木洩れ日とミルクティーとハッピーエンド
絶望とは無縁そうだ、と言われたことがある。
わりと最近、付き合いの長い友人から向けられた言葉だ。
その根拠はというと、どうやら私が彼女に言い放ったらしい。
「夕飯が美味しかっただとか、お風呂の温度が最適だったとか、それだけで今日も幸せだったなって思えるんだよね」
思春期の私が友人に何故そんな宣言をしたのかは謎に包まれているのだが、記憶をたどれば言ったような気もする。というか、言ったんだろう。
情緒に振り回されながらも、ぽややんと生きてきた自覚があるし、今でもそう変わらない。
ちいさな幸せを数えるのが好きだ。
たとえば、ぴたりと肌を包む長袖の安心感。
夏の名残を留めた強い陽射しと、いつの間にか淡く褪せた木々の緑。
少し冷たい風が吹けば、木洩れ日がキラキラと輝いて。
駆け出したくなるほどに胸が弾む、そんな幸せ。
たとえば、しとしとと窓越しに響く雨の音。
指先に伝わるマグカップの熱と、優しいミルクティーの香り。
鼻先に当たる蒸気すら心地良くて、ちびちびと口に含めば。
じんわりと温かく胸に広がる、そんな幸せ。
一口に“幸せ”と言っても、いろいろな種類があって。日常に散りばめられた中から見つけられると、嬉しくなる。
だけど、これが有効なのは、心に余裕のあるときだ。ダメな時はダメ。心底ぐったりしちゃえば、幸せを探す気すら起こらない。
あーあ。なんか良いことないかな。なんて、ソファに転がりながら管を撒く時間の虚無感といったら……。
そんなとき、開くだけでお手軽に、各種の幸せを味わえてしまう、夢のような本が出るんです!!
はい、こちら。
主催の志信様より、ツイートをお借りしました。
Anthologia ‐約束されしハッピーエンドアンソロジー‐
いいですよね、ハッピーエンド。
世の中、捨てたもんじゃないぜ! みたいな気分になりません?
お願いします、助けてください、彼らを応援しながらここまで読んできたんです、この気持ちを無碍にしないでくださ……うわあああああああ、絶望。
なんてこともね、本を読んでいれば日常茶飯事ですよ。
もちろん、ハッピーエンドじゃない傑作だって星の数ほどある。そこに、異論はない。
だけど、今は元気になれるお話が読みたかったなぁ。キラキラハッピーとか、じんわり幸せとか、そういうのを求めてるんですってときに。
安心して読める物語、いかがですか?
花をテーマにしたアンソロってだけで心惹かれるのに、ハッピーエンドが約束されているんですよ。
私も参加させていただきまして、一足お先に皆さまの作品を拝読しましたが、読後感最高。にやけ顔で読んでいる自覚はあっても、表情筋が戻ってくれません。挙句の果てには、堪えきれず、くぐもった声を上げながら顔を覆う始末。
試し読み公開中ですので、そちらもぜひご覧ください。
以下、雰囲気だけでもお伝えできればと思い、試し読みの感想と全体の印象をさらっとまとめてみました。
夏に咲く花 / 蒼木 遥か
冒頭から匂い立つような、夏が纏う生と死の気配。
本当に来るのか、会えるのか、すごく気がかりでも本人には聞けない。それを乙女心の一言では片づけられないような事情が明かされて、はらはらしますよね。しかも、この美冬ちゃん、話が進めば進むほど健気で応援したくなるんですよ。ハッピーエンドを噛みしめずにはいられません。
「夏に咲く花」、本編読了後にぜひ検索していただきたい。透きとおった物語の空気感に、とてもよく似合うお花です。
ナーラライネンの花巫女 / 青柳 朔
花巫女だとか龍花だとか呪いだとか、もう心躍る躍る。と、テンション高く読み始めたら、呪いの重さに愕然としました。幾通りものバッドエンドが頭をよぎる中、聡明な王と無垢な花巫女の迎えるハッピーエンドがどんなものなのか。やはり、最後まで心躍ります。あと、個人的に好きな台詞がありまして。読まれた方の反応が、今から楽しみです。
美しい神話のような雰囲気とそこで息づく彼らの感情、繊細かつ重厚な物語が楽しめます。
本から摘んだ花を君に。 / 空代
真摯な様子でノートに書いているもの、中学から続くやりとり、これだけでユウさんや先輩の人柄が感じられて胸が温かくなります。しーちゃんも最高にかっこいいお友達なんですよ。
そして、タイトルに惹かれた方。読了後はよりいっそう胸に響くので、ぜひ本編も読んでいただきたい。こういう、言葉の使い方の美しさが、全体を通して楽しめます。
可愛くてにこにこしつつ、背筋が伸びるような。ひとつひとつ丁寧に紡がれていく、優しいお話です。
きみの夢が終わるまで / 五十鈴 スミレ
出だしから、ひゃん! ってなりますね。これぞ、紛うことなきイチャイチャ。読みながら照れてしまうほどの、相思相愛。既にハッピー。と思いきや、不穏な影がちらつくじゃないですか。「前世」に何があったの? 『彼』とは、いったい? 前世ってもうそれだけでロマンを感じるのに、訳ありときた。続きが気になって、一息に読んでしまいました。
目指すのは、そして結末は、誰にとってのハッピーエンドなのか。読み応えがあり、スパイスの効いた甘さと愛おしさを味わえます。
朝陽をそそぐ / きづき
妙な力のせいで疎まれて、ひっそり生きている少女が主人公のお話です。
立場の違う二人を待ち受ける運命、そして彼らの選んだ道とは。
試し読みは笑っちゃうほど暗いところで終わっていますが、ハッピーエンドです。
ニセモノカサブランカ / 清久 志信
登場シーンから弥紘くんに心奪われたそこの貴方。奇遇ですね、私もです。気が合ったよしみでご忠告しますが、こんなものじゃないですよ。ナツちゃんが抱えるコンプレックスに眉を下げ、恋する乙女の奮闘ぶりがリアルで胸を痛めていたはずが、気づけばニヤニヤが止まらなくなってますから。恋愛っていいなー! と、思わず大の字で天井を見上げました。
年の差幼馴染の掛け合いは可愛いを通り越して尊ささえ感じられ、めちゃんこウルトラハッピーになれるお話です。
月光のシンデレラと花魔女のキス / 千 花鶏
花魔女、煉瓦造りの学舎、鳥かごの形をした温室。なんとも心ときめく世界観。加えて、リアさんをはじめ登場人物たちも、皆もれなく魅力的なんです。そんな彼らが織りなす微笑ましいやりとり、息を飲む展開。すべてが見事に、鮮やかに描き出され、ものすごく惹き込まれました。
ファンタジーに仕事に恋に、お楽しみ要素が盛りだくさんで、読了後にはずっと読んでいたかったという名残惜しさと、素敵な世界を堪能したなあという充足感に浸れます。
万年雪の少女 / 七篠 空木
衝撃。約束されしハッピーエンドで、こんな始まり方をするなんて誰が想像します? でも、もう面白いじゃないですか。隆史くんのツッコミが、冴えわたってるじゃないですか。この感じ好きだわという方は最後まで間違いなく楽しめますし、冒頭でぎょっとした方も安心して読み進められます。
ここから、彼と一緒に読者も翻弄されていくわけですが、たくさん笑っちゃいました。小気味良いテンポが楽しく、一生懸命な彼らの姿が可愛く、爽やかな気分が胸に広がるお話です。
ティータイムは星の花を添えて / りつか
ハピエンアンソロにぴったりな、キラキラ感。おまけに美味しそうなものが出てくると、それだけで幸せになれる気がします。さらりと女子を誘えてしまうユールくんが、「――可愛い。」と即座に思う女の子と出会い、どうなっていくのか。飄々としているようで実は……というの、皆様お好きでしょう? 私は大好きです。それはもう、にまにましながら読みました。
綺麗な描写のひとつひとつが世界を彩っていて、その素敵な世界と真っすぐな登場人物たちに癒されます。
以上、九つのハッピーエンドをお送りいたします。
読後の幸福感にも、テーマである花の使い方にも、それぞれ個性が感じられて、お楽しみいただけると思います。
そして、こちらもご覧ください!
志信様が作られた、各作品のロゴです!!
可愛さも然ることながら、お話に登場するものたちで飾られ、どれも物語の雰囲気にぴったりなんです。
気になる作品を探す一助にするも良し、読み終えてから「これは、あの部分を表してるのかな」と見返すも良し。本当、見る度に細かいところまで凝ってらっしゃるのが分かって、感嘆の息が漏れます。
可愛いしか言ってない
ご指摘ごもっとも。返す言葉もございませんが、敢えて言いましょう。
可愛いの、マジで。
まず、碧無瑠恩様が描かれた表紙からして可愛いでしょう? 見てください、この華やかで麗しく、優しさと幸せ溢れる装画を。……えっ!? めっちゃ可愛い。色使いとか影の感じとか、すごくないですか。手の形もやわらかで、そして何より表情が可愛い。あ、また言っちゃった。でも、この想い合っていることが伝わってくるような、見ているこちらまで幸せにしてくれる笑顔、たまりません。
そして、中には色とりどりの幸せが詰まっているんですよ。物語で栄養補給されるタイプの方には、本当にお勧めです。
この中に名前を連ねさせていただいたこと、光栄の極みではありますが。そうじゃなくとも、物語の中でくらい報われてくれと祈らずにはいられない一読者として、お勧め。
上記ツイート、または下記公式サイトから。
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