【自己紹介②】使用している楽器
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いつも使用している楽器
配信では主に三線(さんしん)と一五一会(いちごいちえ)という楽器を使っている。三線のほうは沖縄音楽では最もポピュラーな楽器だし、なんとなく知っている人も多いだろう。
三線(さんしん)と三味線(しゃみせん)の違いがわからないという人は結構多いので簡単に説明しよう。どちらも元々は中国の“三弦”という楽器をルーツにしている。中国の三弦が、内地(本州)と琉球(沖縄)に伝わり、それぞれ独自の発展を遂げたものが三味線と三線ということだ。言ってしまえば、同じ楽器を親に持つ兄弟のようなものである。
その証拠に三線と三味線は構造から調弦(チューニング)、譜面に至るまで多くの共通点がある。例えば三味線の文化譜を三線で弾くこともできるし、反対に三線の工工四と言われる独自の譜面を三味線で再現することもできるのだ。なんだかマニアックな話になりそうなので、詳しく知りたい人はウィキペディアなりで調べるといいだろう。
一五一会について
もう一つの楽器、一五一会(いちごいちえ)について述べていこう。Spoonで1年半も一五一会を使って活動をしている甲斐があってか、弾き語り界隈ではそれなりに認知されつつあるものの、この機会に改めて基本的なところも含めて説明する。
一五一会は沖縄出身のバンド『BEGIN』と、岐阜県可児市にある国産ギターメーカーの『ヤイリギター』が共同で開発した創作楽器で、日本で生まれた楽器としては、大正琴以来約90年ぶりの新しい和楽器として2003年に誕生した。
『BEGIN』については、沖縄を代表するバンドとして『島人ぬ宝』や『涙そうそう』などのヒットを生み出している、今更説明する必要もないくらい有名なアーティストだろう。ここ最近で言うならば、某携帯キャリア会社のCMで浦ちゃんが歌っていた「そぉ〜らぁ〜の♪こぉ〜えぇーが♪ききぃ〜たぁ〜くてぇ〜♪」もBEGINが提供した楽曲だ。近年ではブラジルでかなり人気があるらしく、サンバを取り入れたライブを敢行するなど海外でも活躍の場を広げているようだ。
『ヤイリギター』は、知る人ぞ知るブランド『K.Yairi』で世界じゅうのアーティストに愛されている高級ギターメーカーだ。厳選された良質な材と最高峰の職人たちの技術で全てのギターが手作りで生産されている。余談だが、『S.Yairi』という刻印のギターも楽器店に行くとよく見かけると思う。しかし、ヤイリギターとは全く関係のない中国資本のメーカーなので、間違えないように注意してもらいたい。
また、ヤイリで作られたギターは永久保証といって新品中古問わず格安でメンテやリペアを請け負っている。かく言う僕も、中学生の頃に父から譲ってもらったK.Yairiのギターを手にしてからアコギはずっとヤイリ一筋で、20年近く職人さんにはお世話になっている。
そんな最強タッグによって創られた一五一会とはどんな楽器なのかと言うと、弦を2本減らして三線と同じチューニングにしたアコギとも言えるし、アコギと同じ材料と構造で作られたベース音を1本足した三線とも言える。つまり三線とギターの良いとこ取りをした三線とギターのハイブリッドのような楽器なのだ。
例えば、三線は調弦さえ合っていれば適当に弾いてもそれっぽく味わいのある音に聴こえるし、弦も3本しかないのでギターみたいに難しいコードを覚える必要もないので頭をすっからかんにして弾けるような手軽さがある(もちろん三線も極めようとすると相当奥が深いのだが)。
ただ、洋楽やクラシックをするには少し無理があるし、良くも悪くも“三線の音色”しか出せないので、どんな曲も沖縄の曲にしか聞こえなくなってしまうのだ。もちろん、それが悪いわけではないのだが、どんな料理もカレーをぶっかければカレー味しかしなくなるのと同じ理屈と言えばわかってもらえるだろう。
それに対してギターは、クラシックからロックまで幅広いジャンルの音楽に溶け込むことができるし、歌の伴奏からソロギターにと演奏スタイルにも事欠かない。時には打楽器のように使うこともできちゃうし、ギター1本でオーケストラを表現することだって夢ではないだろう。
しかし、一見万能そうに見えるギターにも致命的といっていい弱点がある。それは習得難易度の高さ、つまり弾きこなせるようになるまでがドチャクソ難しいのだ。
いわゆる“Fコードの壁”はもちろん、右手ひとつとってもアルペジオだのストロークだのわけがわからなくなってくるし、やっと弾けたと思ったら歌いながらやると全然ダメだし、そもそも人間の指は5本しかないのに弦は6本ってどういうことなの!?という話である。
Spoonで弾き語り配信している人の大半はユーフレットを見ていると思うが、簡単弾きと書いてあるはずなのに全然簡単じゃなかったりすることはよくあるだろう。他の上手い人の演奏を見たり聞いたりすれば上手くなるのかと思いきや自分との差に絶望するなんてこともあると思う。ギターがこれまでどれほど多くの弾き語り初心者の心をへし折ってきたのかは計り知れない。
一五一会というのは、その両方の長所を併せ持っている。それはつまり、三線のように手軽に弾けて、かつギターのように幅広く演奏できる、そういう楽器なのだ。
一五一会の秘密
手軽さと幅広さという相反する要素を、一五一会はなぜ併せ持つことができるのだろうか?その秘密は構造とチューニングにある。
見ての通り構造はギターとほぼ同じで、違うところと言えばボディの形と弦の本数くらいである。ボディの形については深い意味があるので後ほど説明するとして、弦はギターと同じもので、ライトゲージの1、3、4、5弦の4本を使用する。
チューニングは基本的に太い方から「GDGD」となっている。これは絶対的なものではなく、相対的に1度と5度の倍音で成り立っていればいればよい。例えば「FCFC」でもいいし「AEAE」でもよい。スケールと弦のゲージにさえ適合していればOKということだ。
エレキギターを弾く人にとってはもうお気づきかも知れないが、この並びはいわゆるパワーコードというもので、コードが持つメジャーとマイナー等の区別が無く、フレットごと押さえる(セーハする)ことでシンプルで力強い和音となるのだ。
このように、一五一会にはギターと異なるポジションがある。「GDGD」のチューニングにした場合、開放(何も押さえないこと)でGのメジャーでもマイナーでもないコードが鳴る。これを“一”コードとして、「二、三、四、五…」とフレットをセーハすると「A、B、C、D…」と鳴っていくのだ。
また、ギターと違いネックが細く弦も4本しかないことから、比較的セーハがしやすい。コツを掴んだら手が小さく力の弱い女性や子供、お年寄りにも綺麗に鳴らすことができるだろう。
すなわち一五一会は指一本だけでコードを押さえることができるので、ギターのように左手に意識をそれほど割く必要がない。キャッチコピーにあるように“世界一簡単に弾き語りができる楽器”と言うこともできるだろう。
しかし一五一会を15年以上弾いてきた僕としては、この表現はあまり適切でないように思える。その理由は、一五一会にも弱点があるからだ。それについては、また次回に持ち越したいと思う。
<次章>
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