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【小説】2人目は海に入りたかった【白砂での暮らしシリーズ】

「汝、人と魚を混ぜ合わせた罪により、永遠の流刑に処す。」
告げられた男は、口をとがらせてつぶやく。
「自由に海を泳げたらいいのにって、1回くらい誰でも思うだろ。」

男が目を開ける。少し考え、自らの思考をまとめるようにつぶやく。
「この地で、魂がすり減って消えるまで、孤独に生きるっていう罰なんだよな。」
「あぁ!私は、かなり前に流されてきたんだ。まさか、魂が消える前に次の人に会えるなんて、思わなかったよ!」
目の前にいたのは、男よりもかなり年下の青年になりきれていない少年だった。

「それで、君はどんな罪で、ここに来たんだい?あ、名前も教えてくれ。」
少年は、楽しそうに会話を続ける。しかし、彼の後をついて、独創的で刺激的な色合いの家に入ったのは、間違いだったかもしれないと、男はすでに、酷く後悔をしている。どこを向いても、目が痛い。

「俺は、人と魚を組み合わせて、水の中でも生きていられる人間を作ったんです。それの名前はまんま、人魚ですけど。そしたら、海中資源も取りやすくなって、便利でしょ?なのに、あいつらときたら。」
「あはは、確かに、裁判長は僕の頃から、ずっと規則しか頭にない人だったもんな。あ、でも。同じ人かわかんないや。」

少年は、楽しそうに手を叩きながら、笑う。この純粋そうな少年は、いったいどんな罪を犯したのだろうか。

「んで?あんたはなんで?」
「あ、僕?僕はね、神様にしか許されてなかった魔法を、人間に与えたんだ。だって、あんなに発想力と行動力がある生き物に、魔法を与えてみたら、もっとすごいことしてくれると思ったんだよ!そしたらさ、ほら、君みたいにすごいことをしてくれる人が来たでしょ?やっぱり、僕ってば先見の明があるよね。」

男は、その言葉に顎が外れるほど驚いた。人間が魔法を使用し始めたのは、主神による慈悲であったというのが、彼の知っている常識だったからだ。それが、与えた本人が流刑地送りとは。

「そもそも、人間が魔法を得たのは、1万年は昔の話ってされてるが、それについては?」
「この空間で、年月数えるのとか、ナンセンスだよね。」

それもそうか、と男は深く考えるのをやめて、ため息をついた。

「そういえば、食料っているかい?」
「欲しいですね。魂だけなので不要と言われたとしても、今までの習慣を抜くのは、嫌です。俺は、上手いものが食べたい。」
「よしよし、では、土づくりからだな!」

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