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ゲームテキストを書く時に意識していること

Xでこんなアンケートをおこなった結果。

投票していただいた方、ありがとうございました!
ということで今回は、ゲームテキストを書く時に私が意識していることを、つらつらと書いていこうと思います。
誰かの役に立つかは知らん。


理想に近い文体の作品を見つける

まずは「自分はこんな文体のテキストが書きたい!」と思う作品を見つけましょう。
拙作『精神仕掛けの浪漫劇』の場合は夏目漱石——なかでも特に『虞美人草』でした。
別にお堅い文学である必要はありません。自分の作風に合っていることが重要です。お気軽ギャグゲーで芥川龍之介調のテキストが出てきたらチグハグすぎる(そのチグハグさを売りにするならチョイスの最適解ですが)
現代小説でも、ラノベでも、児童文庫でも、絵本でも、なんなら映画の台本でもいいんですけど、とにかく「こういう文体で書きたい」という作品を見つけます。
物語の舞台が現代日本以外の場合、時代や世界観の近しい作品を選ぶといいですね。精神浪漫は明治大正時代がモチーフだったので、同じ時代の文豪である夏目漱石を選んだわけです。

脳を「理想文体調」に切りかえる

で、テキスト作業に入る前に、理想文体の作品を読みます。私の場合、虞美人草の1章分を読んでからテキストを書いていました。
これは「自分の普段の話し言葉・書き言葉から、理想文体調に頭を切りかえる作業」です。
これは別に、フレーズを覚えろってことじゃないです。というか、リスペクト・オマージュ以外の目的でフレーズを流用したらパクリなので。
その時代、その身分の人の語尾とか、間のとりかたとか、文章のリズム感とか、リーダやダッシュの頻度とか、時代特有の単語とかを、脳に直感的に刻み付けるための作業です。

私はさらに、時間のある時には「写経」をしていました。要するに、文章を一語一句違わず書き写す作業です。これをやると、理想文体への解像度がぐっと高まります。
ただまあ、私は物書きとゲーム制作者の両方で活動していますが、ゲーム制作一本の人は写経までする余裕はないのかな……? 私の場合は写経すればゲームも小説もレベルアップして一石二鳥なのでやってるんですけど。

こうして事前準備を終えてから、テキストを打ち込んでいきます。

一文は物理的に短く

ここからは、実際の作業での話になります。

一文というのは、文の最初から句点「。」までの単語の集合を指します。
で、一文が短いほど内容は理解しやすいです。
丸から丸までの距離を短くしましょうってことですね。
ですが、テキスト作業中に一文一文の文字数なんか数えてられません。
そこで、一文の長さを物理的に短くしてやります。

自作ゲームの会話画面です。ツクールデフォルトと比較すると、テキスト表示領域がだいぶ小さいのがお分かりいただけると思います。
15文字×3行=45文字。しかし、キリの良い単語の区切りで改行するため、実際に使える文字数はもっと少ないです。
この枠の中に一文を収めるルールにしてしまうんです。そしてテストプレイ時に枠から飛び出していた台詞は修正。
どーーーーしても長台詞になる場合は、ダッシュやリーダーを使って、一回テキストを区切りましょう。

主部と述部はカップリング

以下の文章を読んでみてください。

私は、惣菜の種類の豊富さがテレビで放映されたスーパーに寄るために、一駅前で下車した。

分からなくはないけど、なんかまどろっこしいというか、咀嚼に時間がかかりませんか?
この文章の問題点は「主部と述部が離れすぎている」点です。


主語は「私」、述語は「下車した」です。
離れすぎてるというレベルではなく、最初と最後になっちゃってます。
主語が出てきたら、それを述語をくっつけるために、読者は「私」という単語を脳内にストックします。
それなのに、いつまでも相方である述語がでてこない。
ずーーーーっと情報をストックしてるのって疲れるんですよ。
 
さらにこのテキストは、大きな主語と述語の中に、小さな主語と述語が内包されています。
それは「私」と「寄る」。
これだと、ストックしていた「私」という主語を「寄る」という小さな述語の段階で手放してしまうんですよ。「私」をストックさせすぎたせいで「下車した」という大きな述語まで、読者の「掴む力」が残ってないんです。
まだまだ問題点があって、「豊富さ」という主語が、私、寄る、下車したの間に混ざり込んでいることです。
「私」という単語をストックした状態で、さらに別の主語をストックしなきゃいけないんですね。

じゃあどうすりゃいいんだよって話ですが。
私、寄る、下車したはカップリングしなきゃダメなんです。

あるスーパーがテレビで放映された。惣菜の種類が豊富だという。そのスーパーに寄るために、私は一駅前で下車した。

これでだいぶ、私、寄る、下車したの距離が近づきました。
お気づきかもしれませんが、主部と述部を近づけようとすると、自然と一文が短くなります。
前の項で話した「一文が短い方が理解しやすい」というのは「主部と述部がカップリングされているから」なんですね。
主部と述部が離れちゃってる人は、一文が長すぎるかもしれません。意識的に句点を入れてみると良いかもしれませんね。

要するに、話が長いキャラクターを魅力的に書くには、卓越した技術が必要ってことですね。

「文体調単語」を仕込む

骨組みができたら、テキストの肉づけです。
手軽に肉付けできるツールはふたつ。「当て字」と「時代単語」です。

まずは当て字。
これは無意識に使っている人も多いと思います。夜露死苦ってでてきたら、なんとなく不良っぽいイメージを持ちます。永遠沈黙(エターナル・サイレンス)とかでてきたら、コテコテ西洋RPGっぽくなるでしょう。
この当て字のセンスを磨くためにも、理想文体調作品を事前に読んでおくことが有効なんです。

精神浪漫の場合、「我(プライド)」とか「蒼蠅い(うるさい)」とか「手巾(ハンカチ)」とか「卵糖(カステラ)」とか「中る(あたる)」とかが一例です。ぜーんぶ漱石作品で出てくる当て字です。

テキストに時代感を出すのに、当て字ほど手軽なツールはありません。


お次に「時代単語」。
これは要するに「その時代特有の言葉」「現在の使用頻度は低いけど、理想文体には出てくる単語」のことです。

精神浪漫の例をあげると、こんなかんじ。
「剣呑……危険が迫っている、不安に感じる」
「澆季……乱れた世の中、世の末」
「鴃舌……意味が通じない野蛮人の言葉」
「瑕疵……欠点」

ここで気をつけたいのが、これらの単語を一個だけポンと出すと、「なんじゃらほい?」となるプレイヤーが発生してしまいます。
時代単語は「現在での使用頻度が低い」故に「テキストの時代感を出す」には大きな効果があります。が、同時に「辞書的意味を知っている人が、一般単語より少ない」欠点もあるんです。
なのでなるべく、前後の文脈でおおよそ意味を把握できるようにしてやります。

精神浪漫の「澆季」をれいに出すと、こんなかんじです。

源「ナサニエルの国に軍務を握られるも当然。何故其れが分らぬのか」
忠信「慾深いからでしょう。深い沼に嵌るほど視界は濁ります」
源「この澆季だから、神に己を支配される堕落者が増えるのだ」

どうでしょう。辞書的意味は分からなくても、なんとなく「欲のつきない奴が多いから、神に支配されちゃう人が増えてるって言いたいんだなー」というニュアンスは伝わるんじゃないでしょうか。

この「時代単語」の習得は、当て字よりもパワーを使います。しかしその分、時代単語を盛り込めれば、テキストに説得力が増します。

「当て字」と「時代単語」をふりかけて、物語の人物に息遣いを与えるのです。

終わりに

いかがでしたか?(アフィブログ調テキスト)

なんでこんな記事を書いたのかというと。
創作のノウハウは無防備に垂れ流してほしいなーって思うからです。
「私のノウハウなんて誰も必要としていない」とか考える必要ないです。この情報洪水時代、情報の取捨選択義務は受け取り側にあるんです。
だからどんどんノウハウを披露するべきなんです。

「こんなこと言ってるけど、お前は全然そういう記事書かないじゃん」……ってことに気がついたら書きました。

誰かの役に立ったかは知らん!

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