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子どもが出てくる映画の話をしよう⑲嘘をつくひとびと『怪物』

最初な、つらかってん。
と、なぜか関西言葉ではじめてしまう。


カンヌ映画祭で脚本賞を受賞した、あの、例の、話題の、是枝監督の映画『怪物』を見たときの話。
是枝監督の作品で、とくに子どもが出てくる映画は好物だ。
なにしろ子どもに演技感がない。
基本脚本を見せないという監督の話は有名で、それでなしとげる日本の子役がすごいのか、瞬間瞬間を逃さない監督がすごいのかわからないが、どれもすばらしい。
『万引き家族』も、とくに最後の安藤サクラさんは圧巻だったけれど、やっぱり少年少女のとこはよかったよね。が、正直にいってしまおう。我はフルで『万引き家族』を見ていない。劇場であの映画を見たとき、ぬゎんと我は・・・

お腹をこわしていたのである。

途中でどうにもガマンができなくなり、観客席をぬけた。戻ってきたときには海辺で樹木希林さんが、何か話していた。(このエピが5分程度ぬけている)
なんたる失態。(しかも、たまにあるのだ)

という次第で、それ以来我は、劇場で席を予約するときは、なるべく出入口に近いところに座ることにしている。
そして今回『怪物』を見はじめると、最初からなんだかお腹の中がもやもやしていた。
む。これは。
さっそく出てきたのは、安藤サクラだし永山瑛太だし田中裕子なのに。
本来、役者の名前で見るほうではないけれど、出てくるとやっぱり身をのりだしてしまう役者さんたちである。
さらに! 脚本は『大豆田とわ子と3人の元夫』を書いたあの坂元祐二氏ときた。
カンヌだろうがなかろうが、一瞬も見逃したくない。
なのに、なんだか胃のあたりが、つらい。これはまた緊急脱出することになるのか・・と思いつつ、なんとか序盤をもちこたえると・・
嘘みたいに 胃のつらさが抜けてトイレにかけこむこともなく、最後まで堪能しきった! ま、これが普通の観客の皆様ですがね。

たぶん、今回は心理的な胃の痛みだったらしい。
最初がつらかったのよ。
誰もが守るべきものがあり、そのために嘘をついていた。自分をこらえて。その痛みが、知らず知らずのうちに伝染していたのかもしれない。
いやいや、そこまで洞察力豊かな観客ではない我だから、我が身をふりかえり、自分の中にあるごまかしを突き付けられた気になって薄々逃げだしたい思いになっていたのだろう。
と、ここまでは、オトナの話。

独断と偏見でいえば、これは子どもの映画だ。
我は、子どもが純粋だとか、まったく思わない。
ときには、大人よりも嘘つきだし、それを必死でごまかそうとする。
でも、大人じゃないからうまくできない。言葉も態度も。どうしていいかわからなくなる。時には自分にさえ嘘をつく。
けれど、
誰かがそばにいれば。
助け合うとか、励ましあうとか、そんなことしない。
別々にもがきながら、ただ一緒にたわむれ、目線をかわし、光に向かって走りだす子どもたちの姿に、我はすっかり胃の痛みを忘れて見入っていた。

やっぱりいいんだよ、子どもたちが。
黒川想矢くん。美形。でも関係ない。こらえた演技がすごい。
柊木陽太くん。君の笑顔にみんなが救われた。
あとで何かで監督のコメントを見たか聞いたかした。二人が演技をしながら変わっていく・・みたいにいっていた。(違っていたら失礼)
子どもは、成長する。
大人が役割とか立場とか、キャラクターとか、やがて身に着けたそういうものに自分を押し込んでいるあいだに、何者でもない子どもは、成長していく。
ああ、これにはかなわない。

大人になって、どんなに望んでもなれないもの。
それは、子どもになること。
でも、まあ、それも良としよう。
後ろを向いて 前に歩くことはできないし。

タイトル画像は「みんなのギャラリー」からお借りしました。Thanks!









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