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血道 第四部『血道』 断片②

 私の歩いた道は、人から見たら恵まれていたのかもしれない。
 愛のある家でした。
 父も母も祖母も、私を愛し、私も彼らを愛しました。善良なる彼らは心を砕いて育ててくれました。
 でも、どうしてでしょうか。私の足は重い鎖に縛られたようで、自由にもなりません。
 でも、どうしてでしょうか。私には轡がつけられ、叫ぶことも許されません。
 どうしてでしょうか。
 どうしてでしょうか。
 誰もが、私を見て務めを果たせと叫ぶのでしょうか。
 私を縛り付け、私を苦しめるのは、どうしてでしょうか。
 それは私だと、もうひとりの私がゆびさします。
 私に、お前が自分を縛っているのだと、叫ぶのです。
 私の歩いた道は、誰かの道でした。
 誰かが苦しみ歩いた道でした。
 
 私の指先には、蟻を潰した感覚が残っています。
 私が殺めた命の重さが。
 私の心も、そのくらい軽いのでしょうか。
 私の心と魂くらいは、私のものでありたい。
 私は、私の心は。
 この絶望が私を包み込む前に、私は自由になるのです。
 あの光に向かって、あの、あたたかな火に向かって。
 そう、私は、私たちは、あなたたちを、心の底から憎んでいるのだから。
 出して。出して、私を出して。この暗い檻から、この闇の淵から、出して、私を見捨てないで、お願い、お願い……ここは寒い、ここは……
 出して。
 出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して、苦しくて冷たくて悲しい、こんなところに置いておかないで、誰かの罪を私にあがなわせないで。
 私にどうしようもないことを背負わせて、私が壊れるのを待たないで。
 私たちがすっかり壊れたのを、見守らないで。
 出して、この絶望から。
 出して、永遠に終わらない世界から。
 繰り返された血の歴史から。
 出して。救って、お願い。
 私たちを、ありのまま、愛して。
 ──これが、私の願いです。難しいことはわかっています。
 だから、終わりにしたのです。
 すべてを。
 これで、終わりに。これが、私の、私たちの物語の幕引きです。
 さようなら。


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