永遠に完成しないジョーク。
ジョークというものは、ある「共通認識」を話し手と聞き手がもっていて初めて成立する。
たとえば目の前に巨大なビルがあったとして「このビルは333メートルあるんですよ」という説明を受けたとする。
333メートルと聞いたとき、ほとんどの日本人は「東京タワー」を思い浮かべることと思う。
ここでジョークとして「このビルは東京タワーよりは太ってるんですね」みたいなことを言うと、聞き手の脳内には、
・「333メートル」
・「東京タワー」
・「東京タワーは細いもの」
という共通イメージがあるわけだから「太っている」という表現に対して「なるほど、これはジョークだな」と察知できる、という構造だ。つまんないけど。
逆に「このビルは333メートルあるんですよ」と言われたときに「へぇ〜、新宿のコクーンタワーのいとこみたいなものですね」と返してしまうと、これは共通認識もなにもあったもんじゃないから、相手はポカーーーンだ。
よって繰り返しになるが、ジョークというものは、お互いの共通認識があってなんぼのものである。
…
では、
ちょっと考えていただきたいのだが「完成するまでに非常に時間がかかるもの」といえば、これをお読みの方々はどんなものを連想されるだろうか。
スクロールの指をほんの少し止めて、ぜひ考えてみて欲しい。「完成するまでに非常に時間がかかるもの」である。
どんなものを連想されるだろうか。
……
…
…
……私の場合。
……私の場合は「ディズニーランド」と「サグラダ・ファミリア」を思い浮かべる。たとえば、前者のディズニーランドの場合、かのウォルト・ディズニーはこんな言葉を残している。
-ディズニーランドは永遠に完成しない。この世に想像力がある限り、ディズニーランドは成長し続けるのだ。
いいですねぇ〜。さすがウォルトさん。
ディズニーランドは永遠に完成しない。たしかにディズニーランドは開園以来、エリアを拡張し続け、アトラクションも新しいものがどんどん出てくる。パレードやショーも変わり続け、最近ならジャンボリミッキーの流行が記憶に新しい。
完成するまでに非常に時間がかかるもの。
もうひとつはサグラダ・ファミリア。
スペインのバルセロナにある、アントニオ・ガウディ設計の傑作。1882年に着工し、2023年現在、この建物はいまだに完成していない。
噂では2026年には完成するとかしないとか言ってるが、果たしてどうなるだろう。
1882年に着工した、ということは140年以上も工事を続けていることになる。ガウディはなんちゅーものを設計したんだろう。
…
ディズニーランドが「永遠に完成しない」を謳っているのとは対照的に、サグラダ・ファミリアは時が経てばやがて完成するものである。
だから「完成するまでに非常に時間がかかるもの」と言われたときに、頭の中で連想すべきものによりふさわしいのは、サグラダ・ファミリアと言って差し支えない気がする。
……
…
今日の話だ。
ある経営者と話をしていた。
46歳の男性。集客用のWebページのコンサルをしてほしいとのこと。いま作っているWebページがあるのだが、それとは別の目的をもったページを作ってほしい、というオーダーだ。
ほかブランディングの施策の全体設計も希望らしい。広告に携わる私としては、とてもありがたい話だ。
「いま作っているページは、すでにWeb上に公開されているようですが、完全に完成している、というわけではない、とお見受けしましたがいかがですか?」
と私が質問すると「そう! そうなんです」とおっしゃる。
「完成してないのに世の中に公開しているのですね」と聞くと「ページ内のコンテンツは随時撮影や取材を入れて作る予定になってるんです」と、これまたおっしゃる。
「じゃあ、時間をかけて作っていっている最中、というわけですなぁ〜」
と私が言うと、その方は真顔で「ええ」とおっしゃる。社長のとなりには同じく40代と思しき男性役員、それから30代の女性担当者さん。みな神妙な面持ちだ。
みんなが真剣な顔をしている様子を見た私は、
(あれ、なんかピリピリしてるなぁ、この社長は普段は怖いのかな?)
なんて思いながら「時間をかけてコツコツですねぇ」とまた言う。「そうなんです、なかなか完成しなくて」とみんなが言っている。
……
…
長い時間をかけて……?
コンテンツを随時更新……?
なかなか完成しない……!?
……そ、それって!?
……サ、サグラダ・ファミリア!?
サグラダジョークのチャンス到来である。
みんながやけに神妙な面持ち。会社の全体ブランディング。40代のすこしピリッとした社長。同じ40代の役員。そして30代の女性担当者。真剣なまなざしの私。
イケるか? 言ってみたい。
チャンスをものにしたいじゃないか。
イケるかイケないかじゃない。
いくしかない。
よし。
…
「社長それ……
サグラダ・ファミリアじゃないですか」
炸裂。渾身のサグラダファミリアジョークが空中に炸裂。おいガウディ、みてるか。140年前に君が着工をスタートしたサグラダ・ファミリアは、君の母国からはるか離れた極東の島国でジョークとして使われているぞ。しかも140年の時を超えて。私を含めて参加者全員が真剣にものごとに向き合っている中で、緊張感のあるこの場を和ませるサグラダジョークだ。
すると社長は真顔で、
「あ、はい。それでですね、このページは……」
スルーされた。
あまりにも綺麗にスルーされたので、私もすぐに真剣モードに切り替える。ものごとには真剣に向き合ってなんぼだ。真剣に仕事をこなしていなければ、顧客を紹介されないし、すばらしい成果も出ない。
ただ、ジョークというものは、相手が笑ってくれなければ完成しない。この観点でいうと、魂こめて炸裂させたサグラダジョークは完成しなかったことになる。
ウォルト・ディズニーは「ディズニーランドは永遠に完成しない」と言ったが、このサグラダジョークも完成しなかった。悔しい。
…
商談はそれから「なるほど〜」とか「ああでもない、こうでもない」なんて言いながら無事に終了した。先ほど炸裂させたサグラダジョークなんて、おそらく全員が地中海の彼方に忘れている。
会社を出ようときちんと深々とあいさつをして感謝を伝え、玄関に向かって歩いていると、40代の男性役員と30代の女性担当者が最後まで見送ってくれた。
そして言われた。
完成してたようだ。
【関連】サグラダ・ファミリアな過去記事
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?