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ザ・ライダーThr Rider そこでしか生きられない場所。

マーベルが次作ヒーローもの「the Eternals」の監督に選んだのは、まだその名を知る人が日本では(きっと)少ない、中国出身の女性監督クロエ・ジャオ。彼女が撮った2017年の映画「ザ・ライダー」は今Netflixで観れる。彼女の2020年「ノマドランド」(原題: Nomadland)はヴェネチア映画祭最高賞の金獅子賞を取り他、沢山の映画祭で評価され今まさに時の人だ。そんなクロエ・ジャオ監督もザ・ライダーは本人と撮影監督である自身の恋人とで資金を持ち出しで撮った映画で低予算で派手な演出も無く、一人のカウボーイにしっかりフォーカスする静かなストーリーだが、オバマ前大統領が「お気に入り」に選ぶほど、刺さる人には刺さる映画になっている。

主人公ブレイディはそれを演じるブレイディ・ジャンドロー本人の実話であり、半分ドキュントなのでリアリティがすごい。凄いというか観終わって「あの表情・・・ホンモノか。。。」とジワる。実際に監督が彼を知った後に本人が落馬して怪我を負ったということでそれを映画にしたというのだから凄い。父役、妹役、親友役も本人の名前そのままで、恐らく苗字から推測するとブレディとはリアルに家族である。本物の難民を使って難民の映画を作ってしまった「存在のない子供たち」を一瞬思い出してしまう。最近の映画界の流行りなのだろうか。。確かに自分がオーディションしていても、変に癖がついた役者よりその辺の素人の方が良いなと思う時は結構ある。その人の生まれ持った雰囲気や存在感は芝居を超えて訴えかけてくるリアルなのだ。

話を戻すと、終始カウボーイ&ロデオの話でカウボーイと言えば西部劇、程度の知識しかない私には縁遠い世界だけど「その道で生きていこうと思ったスポーツ選手」とか「その道一筋な職人」そう捉えると少しは分かる。2年前白血病を発症して最近復活し表彰台にまで上がった池江璃花子選手をふと思い出した。彼女の復活は美談であり勇気をくれるし素晴らしいことだが皆がそうなる訳では無く、この映画の主人公はまさにその逆にある。しかも「カウボーイでありロデオをやる」という事と自分の生きる場所や世界や友人は表裏一体で逃げ場がない。若者だけど居酒屋でパーッと騒ぐこともないしカラオケ屋でシャウトする事もないし可愛い女の子とタピオカを飲んだりもしない。(何と言ってもアメリカ中西部南ダコタに位置するパイン・リッジ保護地区)最近の作品でありながら主人公がスマホやネットを観ているシーンも殆どなく、あったとしてもロデオを観ているのである。どこまでロデオ好きやねんブレディよ、。もう人生全て「ロデオ」なのだ。そんなロデオを怪我で諦めざるを得なくなった主人公。端正な顔立ちで寡黙、何かを想う澄んだ瞳は段々と馬に見えてくる・・・。いやいや、そんな彼だからこそ馬と通じ合えるというか。言葉少ないながらに妹や全身不随になった友人を想う優しさも滲み出てくる。マジックアワーの空はまるでブレディ自身のようだ。

映画は奇跡の復活を遂げたり、諦めずに何かに打ち勝ったり、人に夢を見させてくれるものも多い。でも私はこういう映画がとても心に残る。過剰に情緒的にしていないにも関わらず、ブレディの悲しみや葛藤はいくつも画面から滲み出てくる。脚を怪我した馬を安楽死させられないブレディは痛いほど馬の気持ちに共感したのだろう。大自然の中での怪我は生きる場所を失うということなのだ。その馬を安楽死させ「He can't run and play and do what he wants to do.」と妹に話す。それはまさに自分のことでもある。でも、ブレディは人間だから生きるしかないと続ける。とてつもなく深い悲しみだけど、医者にも止められたロデオの大会に俺はこれしかないねんと向かったのに出場直前で止めた時、ブレディの目に映ったのは父と妹の姿だった。
もう良いよブレディそれで良い・・。と父親に肩を抱かれるラストシーン見て私は思った。
願わくばブレディがせめて乗馬は許され、今も南ダコタを馬で駆けていて欲しい。

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