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【小説】私の親友

 今日は私の親友の結婚式。幼いころから、一番の友達であり続けた友人のハレの舞台。

 純白の衣装に身を包んだ彼女の隣で、同じ衣装の私が立っている。存在しえない光景は、私の脳裏に一瞬だけ浮かび、消えた。
「え。私、好きだったの?」
 この感情は、友人が結婚して寂しいというだけのものじゃなかった。もっと、ドロドロとした、執着だった。

「気づかなかった。でも、気づいても意味は無かった。ならば、取り返しがつかなくなるまで、気づけなかった私は、幸せ者だ。」
 自分に言い聞かせるように、目を伏せて誰にも聞こえないような小さな声でつぶやく。

 友人代表スピーチはなんとか乗り切った。何度も涙ぐんだが、友情として処理された。でも、何を話したのかあまり覚えていない。
 机に戻り、ズビズビと鼻をかみながら、他の友達からの「感動した。」というような言葉をはにかんで受け取る。ありがとう、と細い声で返したような気もするし、声にならなかった気もする。

 どの瞬間の彼女も美しく、この世のすべての幸せが彼女のために集められているようだった。とても嬉しそうに笑う彼女の顔は、今までの何より一番美しかった。

 そのとき、突然理解した。あぁ、これが私の幸せだ、と。
 彼女が幸せであることが、私にとって一番の幸せだ。彼女の選んだ人は、彼女を一番に考えて行動してくれそうな優しそうな人じゃないか。彼女と彼女の選んだ人の築く家庭は、暖かいだろう。彼女の子供は、きっと可愛らしいだろう。
 私は、あの家庭の行く末を見ることを許してもらえる。それだけで、私の形のない執着は救われる。

 結婚式の最後、ようやく心の底から笑えた私は、親友のもとへと駆けて行った。
「おめでとう!幸せにならないと、許さないからね!!」
「当然!!」
 腹の底からの返答をし、満面の笑みを浮かべた親友は、やはり私が今まで見た中で一番の顔をしていた。



 もし、万が一、ありえない話だけど、彼女を泣かせた人がいたら、優しい彼女の代わりに私がしっかりじっくり「おはなし」するんだ。そのためにも、知識とお金を貯めなくては。私の生きる意味を作ってくれた親友は、本当に本当に、私の一番大好きな人だ。

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