見出し画像

僕たちの嘘と真実 〜Documentary of 欅坂46〜

の感想を極力ネタバレはしないように注意しながら書いていく。結果、ネタバレはしなかったので安心して読んで欲しい。

まず、「僕たちの嘘と真実」というタイトルについてだが、この映画の中に嘘という嘘は見当たらなかった。映画の中で何かが暴露されたわけではないし、週刊誌の見出しになって大衆の目を引くような何かは無かった。私たちが見てきた欅坂46と映画で描かれていた欅坂46との間に矛盾は全くなかったと思う。

その代わり、真実はよく描かれていた。当たり前だが、芸能界の人たちは誰しも多かれ少なかれ自分を偽ってメディアに登場しているし、メディアの前で100%素の自分でいる人などいない。もちろん、アイドルも例外ではない。しかし、ここで描かれていた「真実」は「欅坂46」という、「虚構」を作るにあたっての彼女たちの葛藤や悩み、苦しみだ。

これらはドキュメンタリー映画という形式でなければフォーカスしにくい部分だろう。欅坂46は「笑わないアイドル」というキャッチコピーが付けられているとはいえ、パフォーマンス以外の場面では愛想良くいることが求められるし、活動の中で感じる葛藤、悩み、苦しみは「大ファン」以外は興味がない。だから、それらにフォーカスを当てた作品を作るには5年という時間を掛けなければ割に合わない。

そろそろ映画の内容の話に入ろう。ネタバレはしないので。

欅坂46は他のアイドルグループとは一線を画しているし、メンバーが入った時に思い描いていた「アイドル像」とは明らかに違っている。そんな欅坂46の「サイレントマジョリティー」で描かれた「新しいアイドル像」は世間の大きな注目を集め、一大現象となった。特にそのセンターを飾った平手友梨奈さんには「大人への反逆者」「新たなカリスマ」などの印象がついてまわった。もちろん、彼女にカリスマ的な凄みがあることは否定しない。

しかし、その重荷は15歳の少女にはあまりにも重すぎたし、他のメンバーにも良からぬ形で影響を与えた。そして彼女たちは「大人への反逆者」というあまりにも大きなものを大人に背負わされた。パフォーマンスは激しさを増していく。その結果、彼女たちは大きな栄光を手にする一方、純粋で優しい心は傷ついていってしまう。それぞれのメンバーがそれぞれの形で葛藤し、悩み、苦しむ。まるで大人たちが少女たちを消費しているように見え、とても悲しい気持ちになった。

とはいえ、私のようにスクリーンの前で涙を流した人たちも、彼女たちを苦しめた一員である。私たちは欅坂46から勇気や元気、活力など様々なものを貰ったし、欅坂46が大好きである。しかし、私たちが欅坂46への熱意を増していくにつれて、彼女たちの身体的、心理的な負担が増していってしまう。もちろんアイドルを熱意を持って応援することは何も悪いことではないしファンが増えていくことはグループにとって望ましい事ではあるが、一方で彼女たちに過度にプレッシャーを掛け、結果的に苦しめることにも繋がる。

もちろん、この映画では彼女たちが「より高み」を目指して活動する姿も描かれている。演出チームやプロデューサーとの入念な話し合いや私たちの想像を絶するような量の練習を重ねながら彼女たちは確実にレベルアップしている。彼女たちは本気でパフォーマンスに取り組んでいるし、本気で悩み苦しむほどパフォーマンスをすることが好きなのだろう。そして愛すべきメンバーたちと妥協することなく、一方でいつも慈しみ、慰め合いながら高みを目指していくのである。

彼女たちは本当によく慰め合う。メンバー一人一人が純粋で優しい心を持っている証拠である。だからこそ、「大人」に振り回されてしまう彼女たちはよく傷ついてしまうのである。時にはその「傷つき」のごくわずかな一部だけが過度に切り取られて良からぬ形で世間に伝わってしまうこともあっただろう。


この映画を見て私が最終的に感じたこと、それは私たちは「真実」のみを見なければならないということだ。もちろん、「真実」を探すことは難しい。きっと私たちの誰にも「真実」にたどり着くことはできないだろう。

だが、「嘘」を除外することはできる。「嘘」に私たちが振り回されてしまうと彼女たちはきっとより傷ついてしまうだろう。アイドルに熱狂することは決して悪いことではないが、私たちが熱狂しすぎて理性的でなくなってしまうと彼女たちを過度に崇拝したり過度に貶めたりすることに繋がってしまうのではないだろうか。「嘘」を嘘だと見抜けなくなってしまうのではないだろうか。私たちが「嘘」を作り出してしまうのではないだろうか。

「大人」はビジネスとしてアイドルを成り立たせないといけない。だから私たち世間の反応をよく気にする。当たり前のことだ。だが、私たちが過度に反応しすぎると必然的に彼女たちを過度に演出せざるを得なくなる。これが彼女たちを葛藤させ、悩ませ、苦しませた原因ではないだろうか。

だからこそ、この映画に「真実」しか描かれていないにもかかわらずタイトルが「僕たちの嘘と真実」であるのではないだろうか。

彼女たちは新しいグループへと生まれ変わる。どんなものを見せてくれるのか、とても楽しみだ。だが、彼女たちの新しい船出がより良いものになるためには私たちも生まれ変わる必要があるのではないだろうか。欅坂46を見てきた私たちなら、それは決して難しいことではないだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?