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【小説】「がんばれ」

Side A

ピコン!

テスト前夜、日付がもうすぐ変わろうか、という時にスマホが鳴った。いつものタイマーの音ではなく、メッセージ着信を告げるものだった。

「あー、みんなきつくなる頃だもんなぁ。」

ちらっと着信画面を見ると、いつものグループに『終わらない』『何したらいいか、わからなくなる』『今やってる勉強法、間違えてる気がする』などと、どんどん送られてくる。

気持ちはわかるが、ここで返信をすれば、ズルズルと愚痴大会になることは目に見えているので、ぐっと我慢して、スタンプを一つ。

『がんばれ!』

可愛らしいクマが旗を振っているスタンプに、みんな癒されたらいいな。なんて考えながら、私はテスト勉強に戻った。


Side B

「お、返信が来るとは。」

最悪の未来の想定しかできなくなっていって、勉強とか放り出して泣きたくなったから、思考の整理もかねて愚痴をグループに流してみただけで、実際に誰かからの反応を求めたわけじゃなかった。

それでも、誰かが見ていてくれてる、誰かが傍にいてくれるとわかるのは嬉しい。それこそ、スタンプ一つに救われるものもある。

『がんばれ!』

必死に旗を振るクマは、自分も全力を出しているから、一緒に頑張ろうと、言ってくれているように感じた。

「仕方ないなぁ。もう少し頑張るか。」

私は椅子に座りなおして、スマホをベッドへと投げた。


Side C

スマホに通知が貯まっている。日付はとうの昔に変わっており、そろそろ寝たほうが良い、とわかっているのに、不安で不安でたまらなくなり、眠れないなら、と電気をつけて教科書を読みなおしていた。

寝不足はパフォーマンスが落ちる、なんて、私も知っている。でも、眠れないんだから、布団の中でグダグダしてるくらいなら、教科書を開いて、一つでも単語を頭に入れたい。

友人たちは、もう寝ているんだろうか。みんなが寝てるなら、私も寝ようかな。

そう思って開いたグループの最期の通知は、スタンプだった。

『がんばれ!』

あぁ、そっか。まだ、頑張らなきゃいけないのか。みんな頑張ってるんだから。私一人、寝てたら、きっと平均点も取れない。人より要領が悪いんだから、前日くらい死ぬ気でやらなきゃ。だって、みんな頑張ってるんだから。

ポタポタと垂れる涙を拭って、私はまた机に向かった。



がんばれって、寄り添う言葉にも、突き放す言葉にもなると思う。
それは、受け取る側の心理状態によるところが大きい。
私も、素直にありがとう!って言える時と、言えないときとがある。
だから、顔が見えないコミュニケーションは、非常に気を張る。

あと、Cはそのスタンプが送られた時間を確認したほうがいい。

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