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【小説】3人目は飛ぶように走りたかった。【白砂での暮らしシリーズ】

「汝、人と獣を混ぜ合わせた罪により、永遠の流刑に処す。」
告げられた女は、にっこりと笑っていった。
「私の子たちを悪いようにしないでくださいね。仲良く暮らしなさい。」

揺蕩うような心地の後、地に足が付いたので目を開ける。
「おぉ、今度は女性なのか!いやはや、女性も学問が受けられるようになったんだな。いい事じゃないか。」
目の前には、可愛らしく元気のよい少年だった。

「えっと、坊やは?迷子…では、ありませんよね?」
「むっ、坊やとは失礼な!僕は君よりずっと年上だ!一万年くらいかな。」

ぽかんと口を開けて呆けていれば、とりあえず家に、と少年は私の手を引いて歩き出す。目の前に現れたのは、大きなプランターと、痛いくらいに色鮮やかな塊だった。
中に案内されて、さらに唖然とする。家具という家具が一切ない。

「あの、椅子とか机とかは?」
「あぁ、僕はいらないし、彼は食べ物を作るのに必死でね。そこまで気に留めてなかったんだ。ほら、ここでは、食べるのも寝るのも不要だし。」
「あぁ、外の。食べ物を作ってたんですね。」

もう、何が起きても驚かないと心に決めて、一つ少年に提案する。

「あの、私が家具とか作ってもいいですか?それから、部屋も分けるか、新しい家を建てるかしたいのですが。さすがに、家を一気に作れるほどの魔力は持っておらず。」
「よいよい!好きなようにしなよ。お前たちは全員等しく、僕の可愛い子供なんだから。」

よくわからないことばかり言う少年を、気に留めないようにして、ベッドと椅子の創造にとりかかった。
なにこれ、こんなに柔らかい砂、まとめて固定するだけで、重労働なんですけど。
それでも、私は、心地よい暮らしのために、必死で魔力を練り始めた。

なんとか、椅子の形に持っていっても、すぐにへたって倒れてしまう。

イライラしながら、砂と格闘し続けていると、向こうの方から男性の叫び声が聞こえる。

「おい!見ろ!初めの奴!!じゃがいもの目が出たぞ!!」
「おぉ、すごいね。ここで初めての緑だ。」

そちらに目を向ければ、とうに成人を超えている男が少年の前で、興奮気味に自分の実績を自慢し、少年もそれを嬉しそうに褒めている。

ふと、男性がこちらに目を向けた。

「あ、すまない。つい、夢中になっていた。君は?」
「先程、こちらに流された者です。えと、お名前とかは、どうしましょうか。」
「あー…。忘れた。まあ、大事なもんじゃないし、いいかな。」

あっけらかんと笑う彼は、本当に自分の名前など気にしてないようだった。
その後ろで、少年も笑っている。

「じゃあさ、せっかくこの白砂の地で、心機一転始まったってことで、名前お互いにつけるのは?」

少年の一言に、私も彼も頷いた。私自身、生前と言う事が正しいかはわからないが、この空間で、同じ名前を使う必要は感じてなかった。

お互いに、何故流されたかや、今までの研究、好きなものなどの情報を交換し、『名前』を考えはじめる。
ただ、幸せを願ったりしているわけではない。時短のためにも、私は安直に見たままの名前を挙げてみる。

「私からの提案は、『シソ』と『ハカセ』です。」
「おお、初っ端から、いい案じゃないか!」
「俺がハカセか。いいな。じゃあ、君は『センセイ』だな。」

すごく簡単に認められてしまった。識別番号ですら、よかった可能性も感じている。

名前が決まったので早急に解散となった。
ハカセはじゃがいも以外の野菜を作るために戻り、シソは部屋の中でゴロゴロ寝ている。

私も、山盛りの砂の前で、ぐっと伸びをして作業を再開した。

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