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深夜育児を助けてくれたもの

現在2歳の娘がまだ母乳やミルクを飲んでいた頃、夜の始まりは1日の始まりだった。

22時頃、抱っこの横揺れで寝かしつけた娘をベビーベッドに置き、夜中のミルク作りの下準備を終えたら、記録用の育児日誌とペンを持って自分も寝室へ行く。さあ今日もがんばろう、と普通なら朝家を出る時に言いそうな台詞を、当時は寝室のドアを開けながら心の中で呟いていた。そうして自分を鼓舞しながら、なんとか日々を、一夜、一夜を乗り越えていた。

娘はよく寝るほうだったと思う。それでも当時の記録を辿ると、2時、4時、6時…と今思うといったいいつ寝てたんだというような間隔で授乳やオムツ替えのメモが残っている。久しぶりに見ると初めての赤ちゃんのお世話に必死になっていた当時のことが思い出されて、お腹の辺りがきゅっとなる。

当時の我が家は夫が日中働き、私は育休中だったので深夜の育児は基本的にすべて私が対応していた。
まだ言葉なんて話せない、自分で首を持ち上げることすら難しい小さな赤ちゃんと、二人きりの夜。世界からそこだけが切り離されたように感じられた。

そんな夜を助けてくれたのが、ラジオだった。
赤ちゃんが泣き出しそうになったら(なぜか泣き出す直前にこちらの目が覚める)、ワイヤレスイヤホンを耳に入れて、radikoのアプリを起動。当時はプレミアム会員で全国のラジオが聞けるようにしていた。その日の気分で番組を選び、ボリュームを上げる。明るいジングルが聞こえると耳から身体が少しずつ目覚めていく。

こんな時間に起きている人がいる。こんな時間に、くだらない話をして、大笑いして、そして働いている人がいる。
そのことにどれだけ心が楽になったかわからない。いつしか深夜の育児時間はラジオを聞ける時間になり、今日は何を聞こうかと楽しみになった。
ラジオは育児の孤独を遠ざけ、その日一日を過ごすだけで精一杯で曜日もわからなくなるような日々を照らし、目印をつけてくれた。オールナイトニッポン、オールナイトニッポン0をついに最後まで聞き切った夜(その間ずっと子どもの眠りが浅く横になれなかった夜)は流石に参ったけれど、ラジオがなければもっと長くて憂鬱だったと思う。つい沈み込みそうな気持ちを、明るい声や優しい声が引っ張り上げてくれた。本当に、ラジオなしには深夜育児を乗り越えられなかったと思う。

ある日、ラジオで流星群の話をしていた。その夜は何年かに一度の流星群が見られるとのことだった。
明け方、やっと娘が寝ついた後、もう星は見られないだろうと思いつつもなんとなく心残りで、一人でそっと玄関の扉を開けマンションの廊下に出た。
空はまさに今、夜から朝に変わりつつあるところだった。ブルー、白、淡いオレンジ色。季節は冬で、空気はひんやりと澄んでいて、あぁこの景色をずっと覚えているだろうなと思った。

ラジオの声と、あの日見た朝焼けの色。
今までだってずっと存在していたけれど、自分の状況が変わるまで出会えなかった、気がつけなかったもの。

途方もなく思えた日々を支えてくれた存在を、きっとずっと忘れない。
そして今は見えないところにあるものに救われる日が、きっとこれからも来るのだということも、忘れずにいたいなと思う。

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