見出し画像

なぜ花火大会に向かう浴衣の男女を見るとムカつくのか?

浴衣姿がムカつくのである。

札幌市内を流れる豊平川とよひらがわは我が街の南方から注ぎ、市内中心部を通過して北東に抜けていく川である。札幌の地形は扇状地なのだが、これは豊平川が作った地形。母なる我らが豊平川。

今夜はその豊平川で花火大会があるらしい。古くから開催されている札幌の「夏の風物詩」だ。何万発の花火が打ち上がるかはわからないが、これを見るためにおそらく数千、数万単位の人間が豊平川の河川敷に集まる。


こうやって書いているのだから、もちろん私はこの花火大会に行ったことがない。というか花火大会に行ったことがない。こう書くことで「私は大衆に迎合する人間ではありませんよ。確固たる自分を持っています。どうですか」と主張したいわけではないと思ってるけど、とりあえず事実として行ったことがない。


先ほど道を歩いていると、浴衣姿の男女がいた。豊平川に向かうのだろう。男性は紺色の浴衣を着て腹の帯にうちわをグサっと突き刺し、女性はピンクの浴衣を着て、髪の毛をお団子に結っている。これ見よがしに。こういう光景を見ると私はとてもムカついてくる。

「ずいぶんと楽しそうだなチョビヒゲ。女子かわいいなクソ団子」

こう思うわけだ。こっちは仕事で汗をかき、ちょっとでもこの国のGDPに貢献するための生産活動をしてるのに、かたやあっちは浴衣でカンカン歩いてらぁ。見るからに楽しそうやで。

「神様、俺にも浴衣を着させてください」

私は今夜、週末金曜なのにだれからも誘われることなく家に帰ることになる。いまひとり、人に囲まれた喫茶店でこれを書いている。むなしく。

きっと家に帰った私は、カルビーのポテトチップスの粉にまみれた指でリモコンを操作し、一昨日から着替えていないジンベイなパジャマを着て、金曜ロードショーの『トイ・ストーリ』を見ることになる。

「ウッディ! バズはいい奴だ! 仲良くしろ!」

そうツッコミながら見る(確信)。


花火大会の経験がない。友だちに誘われることもなければ、歴戦の素敵な恋人たちと行くこともなかった。自分から行こうとも思えない。だからこそ浴衣姿で風を切って歩く人たちを見ると、未知の楽しみを目の前で見せつけられているような気分になる。


浴衣は幸福の象徴なのではないか。

だって浴衣姿って、過去・現在・未来という時間の三要素すべてが「幸福」で満たされているからこそ着られるじゃないか。

蝶の鱗粉のように幸福が私にふりかかる。

「浴衣を着る」ということは恋人か友人がいて「豊平川の花火を見にいこうよ」と連絡を取り合った「過去」の象徴。

今まさに浴衣を着て楽しそうな「現在」は言うまでもなく、あと数時間後にはだれかと花火を見て、それをインスタにでもあげるのか? 24時間で消えるストーリーズに? そのあとどっかで食事に行ってお酒を飲んで?

クソ、楽しい「未来」が確約されてるやないか。


浴衣は幸福の象徴だからムカつくのだ。私は他人の幸福を素直に喜べないせせこましいカスなんだきっと。もっと奥ゆかしく、もっとしっとり、幸福は自分の中だけで噛み締めていただけませんか。

......とまでは思わない。


かつての日本人がもっていたであろう風流な心を取り戻せ! 目を覚ませ! 立ち上がれニッポン! みたいな三島由紀夫的思想を持っている私。

......とも思わない。


何かを否定するという行為は自分を肯定するためものだろう。

結局のところ、他人の楽しさを否定的に捉える視点は、自分の不満や寂しさ、過去の経験、社会的重圧などが複雑に絡み合った結果の視点。あまつさえこのnoteに「浴衣がムカつく」と書いてるあたり、自分がかわいくなってくる。「あまつさえ」ってなんですか?


いまこれを書いてる場所は喫茶店。私の席の向かいには、浴衣を着た男女がコーヒーを飲んでいる。楽しそうに。浴衣を着て飲むものはお茶にしてくれ! とも思わない。


...

あれ? そんなにムカつかないな。

なんやかんやここまで書いたものを全てひっくり返すようで悪いけど、どうかこのあとの向かいの2人がさらに幸せであってくれ、なんて密かに願っちゃったりして。

浴衣姿がムカつくと書いたけど、意外と気にならない自分がいる。いま書いてきたことはたぶん、大学を除籍になるまでのひねくれた私が持っていた思想だ。


つまり私は、他人の幸福を否定してまで自分を肯定しようとは思わないのである。あぁよかった。


<あとがき>
浴衣を着た女子が普段よりも増して可愛く見えるみたいな現象。これに似ているのは「ゲレンデマジック」ですね。冬のスキー場にいる女子がいつもより可愛く見えるってやつです。このあとがきを書いて「ゲレンデマジック」の語呂の良さがいいなと思いました。ゲレンデマジックは「7語」で構成されています。だから語呂がいいんだなという記事をいつか書きたいです。今日も最後までありがとうございました。

【関連】この季節によく読まれる記事

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?