抱きしめているけど、そこは時が止まっているみたいだ。
直感でダメだと思った。
お願い、私のお母さんから離れて。
鈴菜ちゃんがこっちに気づいてくる。
取り残されたお母さんはその場にパタリと倒れてしまう。こわい。この子は、誰?鈴菜ちゃんは、どこから来たの?

「ごちそうさまでした。お邪魔しました。」

その場

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