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【小説】初めての土いじり【白砂での暮らし】
砂を土にすることが、できない。まず、土を触った記憶がほとんどない。幼少期から、屋内に籠って、一日中本を読んだり、実験をしたりしていた俺が、できるわけがなかった。
「いけてる?魔法で大事なのはイメージと、自信だよ?」
わかってるけどさ。わかってんだけどさ。
心の中でつぶやくにとどめ、大きいため息をつき、手の内でサラサラと流れ出す土を放り出して、家に帰ろうと立ち上がる。
「あ、もしかして、土触ったことない?外遊びしない系の人生?それなら、仕方ないか。ほら、おいで。」
少年は、砂を拾ってギュッと固める。手を開けば、いわゆる土が溢れていた。にこにこと笑みを浮かべながら、俺の手に土を押し付ける。
「あんたが、作ってくれたら、すぐできんじゃねーか。」
俺のこの数週間かけた四苦八苦を、一瞬で、完璧に、仕上げられた事に、プライドが傷つけられて、土を投げ返す。
当の少年は、キョトンとした後、少し困ったような笑みを浮かべた。
何故か、遠い昔に、母が準備した問題を、『簡単すぎるからやらない。』と投げ捨てたことを思い出した。
しかし、そんな郷愁は一瞬で消え失せ、少年の表情は、悪戯めいた笑みに変わる。
「ま、ご飯食べられなくて困るの君だし?勝手にすれば?」
「はぁ?」
こいつ、パンパンと手を払い、ついでに、落ちていた土を全部消しやがった。
呆然とする俺を置いて、少年は家に帰っていく。
これほどまでに、コケにされたのは初めてだった。
今まで馬鹿にしてくる奴らは、大抵が俺よりも出来ない奴らだったから。負け犬の遠吠えだと無視していた。
しかし、あぁ、くそ。あいつは俺よりすごい。当然といえば当然だが。こんなに、悔しいと思ったことは、一度もない。
結局、飯を食わなくても生きていられるという証明は既に為されているのに、諦めきれずに土を作り続けた。
あの一瞬の感触を思い出して。何度もイメージを繰り返して。少しずつ、土は増えていった。
「おい!お前!!見ろ!!」
「びっくりした。君って、そんなに声出せるんだね。」
なんだか、呆れたように笑っている少年を引っ張り出し、家の前に連れて行く。
「どうだ!4つ分も作ったぞ!!」
「おお、すごい。見事だねぇ。」
桶も作って、砂と混じらないように、土を固めた。このサイズを4つ作るまでに、どれほどの時間をかけたことか。
素直に褒められたことを喜ぶ程には、俺は仕上げたものが自慢だった。こいつの、次の言葉を聞くまでは。
「じゃ、次は、植物の種だね。これは流石に、僕の頃とは違うから、頑張るんだよ。」
この先、食料ができるまでの道のりを考えると、俺は絶望に打ちひしがれて、うずくまった。
次に動き出したのは、明るいと暗いを4回ほど経験した後だった。
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